京都弁護士会が2023年8月27日にシンポジウム「なぜこんなにも再審は認められないのか?―元裁判官と考える再審法の問題点」を開催しました。京都弁護士会館地階大ホールとZoomのハイブリッド開催です。共催は日本弁護士連合会。
鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会所属、日弁連再審法改正実現本部本部長代行)が基調報告「再審法の問題点と改正の現在地」を行いました。再審を妨害するものとして、証拠開示と検察官の抗告があると指摘します。
証拠開示のルールがなく、警察や検察が弁護側に証拠を開示しません。警察や検察が集めた証拠には被告人を無罪とする証拠もあります。ところが、検察官は自分達に都合のよい証拠のみを提出します。裁判所が証拠開示勧告をすることで証拠が出てきます。
大崎事件では検察官が不存在と言った後に証拠が開示されました。日野町事件では証拠開示が記録の捏造を明らかにしました。犯人しか知りえない死体発見場所を元被告人が示したとする警察の写真が差し替えられていました。湖東記念病院事件では解剖医が被害者は自然死の可能性があると回答した捜査報告書が開示されました。
現状では証拠開示勧告は裁判官のやる気に依存しています。裁判官によって格差があります。証拠開示のルールを定めて格差をなくす必要があります。
検察官は再審開始決定に不服を申し立てて抗告することで冤罪の解決が長引きます。検察官の抗告が当然のことではありません。日本国憲法第39条は二重処罰を禁止します。「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」。検察官は再審公判で有罪を主張することができます。再審開始決定で検察官の抗告を認める必要はありません。
続いて二人の元裁判官の井戸謙一弁護士(滋賀弁護士会所属)と村山浩昭弁護士(東京弁護士会所属)との対談です。井戸弁護士は裁判官として志賀原発差止などの判決に携わりました。退官後、湖東記念病院事件(2020年再審無罪)の弁護団長を務めました。村山弁護士は2014年に静岡地裁の裁判長時代、袴田事件再審開始、執行停止決定を出して袴田巌さんを釈放しました。コーディネーターは細田梨恵弁護士。
再審は時間がかかります。家族は必死の思いで生活しています。湖東記念病院事件は6年半要しました。再審としては相対的に短い方ですが、市民の生活感覚とは異なります。再審に時間がかかる背景として手続きが決まっていないことがあります。検討中ということでどんどん先に延びていきます。
検察官から特別抗告されることは本人や家族に大きな衝撃を与えます。制度の持つ罪深さを感じます。制度になっている以上は検察官はやらざるを得ない面があり、禁止した方が良いものです。
検察官は再審公判で主張することができ、再審決定開始の場は検察官が主張する場ではなく、検察官が抗告できる制度は百害あって一利なしです。諸外国では検察官の不服申し立てを許さない流れになっています。日本だけが旧態依然としています。冤罪が明らかになるまでに何十年も要している人権侵害の原因が検察官の抗告です。
湖東記念病院事件は当初、人工呼吸器の酸素供給途絶のアラームを無視した業務上過失致死で捜査していました。看護助手が故意に人工呼吸器のチューブを外したと自白した後に殺人罪で捜査されました。関係者の供述調書は自白後にとり直しました。
再審弁護団では自白前の調書などの証拠開示を求めました。再審公判手続では、人工呼吸器の管内での痰の詰まりにより患者が心臓停止した可能性もあるとする解剖医の所見が記載された捜査報告書などが新たに開示されました。
これは警察が検察官へ送致していなかった証拠でした。警察は全ての証拠を検察官に置くらんなければならないことになっているが、警察は都合の悪い証拠は検察にも見せようとしていませんでした。
証拠は税金で集めたものであり、警察や検察が証拠開示を妨害する理由はありません。証拠はパブリックなものであり、再審請求人側が利用できるものにする必要があります。現状は不公平な制度になっています。
捜査機関が自分の出したい証拠だけを選んで公判請求することに慣れてしまっています。少しずつ対等化が図られていますが、まだまだ不十分です。証拠開示の問題を解決しないと公平な裁判になりません。
戦前は予審という制度があり、全ての記録を裁判所に送られ、裁判官が記録を見ていました。戦後は当事者主義が導入され、検察と弁護人が各々の主張のために証拠を提出するようになりました。それは検察と弁護人が対等ならば真実発見につながりますが、現実は異なります。証拠開示の制度がなければ実現できません。
静岡地裁は2014年に袴田さんの再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をして釈放しました。袴田事件は捜査機関の証拠捏造の可能性が指摘されており、国家機関が作った冤罪です。この事実に向き合った結果の決定です。
日本の刑事システムでは誰もが冤罪被害者になりかねません。事件が起きたコンビニにいて、防犯カメラに映っていたことから犯人にされた例があります。冤罪被害者を苦しめ続けています。
以下は質疑応答です。
警察が検察に証拠を送っていないことは問題にならないのでしょうか。
証拠を送っていないことをチェックしていないことや処罰されないことが問題に根底にあります。どこまでを証拠の範囲とするかも問題です。写真そのものを争う場合はアナログならばネガ、デジタルならばプロパティまで必要になります。
検察官が特別抗告を断念したのは何故でしょうか。
弁護団と市民の力です。特別抗告をしたら、検察は非難されると判断したためです。
再審法改正の動きはどうでしょうか。
袴田事件から与野党問わず、人権を通り越して人道の問題と受け止められています。捏造された証拠で死刑にさせられることを何とかしないという動きがあります。法務省は後ろ向きであり、岩盤のように動きません。
市民ができることはありますか。
問題提起して話題にしていくことです。家族、友人、職場で話題にして下さい。自分のことと思って下さい。遠い世界の別の話ではありません。
日本の有罪率が高い原因は何ですか。
一回起訴するとトコトン有罪にこだわる体質があります。その背景には証拠を捜査機関が独占し、検察側有利の証拠だけを提出します。裁判官は公判に出た証拠から判断します。
眠っている冤罪事件がまだまだあると思います。
その通りです。冤罪事件は重大事件に限りません。人質司法で自白を余儀なくされた冤罪事件は多数存在します。中々表に出てこない理由は再審のハードルが高いためです。再審無罪は次の冤罪を生まないスタートでなければなりません。外国は誤判冤罪の歴史を学んで制度改革につなげています。それが日本はできていません。
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ひとごとじゃないよ人質司法