スカーレットの心の平安を取り戻すには、奴らに制裁を加えなくてはならない。だが、本当にそんなことをして良いのだろうか。人が人を裁くのが正しいことなのか。
「くそっ、折角スケジュールの調整がついたというのに。まだわしが味わい尽くす前に海の藻屑と消えたかスカーレットめ。最後までわしの意向に逆らいおって。まあ、売国奴の末路など哀れなものよ」
「左様でございますな、凄腕M&Aアドバイザと世間でもてはやされていても政府に逆らっての所業の数々、女狐の化けの皮が剥がれたのでございましょう。これは、献金とは別枠でございます、どうかお納めください」
某企業の重役が、クレジットカードのようなものをそっと政治家に手渡した。多額の賄賂を予め金塊に替え複数の銀行の貸金庫に預け入れてある、その貸金庫の最初の鍵である。仮想通貨を使用しないのは、ブロックチェーンを辿ると資金の流れが特定されるためである。政治家は慣れた手付きで、張り付けられたメモのパスワードを確認するとニタリと笑った。
「例の法案は、予定通り廃案にする方向で調整がついた。これでお前の所の商売も安泰ということか。別に武器など無くても人は殺せるというのに、何を目くじら立てるのか正直愚か者共の考えは常軌を逸しているな。武器輸出額の上限規制などと」
「まあ、我が国は建国以来武器輸出で稼いできた国ですから。しかし上手い具合のタイミングで女狐が行った核物質密売の証拠をマスコミにリークするとは」
「なに、それに少しくらい国民の不安を煽っておいた方がまた、票も献金も増えるというものだ」
「ふん、ボーイン屋お前も悪よのう」
「上院議員様こそ」
「はっ、はっは」、「はあ、はっはっは」
「なんてことだったんだ。そんなことの為にスカーレットは」
「と、言うことだったみたいだな。どうだ、実験に使えそうだと思わぬか。こいつらなら、己も気がとがめはせぬだろう。あやつらを己の力で変えるのだ、霊子(レイス)へと。我もここから観測してやろう、魔導の流れを今度は見逃さぬわ」
「しかし、アスタロト。だとしても、こいつらを俺の目的達成のために葬り去るのはやはり違う気がする。」
「ならば、これを見るのだ」
金髪の女性が手足を鎖で拘束され、男たちに鞭打たれ。延々と欲望の捌け口として弄ばれていた。数時間のうちに七、八人の男たちが欲望を満たしようやく解放された女性がベッドに倒れこみ、ずっと髪の毛で隠されていた顔が露わになった。
「?! スカーレット!」
「どう、許せないでしょ。なら、生きていても仕方のない害悪を処分するのよ。害虫駆除みたいなものね」
「ああ、そうだな。あっさり殺すんじゃ、駄目だ。苦しみを長引かせて、後悔させなければ。ムガット、奴らをここへ!」
『・・・ムガット』
収容所の拷問室が目の前にある。そこに、座り込む武器商人と政治家が両手を鎖でつながれて天井から吊るされていた。藻掻くが、鎖はびくともしない。
「な、なんだこれは?なぜ、海に沈んだはずの収容所に我々がいるのだ?」
「上院議員様、いったい何が起こっているのでしょうか?」
炎が二人の悪党の肌を焼く、強烈な酸が悪党たちのつま先を靴ごと溶かしていく。指の骨がボロボロの靴から煙を吐くのが見える。
「うぉー、熱い、痛い!」、「わー、あ、足が溶ける?!」
中空に鞭が現れ、悪党どもの背中を苛む。
「まだ、楽にさせる訳にはいかないな。ムガット、癒してやれ!」
何処からともなく、悪党どもの傷口に無数の白いウジが蠢くと瞬く間に溶けた骨が肉が元通りに、切り裂かれた傷が癒え、火傷の痕が消えていく。
「おお、痛みが消えた」、「火傷が治った、ありがたい」
癒されたのもつかの間、悪党どもの身体に尖った岩が突き刺さる。雷が悪党ども目を焼き尽くす。
責め苦の後に、すぐさま癒しが訪れる次の拷問の予感を連れて。
「た、助けてー」、「い、いやだ。もういっそ殺してくれ!」
「はっ、は、はっ。どうだ、思い知ったか。スカーレットの痛みをとくと味わえ!」
『ほう。ここまで復讐に酔えるとは、あ奴にこんな才能があるとはのう』
陶磁器の人形の肩には小指大のウジが乗っていた。