今回は「ゼロからイチを生み出すキックオフ編」をお届けします。全体の目次はこちらになります。
構想からプロジェクトにする
「ホンヤククエスト」がどのような経緯で生まれてきたかは「番外編」に委ねるとして、2018年12月19日に構想を下記のようなテキストでまとめたのが、このプロジェクトのスタートでした。
書かれている項目を書き出すと、
・どんな構想なのか
・どんな目的で構想しているのか
・いつごろ行うのか
・どんなお披露目をするのか
・どんな機能があるのか
・各社の役割とメリットはなにか
・当初検証する項目はなにか
・どんなユーザー層を狙うのか
・どんなデザインイメージか
・将来目指す理想形はなにか
・どう展開するのか
・どうプロモーションするのか
・翻訳者への報酬設計はどうなるのか
・どんなリスクがあるのか
・法務・財務などの確認事項はなにか
・目標と撤退条件はなにか
など、各社で検討を進めてもらうために最低限必要な情報を書き出しています。とても文字文字しいのですが、パワーポイントなどを使ってしまうとどうしても”見栄え”をこだわりたくなって、本質的な内容を仕上げることからフォーカスがぶれてしまうので、文字中心に最初の構想をつくるようにしています。
この構想(ポエム)を元に、イードで事業統括をされている土本さん、bitFlyerで新規事業開発を担当されている三瀬さんとともにメッセンジャーでグループを作り、全員が直接会う前からやりとりを開始しました。2019年1月に3人でボッシュカフェにてコーヒーを飲みながら初のミーティングに臨み、「実現したいサービスがクリアである」「解決したい問題が大きくていい(日本の国全体が抱える問題)」「各社の強みを活かせる」「実現させるためのすべての機能が揃っている」「本腰を入れる前に実証実験を行って手応えを確かめていく方が良い」「最初は権利関係が複雑なコンテンツそのものよりも関連情報=アニメニュースなどから翻訳実績を作ったほうが良い」「各社のニーズにも合致している」「各社がブロックチェーンという新しい技術に対してポジティブ」などの話をして、各社でプロジェクト進行の承認に向けた調整をかけていくことになりました。
コミュニケーション方法を決める
2019年1月末に、各社の調整が進み、土本さんと三瀬さんと私の3名でプロジェクトを進めていこうと認識がすりあった後、「日々の連絡はどうしましょうか」という話になり、Slack チャンネルとTrelloを作成、かつ、週1回の定例ミーティング(60分)を開催することになりました。ちなみに、定例ミーティングは各社の時間感覚が似ているからか、最初から移動時間の短縮のためできるだけビデオチャット(Zoom)でやりましょうという方針にすんなり決まったことは、”働き方も多様な時代になったものだ”と印象深かったです。
▼Slack
▼Trello(クエストボード)
▼Zoom
定例ミーティングは毎回Trelloをベースにアクティブなチケットを一周し、新しい議題がある場合は、誰でもチケットを追加できるように運用しています。こうしておくことで、進行管理の漏れがなくなり、誰でも俯瞰した視点で、誰が何を行うのかがざっくりと明確になります。そして、そのチケットごとに細かくブレイクダウンしたタスク管理はそれぞれの担当が自由にツールなどを使って進行できるようにしています。
ちなみに、Zoomの有料化と同時にAIによる雑音消去のプラグイン
も導入し、他サービスに比べても非常に安価で快適にリモート会議ができていると思います。
「契約書」と「NDA」を結ぶ
今回関係する会社は、それぞれ一定規模の大きさの会社組織ですので、会社から「やってみよう」と承認がおりて決まったあとに「急にや〜めた」をされてしまうと、各社が困ってしまいます。また、話した内容には外に共有されては困るセンシティブな情報も入ってきます。そうした情報を外部に出されてしまうと問題になってしまうので、覚書レベルの「契約書」と「NDA(秘密保持契約書)」を結んで、早い段階で具体的な深い話をできる状態に持っていきます。プロジェクトの最初にやるべき大事なステップです。
各社の法務部と確認を取りながら、早い段階で「契約書」と「NDA」を交わしました。当初は実証実験を行うということで、契約書の内容も比較的シンプルでクイックな進行ができました。また、各社ともなるべく手弁当で力を出し合い、コストやリスクは大きすぎない無理のない形でスタートを切るように認識をそろえていました。また、そのようなライトな進め方でもプロジェクト内のメンバーの熱量が高く、プラスの相乗効果で勢いよく進行したように思います。
各社の役割を決める
今回協業をしていく3社はそれぞれに強みがあり、(一部の機能は重なるものの)会社ごとに持っている機能も特徴が分かれており、役割分担も比較的スムーズに決まったと思います。構想からお互いにフィードバックしあいながら、2019年4月頭時点での大ざっぱな役割分担のタタキはこちらでした。
<各社の役割>
