赤い液体が、周囲に飛び散っていった。赤いドレスを着た若い女性が倒れていた。 なぜだか、解らないがその光景を見るたびに涙が溢れてくる。
「ああー」
思わず声が出てしまったかも知れない、しかし夢の中だから気にしない。ただ、赤いドレスが所々焼け焦げたようになっているのが気になり、心を不安にさせる。
たぶん、これは夢だと判っている。だから、安心して泣いていられる。現実の世界でもしも泣いてしまったら、あいつに馬鹿にされるだろうということが判るから。
何時からだろう、この世界の異常性に気付いたのは。きっかけは、何だったのか今では思い出せない。いや、たしかあれは・・・・・・
そう、世界の異常性に気付いたのは、馬車に跳ねられて死んだ子供が三日後、同じ街に再び現れたからだ。
偶々、馬車に子供が跳ねられるの目撃したのが印象に残ったため、その大き目の道路が気になって何日か、気が向いたらそこに出掛けていて暫く辺りを眺める日々を過ごしていた。
そして、ちょうど事故から三日後、その街の道路を家に向かって走る子供の姿を見てしまったのだ。
最初は、他人の空似かとも思ったが気になって家まで後を追っていくと、確かに三日前に馬車に跳ねられて死んだ子供の家に入って行ったのだ。
子供が入った家は確かに、事故で死んだ子供の家だった。なぜ、断言できるかというと事故があった日、職業病(野次馬根性と言われるかもしれないが)で死んだ子供が家に運ばれるまであとを着けてしまったからだ。
もしかしたら、双子とか年の近い兄弟かも知れないので聞き込みをしたところ衝撃の事実を知ってしまった。
その家の子供は一人っ子だった、そして件《くだん》の子供が親戚とかが遊びに来ているのでもなく、その家の子供だった。
というよりも、馬車に子供が跳ねられたという事故そのものが無かったことになっていた。背筋が冷たくなるような、少しわくわくするような不思議な感覚に捕らわれた。
色々な仮説を考え、検証していくうちにこの状況を把握しているのは今のところ俺だけのようだ。だが、この世界は異常だ。何もかも。だから、この世界を俺は観測しなければならない。
そう言えば、シャム猫なんか飼った覚えもないが、最近よく膝に乗ってきたり足に頭を擦り付けられている気がする。
まあ、研究で忙しいので気晴らしにAR《拡張現実》ソフトで猫を見て癒されていたからそんな変な気になったのだろうか?
この世界は、異常だ。死人が、まるでゲームのリボーンのように、つまり死んだらもう一度やり直せるような状態になる。
そして、少ない確率であるが死んだものと、新たにこの世界に来たものが全くの別人の場合があるのだ。
とても、興味深い。理由も法則もまだ掴めていないが、もしかしたら、失ったあの人にもう一度逢えるかも知れない。
この世界は、異常だ。
この研究を継続するには、やはり助手が必要だ。それも、人間性を持たない正確で冷酷な機械のような、だから俺は人造人間《ホムンクルス》を造ることにした。
幸い、時間と設備は整っている。
「ふう」
俺は、ひとつ溜息を吐くと極秘の研究ノートを閉じた。これだけは、データに残さずに手書きのノートに書き留めている。
「マスター、コーヒーをお持ちしました」
「ああ、ソローンありがとう」