(くっくっ、予想外に部品の回収が進んでしまったが。なに、この肝心の胴体さえ押さえていれば何も問題無いわ)
両足の付け根の間を厭らしく弄びながら女が嘯いた。その抜き取った手の指にはとろりとした蜜が濡れ光っている。女は蜜を大事そうに透明な瓶に満たしていった。 『我、キュルソンが命ずる。魔界序列二位、三一の軍団を指揮する大公爵アガレスよ我の求めにより姿を現せ!』
濁った泥水が噴出するとやがてワニに跨った老人が現れた。その右手には鷹が乗っており鋭い視線を召喚者に向けていた。
『我を呼び出すのは伝説のホムンクルス以外にないと思うておったが、何故其方の様な小娘に呼ばれねばならぬのだ!」
『ふふ、年を召されて耄碌されたかな、それとも欲望に突き動かされるほど若い証拠か?ならば息災でなによりじゃ』
女は輝く胴体から採取した蜜を蓄えた瓶をあからさまに翳して老魔人を揶揄した。 『おお、それは伝説のホムンクルス殿の蜜か。何とも魅力的で刺激的、破壊的な香りじゃ』
『これで、お前を召喚で来た訳は理解できただろう。我に従えば、其方の欲しいものが手に入る、これ以上語る言葉も要らぬはずよのう』
『たしかに、それが手に入れば悲願の大魔術を起動しかの×××をわが手にするのも容易い。少々、業腹ではあるがしばしそちの願いを聞こう』
不思議なことに空中に一人の男の姿が浮かびあがる。
『伝説のホムンクルスに味方するこの男が厄介なのだ。数々の人間ども、いや魔獣すら、致死に至る攻撃が決まったにも関わらず・・・・・・
次の瞬間には、この男キールに対して成された攻撃が全て跳ね返され実行者は殺されてしまうのだ。
この者、キールが伝説のホムンクルス、ソローンに与する限り我の野望を邪魔立てする。
故にこの男の謎と手段を授けたまえ、アガレス!』
ワニに跨った老人は、右手の鷹を宙に放つと何やら呪文を唱えると鷹は数羽に別れるとやがて姿を消してしまった。数分の時が経った頃、数羽の鷹が一つになると一言、二言告げると右手の上に戻ったが、彼らの会話はキュルソンには理解できなかった。
『ふむ、厄介な奴が敵に回ったものよ。だが、我には容易いこと。
かの者はこの世界に生を受けた者に非ず、またこの世界に死す者でもない』 『な、なんと異世界から来た者と申すか?』
『さよう、故にこの世界に印を残すかの者の縁者を呼び寄せ、使い魔とすればかの者を殺すことも可能となる道理よ。
我の力で、時を経た時代からかの者の縁者を呼び寄せてやろう。その後は其方の仕事よ。それ、受け取れ!』
一人の少女が現れキュルソンの前に跪いた。
(この少女が、キールのこの世界に残す子孫か。たしかに面影があの男に似ている) 『では、我は対価を頂くが良いな、さらばじゃ?』
アガレスは、キュルソンの手から蜜の入った瓶を奪うと煙と共に消えていった。 『相変わらずせっかちな老人ね。
だが、凄まじきかな時の先からキールの縁者を連れて来るとは。これでアタイの邪魔が出来る唯一の者への対抗手段も手に入れた。
ふふ、待ちどうしいぞソローン!』