題名 経営者の条件
著者 ピーター F. ドラッカー
訳者 上田惇生
出版 ダイヤモンド社
ページ数 234
ドラッカーの三大古典、「現代の経営」、「創造する経営者」、「経営者の条件」の一つです。「マネジメント」は入ってないんですね。「三大」の選択の基準がわかりませんが...。ドラッカーは買って満足して積んでおいたままでしたので、このまま読まないと多分一生読まないと思い、大げさですが意を決して読んでみました。
仕事をする人が成果を出すための心得が書いてありました。本書では、成果を出す人を「エグゼクティブ」と定義しています。直訳すれば役員、経営者ですね。著名な訳者・上田氏は、executiveをそのままエグゼクティブと訳しました。成果をあげる人は、以下の八つを習慣化しているとドラッカーは言います。
(1) なされるべきことを考える
(2) 組織のことを考える
(3) アクションプランをつくる
(4) 意思決定を行う
(5) コミュニケーションを行う
(6) 機会に焦点を合わせる
(7) 会議の生産性をあげる
(8) 「私は」ではなく「われわれは」を考える
(6) 機会に焦点を合わせるは多少補足が必要ではないかと思います。仕事をすると日々「問題」が発生しますが、問題解決では成果をあげられるわけではなく、ただ損害を防げるだけにすぎません。変化を機会としてとらえ、機会から成果をあげよと述べています。コロナ禍の現在、まさに必要なことですね。飲食、航空、観光などの企業を見れば、変化を機会としてとらえることの重要さがよくわかります。
上記8つの習慣を本書では論じますが、序章にまとめが書かれています。本書全部を読む時間のない人は、序章だけでも読むと何かしら得られるものがあります。
本書のところどころに、日本ではどうしているという分析が載っています。例えば序章では、機会に焦点を合わせることについてこう述べています。
最大の機会を最高の人材に担当させる。日本では、これが企業や官庁の人事の考え方の基本である。日本の強さの鍵の一つはここにあった。
今の日本が強いとは思いませんが、本書をドラッカーが執筆した1960年代は日本は高度成長期でした。世界第二位の経済大国となった日本をライバル視していたんですね。ライバル視というより、冷静に強み・弱みを分析していたのでしょうか。
強み・弱みも本書のキーワードです。弱みからは何も生まれません。結果を生むには利用できるかぎりの同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動員せよと述べています。これが、「選択と集中」につながります。自らの強みを生かそう(活かそう)とすれば、その強みを重要な機会に集中するしかありません。
私が本書で最も衝撃を受けたのは、「どのような貢献ができるか」を述べている章を読んでいるときでした。こうあります。
知識あるものは理解されるよう努力する責任がある。素人は専門家を理解するために努力すべきである、あるいは専門家は専門家と通じれば十分であるなどとすることは、野卑な傲慢である。
これはショックです。私はITの専門家ですが、日本はITリテラシーが低く、OECD加盟国の中で生産性が最下位レベルです。これは、私(handa)の責任だとドラッカーは言っているのです。つまり私は日本、県、市に貢献できていないということなのです。これを読んでいる皆さんがITに詳しくないとすれば、それは私の責任です。すみませんでした。。。
(読み手がどう受け取るか、ですけどね。私はそう受け取りました)
ドラッカーは科学者ではなかったため、本書の中では現代のようなコンピュータの発展を予見できませんでした(注 あくまで本書の中では、いうことで、晩年に書かれた本はおそらくAIについても触れていると思います)。本書では、コンピュータを「愚鈍な論理機械」などと述べています。ただ過小評価もしていません。コンピュータはプログラムによって計算をするだけだが、業務をプログラムで表現できるならば人間を圧倒する生産性・正確性を出せるとも述べています。
ドラッカーのいいところは「言い切り」だと思います。あいまいさが一切ありません。「何々すべき」ですらありません。常に「何々しなければならない」と言うところが清々しいです。ドラッカーに言い切られると、何か心の垢が落ちる気がします。何々すべきと書いてあったのは、一か所だけだったような。私も経営者のはしくれですが、しなければならないことを全然していませんでした。
読みづらいところは、南北戦争時代の将軍や過去の大統領、GM、フォード、ベル研究所などアメリカ人には常識かもしれないがそれ以外の人にはさっぱりわからない人や企業を例に挙げるところです。そういう例がなければ本書のページ数は3分の2になります。ドラッカー解説本が多数出ているのは、そういうところだなと思いました。エッセンスだけ知るには解説本でいいでしょう。ドラッカーがどんな考えを持っていたかを知るにはやはりそのままの著書を読まなければなりません。
本書を読んで、「現代の経営」(購入済み)、「創造する経営者」(未購入)にも興味が湧きました。他にも「ポスト資本主義社会」「新しい現実」は購入済みであり、読み進もうという意欲が湧きました。一文一文、「これはああいう場面に活用できるかもな」などと考えながら読むのでとにかく読み終わるまで時間がかかりますが、将軍とかGMとかの事例は適当に読み飛ばしながら、私なりに読んでいこうと思います。じゃなかった、言い切るならば、「読んでいきます。」
以上