ハナ王国の第二王子ナルシュは、正面に座った乱導 竜をしばらく値踏みするように見やると、おもむろに語りだした。
俺の国は、知っての通り南の大陸とは呼ばれているが実態は南北に伸びた少し大きな島の集まり、群島だ。
産業も漁業が中心で、作物の多くは隣の大陸からの輸入に頼っている。
「隣と言っても、ナッキオ群島の北に位置するユスキュー大陸のことよ。そこを統治しているのはマサツ王国、大きな大根や馬が名産ね。まあ、米やその他の作物も大体作っているわね」
マリアが、この国から出たことの無い竜の為に簡単に補足してくれた。
「この世界は、五大陸(正確には四大陸一群島)から成っており北からアイドコ大陸、キョトー大陸(今私たちがいる大陸ですね)、カオス大陸、ユスキュー大陸、そしてナルシュの国があるナッキオ群島です。それぞれの特徴については、機会があればお教えしましょう」
「旅をしていて、気付いた俺の国は貧しい。貧しさに負けて子供を売る親も多い。俺はそんな国を変えたい、そのためには魚取りや猟だけじゃだめだ。
だから、この国で知った仮想通貨を俺の国にも流行らせたい。重量や嵩張る、物々交換や金貨、銀貨じゃあダメなんだ。
どうか、俺に、力を貸してくれ。このとおりだ!」
ナルシュ王子は、深々と頭を下げた。
竜は一国の王子が頭を下げるということを気にする風でもなく、その覚悟を問う。
「大凡《おおよそ》の話はわかった。だが、力を貸すには見返りが欲しいところだが。お前は何を望み、何を差し出す?」
「それこそ俺が聞きたい。俺に出来ることなら何でも」
「ふふっ。システム的にも、心情的にもお前の覚悟と適性を見る必要があるな。しばらく俺と一緒にいろいろやって貰うぞ。よいな、ナルシュ!」
「委細承知」
(ナ、ナルシュ様、しかし覚悟を決めた殿方に女子が何を言うても始まりますまい。どうか、御無事で)
「さっそく出掛けるぞ、ナルシュ」
「はい、竜殿。マリア、世話になったな」
「ナルシュ様、夕餉の支度をして待って居りまする」
「おお、そうだ。俺の相方に別嬪さんを用意しといてくれよ」
竜は、何でもないようにマリアに注文を付けるとナルシュを引き連れ出ていった。
「そろそろ、頃合いだな」
わー、た、たすけてー。
森の奥の方から悲鳴が、だんだん近づいて来る。
黒いシャム猫が草むらから脱兎のごとく飛び掛かると、竜の腿に爪を立てながら背中側から肩によじ登ると溜息を吐いた。
「ご、ご主人、相変わらず猫使いが荒いにゃ。なんとか、誘き寄せたにゃ、もう勘弁して欲しいにゃ。次からは楽をさせてにゃ」
「猫がしゃべった?もしかして、それは竜殿の使い魔か?」
「まあ、そんなところだ。それよりも準備しろよ、あんまり時間は無いぞ」
間もなくすると、大きな狼が群れを成して襲って来た。
「ナルシュ、腰の剣が飾りで無いところを見せて見よ」
「くっ、狼?いや、狼に似た魔物だ。だが、臆するな、南海の虎と呼ばれた俺に敵うものなど、無い!」
ナルシュの鼓動が高まった、剣を抜くと構えずに振り抜いた。
正面から、ナルシュを襲った狼の魔物は一刀の下に両断された。
「銭投げ《スピンターン》、スピンターン、スピンターン!」
竜の手から、光を纏ったコインが狼のような魔物の往く手を阻む。
「ナルシュ、サービスだ。最初だからな、ニ対一にはならないように牽制してやる。本当は、金がもったいないが貸しだぞ!」
くっ。勝手言いやがって。しかし、なんだアレは。光るコインが当たると狼のような魔物が痙攣を起こして暫く動けなくなるらしい。不思議な技だ。
ようやく三頭目の魔物を仕留めたナルシュは一息吐きながら、竜の闘いを眺める。
「暇そうだな、じゃあ二頭、そっちに行くぞ」
右から襲い掛かる魔物を左に避けながら、剣の柄で払いながら左から飛び掛かって来た魔物の首を切り捨てる。
先ほどの魔物は、身を低くしていたがやがて吠えながら炎をナルシュの膝に向けて吐いた。
「おっ、と」
「馬鹿、仕方ねえ。一万霊子《レイス》、金の劔《マネーソード》!」
竜は、いつの間にか出現した黄金に輝く剣をナルシュの前に投げた。黄金の剣は回転しながらナルシュの前まで来ると迫る炎を魔物に弾き返した。
うおーん。
己が吐いた炎を浴びて、もがき苦しむ魔物。
「たー!」
ナルシュの前に走り寄ってきた竜は、回転する黄金の剣を掴むと横一閃、魔物を両断した。
「ふうぅ。まあ。なかなかの腕だな。じゃあ、さっそく確認いってみようか!」
「ほら、アカウントオープンって言えよ」
「ああ、そうか?アカウントオープン」
ナルシュの脳裏に、数字が浮かび上がった。
「ほう、五000霊子とは、やるねえ。こっちは、三000霊子の赤字だって言うのによ」
「竜殿、さっきのコインを投げる攻撃、それにその金色の剣は?炎を防いだり、来るときは剣など持っていなかったじゃないか?」
「まあな、銭投げ《スピンターン》に金の劔《マネーソード》、これが俺の力だ。使うと口座の残高が減るのが玉に瑕だけどな。で、魔物を倒すと魔物の価値だけ口座の残高が増えるって寸法だ。
ま、帰って酒でも飲みながら反省会だな」