企画・設計:TOM(サポート:各社)
サイトデザイン:TOM(サポート:イード)
サーバサイド開発&サーバー運用:イード
ブロックチェーン関連開発:bitFlyer
カスタマーサポート・コミュニティ運営:TOM
アニメアニメ英語版サイト:イード
※上記の役割分担は適宜相談し途中で変更可とする(双方合意に基づく)
サービスの名前を決める
当初はサービス内容とブロックチェーン用語の組み合わせで機械的な「翻訳Dapps(仮)」というコードネームのような呼び方をしていました。話が進むにつれ、いよいよロゴを作ったり、ドメインを取るためにも、サービス名を決めようという話になりました。2019年2月初旬の話です。
サービスをつくる当事者として一番ワクワクするのは、ネーミングのアイディア出しのブレストだと思っています。ここで決めたネーミングが後世に残る可能性もあるので、最高にエキサイティングな瞬間です。
手前味噌ですが、過去に複数のサービスを企画・開発していた経験から、これまで私がネーミングしたサービスや会社がいくつかあります。ネーミングは自分の力を発揮する領域なので、Tokyo Otaku Modeの創業時にも張り切ってアイディアを出していました。全部で100以上のネーミングが集まったのですが、その中で明らかに輝いていたネーミングこそCCOの森澤が出した「Tokyo Otaku Mode」だったのです。いまでもやっかみ(笑)を兼ねて森澤本人にも伝えていることですが、これには逆立ちしても勝てない強さがありました。あの字面を見た瞬間、みんなが「あぁこれが一番いい!」と圧倒的な支持を集めてしまったのです。その後、このネーミングが世界に広まっていく様子は私自身も間近に見ていました。
——という経緯も影響したのかもしれませんが、今回の翻訳サービスは「海外」「オタクジャンル」「楽しさ」などを表現したいことから逆算して考えると、どうしても「Tokyo Otaku Mode」にあやかったネーミングが一定のアドバンテージがあるだろうし、ファンから翻訳者を集めるときにも安心感/ブランドが伝わるだろうという目論見もありました。アイディア出しから決定まで約2ヶ月間、各人でアイディアを考えながら、「Tokyo Honyaku Quest」というサービス名に行き着いたのです。
サービス名を確定させる前に「 .com」ドメインが空いているかも要チェックポイントです。今回の場合は、特徴のあるネーミングになっていましたので以下ふたつのドメインが空いていましたので、早速ドメイン名を取得しました。
tokyohonyakuquest.com
honyakuquest.com
用語を決める
サービス内で使う用語はプロジェクトメンバーはもちろん、サービスを利用するユーザーにも統一した呼び名になるよう用語の定義が大事になってきます。「ホンヤククエスト」においては、構想段階で「翻訳者」「校正者」と呼んでいた翻訳する人たちの名称は、固い表現から「トランスレイター」「ブラッシュアッパー」などの柔らかい表現にアップデートされていきます。翻訳の依頼主からの翻訳依頼を「クエスト」、採用可否を「ジャッジ」と呼んだりと、用語を定義することによって世界観が彩られていきます。
例えば、翻訳を依頼することを「案件依頼」と呼ぶか「クエスト依頼」と呼ぶかで、同じ内容を指していても、それが楽しそうと思えるかどうか、受け取る人の印象が違うことが分かると思います。いわば用語は文字のデザインともいえ、サービスが与える印象を決める要素のひとつといえるのです。
<おもな用語>
翻訳者・・・トランスレイター
校正者・・・ブラッシュアッパー
翻訳案件・・・クエスト
翻訳・・・トランスレイト
校正・・・ブラッシュアップ
翻訳者確認・・・チェック
依頼主確認・・・ジャッジ
称号・・・レジェンド、四天王、十傑
独自トークン・・・HON(ホン)
決起会を行う
2019年4月、以前から行いたかった決起会という名の飲み会を行きつけの渋谷・
で開催。「あした葉」という独特の味がする葉っぱが食べられる渋い雰囲気のお店です。イードからは土本さん&江崎さん、bitFlyerからは三瀬さん&市園さん、TOMからは大迫&安宅の計6名で『ドキッ!男性だらけの(略』を開催。話はなぜか「クリケット」がホットトピックとして、世界最速160kmで投げるピッチャーがいるとか、インド市場が伸びてくるので海外向けにクリケット漫画を本気で作ったほうがいいとか、他愛もない話が繰り広げられ。土本さんが次の日に健康診断にもかかわらず呑兵衛の大迫と日本酒一騎打ちが始まったり、和気あいあいとした雰囲気で歓談。それまでお互いにZoom越しでしか顔を見たことがなかったメンバー同士もいる中、一気に打ち解けられた会になりました。
ややタイミングが遅くなってしまったキックオフ飲み会ですが、お互いに人となりを知れたことで距離感が近づいて、変な遠慮もなくなり、そのあとの進行がよりスムーズになったのでした。
次回は、「構想を具体化するサービス設計編」をお届けします。