心が空白になった、訳の分からない衝撃、感動、衝動が迸る。な、何だ?
この感覚は・・・・・・
「ねえ、キール!ぼんやりしちゃって。時間も無いのよ、満潮になったら置いて行かれるんだから、さっさとお宝を貰って帰りましょうよ!」
「わ、わかったよ」
『ふふ、墓荒らしか?盗賊の類か?』
生首がいきなり瞼を開き、キールに問うた。
「まあ、そんなもんかもな。俺はキール、こっちはリサだ。ひょんなことで宝の地図を手に入れた冒険者ってところだ。
あんたには、少々付き合って貰うぜ」
『ふーむ、時が経ち過ぎたようね。まあ、キールとやら好きに致せ』
「ああ、じゃあこれに入って貰うが俺がいいと言うまでしゃべらないでくれよ」 『・・・・・・』
「おい、わかったのか?」
「キールがしゃべるなって言ったからじゃない?」
「うっ、今はしゃべっていいぜ。俺の指示に従うんだな?どうだ?」
『しばしの間世話になる故に、キールそなたの指示に従うとしよう』
「そっか」
キールは、美しい顔に惨たらしく焼き鏝で傷つけられた生首を柔らかい布に包んで革袋に収めると背負って帰り道を戻りだした。
「ふう、しかし。キールあんたの闘いって見てると凄く不安になるわね。
毎回のように、殺されたって思ったら逆に相手がやられちゃっているとか。あれは何なの?」
「まあ、修行で覚えた幻術と体術の応用かな?」
「ふーん、まあそういうことにしておくわ」
「おおっ、お前ら良く無事で帰って来たな!」
「ガイドのおっさんも、ちゃんと待っててくれてたみたいで助かったぜ」
「ふん、二人とも怪我はしてないか?傷に効く薬ならあるから、使うかい?」
「おじさん、なんだか親切ね?もしかして私に惚れちゃった?」
リサが悪戯っぽく現地ガイドに尋ねる。
「馬鹿いっちゃいけないよ、お嬢ちゃん。ところで、洞窟を降りて行ってお宝は見つかったのかな? 良かったら見せて欲しいんだが・・・・・・」
「悪いなガイドのおっさん、見せる訳にはいかなくてな。見ちまうと、つい出来心で悪心に憑かれる輩が経験上多くてね」
「ほほう、せっかく下手にでてやっていたら。もう、面倒だ。
小僧、その袋の中身を寄こせ!」
現地ガイドの姿が霞に揺れると、腹の出た禿頭のおっさんに変化していた。
「惜しいわね、誰得なのかしら。おじさんがもっと醜く変わるってのは」
「ええい、やかましい。ふっ、と、取ったぞ!」
一瞬のうちに、禿頭のおっさんの姿がぶれるとキールの持つ袋を掻っ攫って空中に浮いていた。
「え?おじさんも魔物だったの?」
「ふっふ、遂に手に入れたぞ。この魔人セーレ様が、どれ?久々にご尊顔を見てやるか。
おう、噂に聞いていた醜く焼き鏝で『雌犬』の刻印の文字、間違いない。あの伝説のホムンクルスの頭を手に入れたぞ」
「おい、しゃべっていいぞ。この魔物は、お前の知り合いか?」
キールの問い掛けに、漸く口を開く美しき生首。
『そうね、愚痴っぽい下賤な魔族の一人。魔界の序列七十位、最速の魔人セーレというつまらぬ者よ』