「なんてこった。このままじゃ、この機体が保たないぜ。折角変形合体した巨大ロボットだって言うのに・・・ ・・・」
乱導 竜は悔しそうに操縦桿から手を離した。
融合一型《フュージョン・タイプ・ワン》がソローンの攻撃に耐えきれず爆発した。
『所詮、ロボットと言っても髑髏だけじゃたかが知れている。さらばだ、乱導 竜!』
「くっ、リュラーン!」
「ふむ、まだ皇子の生体反応はありますね。(しぶといわね)」
詐欺魚雷の一号機と二号機が損傷多数で格納庫に帰還した。残念ながら三号機は逃走を助けるため、派手に破片を撒き散らせて爆発消失したのだった。
「あいてて、ソローンの奴容赦ないよな。こっちは殺ってないって言ってるのに、聞く耳持たないし ・・・ ・・・ 」
「リュラーン、傷の手当てを」
「大丈夫だ、姉さん。それよりも、あいつの怒りを何とかしないと」
駆け寄る月の女王が器用に竜の負傷した左手に包帯を巻いていく。
「もう、こうなったら ・・・ ・・・」
「そうね、アラク。もう、ホムンクルスと刺し違えるしかないわね」
見つめ合う主従の決意に理解が追い付いていない竜が首を傾げる。
「それって。姉さん、どういうことだ?」
「月の運動エネルギーで、あのホムンクルスを成敗します! アラク、火星へ向けて発進!」
「了解、我が主」
月が地球周回軌道からゆっくりと火星へと針路を変えた。といってもホムンクルスが付いて来れる程度という意味で、実は光速の三分の一の凄まじい速度であった。
「我が主、速度三分の一光速、火星衝突まで約十二分です」
「姉さん、確かに火星くらいなくなっても大した影響はないけど・・・・・・
それにアラク、月がなくなったら失業するじゃないか二人とも考え直せ!」
「リュラーン、頑迷なホムンクルスにこれ以上何を言っても無駄です。かくなる上は無礼打ちにいたしましょう!」
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『な、なんだ? 星の巡りが変化した?いったい、これは?
おっ、地球が小さくなっていく。なんだ、替わりに大きくなってきた赤茶けた星は?』
「ふっ、言って聞かない餓鬼には。お仕置きをするのが大人の務め故、火星に叩き付けて伸してあげましょう。
まあ、火星《戦星》で眠るなら争い好きのホムンクルスとしては本望でしょう? ふふっ」
『おのれ、月の女王!本性を現したな。だがこのソローン、お前の陰謀術策では死なん!
魔導の秘術を全て繰り出しても、お前の首を必ず貰い受ける!』
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「おーい船長、いまからそっちで天体ショーが始まるから適切な距離を取って観測でも撮影でもしてくれ。まあ、あの魚雷の礼だとでも思ってくれ。じゃあな」
超巨大宇宙船の船主《オーナー》、兆利人からの通信が一方的に切られた。
「船長、月が物凄い速度で火星衝突コースに入りました。衝突までおよそ三分です」 「副長、周回軌道を離脱、木星との中間点まで移動。防御スクリーン展開、各観測機器は火星周辺を監視せよ」
「了解、木星中間点に進路をとり、火星周辺の観測開始します。しかし彼らに何があったのでしょうか?とても興味深い」
「全くわからんが、彼らなりに一応警告してくれたことに感謝しておこう」
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『うーむ。このまま火星に大人しく叩き付けられてやると思うな。
その前にこのまやかしの月ごと月の女王を葬り去ってやる!』
ホムンクルスの周囲に暗黒の力が集まり出すとそれは虹色の光りを発して月へ殺到した。
突如現れた黄金の鎧武者がその巨大な盾を犠牲にして、虹色の光の軌道を月から逸らした。
「ふうっ。なんとか間に合ったぜ、黄金の矛盾《スィラーフ・ディルア》を出すのなんか久しぶりなんでいろいろ思い出すのに時間が掛ったがギリだったな、ムガット助かったよ」
『・・・・・・ ムガット』
竜の労いに、右肩に乗る他人からは見えないウジ型ホムンクルスが無口に応えるところまでが通常営業だ。
「火星衝突まで、残り三十秒!」