宇宙は限りなく広い。現状確認されている宇宙の大きさはまさに広大無限と人々に錯覚させる、宇宙の中心からその端までを光の速さで移動しても四六五億年以上の歳月が掛かることが主たる原因である。
俺たちが乗っている宇宙船:太陽系《マンズーマ・シャムセイヤ》は長大な距離を航行する必要性からその速さは軽く光速をぶっちぎっている。このため、宇宙船内の時間と他の恒星系等の時間に下手すると何万年の誤差が出てしまう。これを解決するために俺はある人にお願いした。
ジョージタウンの研究室で悪戦苦悩する人、いやシャム猫がいた。
「もう、今世紀最大級の無茶ぶりをしてくれたわね、竜さんも。こんな空間が縮じむとか時間が遅れるとかって何よ!たかだか光より速く動いたくらいで、ガタつくんじゃないわよ。そもそも、おかしいでしょう。こんな話二百年前にはなかったはずよ。光より速い物はないとかって詐欺以外の何物でもないでしょうが!」
「ああ、ネコさん。ごめん、いろいろ無理を言ってしまって」
俺は、無理難題の解決に泣きついたネコさんに惑星カサンドラの名産ホタルクジラの刺身を差し出すと平謝りにご機嫌をとった。
「ちょっとこれでも食べて、機嫌を直してよ。あ、照明を暗くした方がムードが出るよ」
「な、何よ。今頃になって口説こうなんて。え?刺身がほんのりと光っている、綺麗ね。あ、口の中で蕩けるこの脂の風味。う、美味しい。身体の細胞が死と再生のリズムを超えてなんという瑞々しいまでの生命力が漲るようね」
「ふう、あの星の名産は伊達じゃ無かったようで。気に入って貰えてよかったよ」
しばし、ネコさんは忘我の境地を彷徨っていた。そして、再起動と共に猛然とシミュレーションの検証を再開した。
「は、はあ、宇宙船の時間が遅れようが、やあ、空間が縮もうが因果は既に決定されているつまり過去に向かって因果を目標にしてブロックチェーンのデータを更新すればいいのよ。魂の絆を因果で結べば、データの綻びは解消される。そう、霊子はブロックチェーン(魂の絆)を因果で結び距離と時間を超越する。今こそ、ここに霊子ヴァージョン三.0が誕生したのよ!」
「もしかして、できたのか。恒星間航行時の超光速航行でも取引を継続できる宇宙対応の仮想通貨が誕生したのか?」
「そうね、いま最終段階のシミュレーションを実施中よ。宇宙船:太陽系の最高速度で取引が出来るかどうか。しばらく検証してみないことには。それと、ホタルクジラの補充よろしくね、出来れば一頭丸ごとで!」
「うっ、まあわかったよ。何とか手配する」
その翌日、ペネロペの執務室を俺たちは訪れた。
「・・・・・・ニャー」
「まあ、カサンドラたら。今まで何処に言っていたの?」
ペネロペが膝に飛び乗った白いペルシャ猫の頭を撫ぜながら会釈した。
「今回はお騒がせいたしました。大事な異星からのお客様の滞在中に、アランとスコットの両名が喧嘩で命を落とすなどという接待役としてはあるまじき失態でした。どうか、お許しください」
「まあ、驚きましたが。我々にはとっても有意義な訪問となりました。どうかお気になさらずに」
「ありがとうございます。何かご入用のものがございましたら、遠慮なく仰ってくださいな」
「はい、でしたらあの魚を一匹買い取らせてください。超光速航行中の取引実験を兼ねさせて貰います、実際の支払いは出発後になりますが・・・・・・」
「ええけっこうですわ。良いご旅行を」
「はいペネロペさん、これからもよろしく。ああ、それにカサンドラもな」
「ニャー」