「それじゃ、ジョージさんの館へ行こう。お前にとっては辛い目に会うかも知れないが、耐えられるよな?」
「はい、ナルシュのためなら」
躊躇なく答えるマリアの想い人に一瞥をくれ、俺たちは移動した。
館に着くと既に用意は出来ているみたいだった。
「竜さんから事情は聴いてるわ、あなたも大変ね。じゃあ、服を脱いでそこに横になってね。心配はいらないわ」
俺たちは、白衣を着た猫耳の美人さんに案内されて診察台のある部屋にいた。
俺が上着を脱いで診察台に上がろうとすると、邪険に俺を押しのけてマリアに早くしろと促した。
「邪魔よ、竜さん。おどきなさい!」
(あの塩対応は、ネコさんだよなぁ?)
「はい、身体の反応を診るから、チクッとするかも知れないけど我慢してね。足からやるわね。心配はいらないわ、痕が残るようなことはないからね」
「痛っ」
銀の針を足に刺されびっくりしたマリアが、眉根を寄せて耐える。ネコさんはマリアの様子と測定器の数値を確認しながら、足から始めて徐々に敏感で微妙な場所に刺激を与えていく。
俺も測定器のモニタらしき物をのぞいてみたが、様々な数値や図形がマリアの反応に合わせて変化しているが、よくわからなかった。
「じゃ、これを飲んでみて」
「わぁー、甘くて美味しい」
ふうーん?
「うわっ、これ。苦ーい」
「では、こっちを食べて見て」
「えっ、辛いのは苦手で」
マリアから離れて見守る俺の方まで香辛料のキツイ香りが漂ってくる。
「我慢しなさい、惚れた男のためでしょ!」
「うっ、はい」
マリアは白い粒状の物体に黄色い粘液が掛かったモノをスプーンでひとさし掬うと、意を決して口に入れる。舌が痺れ、喉が焼かれた後に得も言われぬうま味が感じられる。
「うわ、辛い、けど美味しい。な、何なのぉ!」
「ふむ、もう充分ね、いいわ」
「えっ、もっと欲しい」
「反応チェックは終わったの、お互い時間がないのよ。次の段階に進むわよ!」
「基礎的な情報は取れたわ。竜さん、お待ちかねのご褒美タイムよ。始めなさい」
「なんだよ」
いつの間にか、現れたマリアに似たというかマリアにそっくりな女が俺の服を脱がしていく。不思議な香りが、室内に立ち込め、気持ちが高ぶっていく。
一時間ほどで、部屋が桃色の空気に染まった。俺とマリアにそっくりな女(紛らわしいので偽マリアとでも呼ぶか)の間には気だるい雰囲気と一種の気安さが漂っていた。
「今度は、もっとゆっくりしましょうね。ア、ナ、タ」
「ああ、またな」
俺は手早く着替えると、ネコさんのいるモニタ室に向かった。
「ネコさん、例の準備は整ったでいいのかな?」
「ええ、十分データは取れたわ。あなたは結構、責めるのがお好きみたいね、見直したわ。今度、どう?」
「いや、俺の嗜好データじゃなくてマリアの方だよ。肝心の、あっちはどうなんだ?」
ネコさんは、モニタを示しながら妖しい笑みを浮かべながら説明してくれた。
「ええ、偽マリアへの感情、身体反応データの転送と学習は成功よ。それはあなたが良く知っているでしょ?」
「え、えーと。途中でマリアとしているみたいだったな。あれが、そう言うことなのか」「そう、竜さんが見せてくれた向こうの世界のディープラーニング技術を今回応用させてもらったので大幅に学習時間が短縮できたわ」
以前ネコさんにスマフォで、人工知能の学習に関する研究関連の論文データを見せたことがあったけど、あの一瞬で全て記憶したんだろうな。
儀式というか、データ取りと学習が無事終了し、俺たちは娼館へと向かった。帰路、俺は偽マリアとの学習を思い出していた。
あの部屋で俺は、偽マリアと様々な愛の行為を行った。それこそ一般的なものからいろいろな趣味のものまで。
最初はぎこちなかった偽マリアの反応はものの五分もしないうちにマリアそのものになっていた。
マリアの視点を表示したモニタでは、様々な姿態をとる二人の姿が余すところなく映し出されていた。その横の計測器ではマリアの反応を示すグラフが、徐々に上昇し後半は最高値付近を維持していた。
ま、いい点を付けてくれたってことだよな?
「この娘は、マスタに造って貰ったあなたの分身よ。心配しないでマスタはお気に入りのあいつ以外のホムンクルスをこの世に残す気はないみたいなの・・・
そうね、二十四時間も我慢すれば消えてしまう、つかの間の幻。あなたに取って代わるようなことはないわ。
だから、恥ずかしがらずに受け入れて、全てを目を閉じずに見ていなさい!」
「では、竜さん。始めなさい」
「お、おう。しかし、ネコさんに見られるのは何だか恥ずかしいな。後で何点だったか教えてくれよ」
ネコさんの事務的な開始の指示に、俺は緊張を解すかのように軽口をたたく。
、
「ふう。とにかく終わった」
俺の鋼のメンタルも大分擦り減った。
娼館のいつもの部屋に顔を出すと、ナルシュと少女がいた。
「おお、竜殿。戻られたか、生憎マリアは用事でどっかに出掛けているんだが」
「そうか、じゃあ。我らで先に楽しんでいるか。そうだな、ヒナギクと言ったか?例の部屋に二人用意しておくよう、店の者に伝えてこい」
ヒナギクは、小走りに出ていった。