だが、結果が全て。だいたい奴らが悪いんだ。彼女をあんな目に合わせて。だから少しくらい痛い目に会って貰っても構わないんだ。
甲板で下卑た笑い声が聞こえる。
「しかし、惜しいことをしたなあ。あんないい女、そう滅多にいるもんじゃないのに」
「まあ、収容所ごと海に沈んだものは仕方あるまい」
「それもそうだな、いきなり海底火山は噴火するわ、岩礁が沈むわの大騒ぎだからな。被害も数千では収まるまい、恐らく数万人単位になるはずだ。せっかく色々な罪を着せてお膳立てもほぼ終わっていたのにな、美味しい所を食い損ねるとは。はるばる海を渡って来たのが水の泡だ」
男たちを乗せたクルーザは、収容所のあった岩礁の周りを遠巻きに周回すると元来た方角に消えていった。
「闇の力?何のことだ、アスタロト?」
「まだ、自覚は無いようだが。恐らく大勢の命が消え果たことであろう。本当に身に覚えは無いのか、昨日はかなり大きな魔導の力を感じたぞ」
「何も覚えていない、だからネコさんやお前にも手伝って貰おうと考えたんだ。昨日の夜、何が起こり数兆円分の霊子が手に入ったんだ。教えてくれ、俺はどうしても勝ちたい勝たなくてはならない奴を月に残してきたんだ」
「ご主人、あのぶっ壊れたお姫様じゃなかった女王様と勝負ですかにゃ?止めといた方がいいにゃ、いろいろと可笑しな境界を飛び越えてる方だにゃ、危ないにゃ」
「ふふ、まあ相変わらずなのがネコの長所だな。俺が勝負するのは姉さんじゃねーよ、召使のアラクだ。奴が長年ため込んできた三八兆円を上回る稼ぎを俺が示さないと姉さんは、一生月から出られないんだ!」
「なに、確かめるのは簡単だ。古来魔導師は生贄を捧げ、その対価を受け取る。大抵は強き魔物や魔人の力を借りるためだが、稀に直接的な富、財宝を求める場合もある。幸いこの館には普通の人間の女がいるようだ。そいつを贄にすればお前の疑念も晴れるであろう」
陶器の人形は、黒いシャム猫に跨ったまま冷たい視線を投げかける。
「あ、アスタロト。お前、まさかスカーレットのことを言っているんじゃないだろうな?折角救い出してきた彼女を生贄になどできるものか」
「そう、それが今のお前の魔導を極める上での限界だな。魔人に逢えば魔人を斬り、天使に逢えば天使を祓う。魔導を志す者が情けないものだな。ならば、勝手にせい!いくぞ、ネコ」
「ご主人・・・」
アスタロトを乗せたネコが、研究室を出て行った。
「じゃあ、どうするの?これから」
「俺は、是が非でもこのヒントを掴みたい。ネコさん、協力してくれ。この通りだ」
俺は、深々とネコさんに頭を下げて頼み込む。
「いやあー、やめて!」
あれは?まさか、スカーレットが。
俺は、研究室を出るとスカーレットの部屋に急いだ。部屋に入ると、泣き叫びながら花瓶や置物等、部屋にあるものを手当たり次第にネコに向かって投げつけるスカーレットがいた。
「いやあ、痛いのは、食べられるのはいやよ。あっち、行って!」
俺は、彼女の後ろに回り込むと首筋に手刀を当てて静かにさせた。
「とりあえず。ネコ、部屋から出て貰えるか。お前がいるとまた、スカーレットが暴れ出すかも知れない」
「ふー。わかったにゃご主人」