愛知県内で保育園などを運営する「グローブ・ハート」は2020年7月22日から人工知能AI; Artificial Intelligenceで面接者の笑顔を判定し、採用の評価基準とする採用活動を始めました。IT企業「バイタリフィ」と共同開発した笑顔レベルを数値化するAIシステムを利用します(桑村朋「AIでスマイル判定 愛知の保育園「笑顔採用」募集スタート」産経新聞2020年7月22日)。
AIは面接用の作り笑いやぎこちない笑顔を見破ることができるとします。このニュースに対して自分の本心を判断されるようで嫌な気持ちになる人もいるでしょう。機械に労働者の本心を読み取らせようとする点で、東急不動産ホールディングスと東急不動産が「渋谷ソラスタ」で従業員に頭部に脳波測定キットを装着して働かせる実証実験を想起させます(林田力「東急不動産従業員の脳波センサー装着への違和感」ALIS 2019年10月6日)。東急不動産の脳波測定は炎上しましたが、笑顔採用への批判はそれほどではありません。
東急不動産の脳波測定との相違は、あくまで外部に出ている表情を分析することです。脳波のように通常他人が検知しないものを分析しようとするものではありません。AI表情分析はギリギリセーフ、脳波測定はアウトになるでしょう(林田力「東急不動産の脳波測定炎上とAI感情分析の可能性」ALIS 2020年4月7日)。
消費者に笑顔を見せることが仕事という職種ならば、作り笑いではないかを判断することは意味があります。それを基準にする必要がある場合、面接担当者個人の主観で判断するよりも、AIが判断した方が公正になるでしょう。保育園ならば幼児がどう感じるかが重要になります。そこをAIが取り込んでいるならば、大人の面接者よりも相応しいでしょう。
一方で笑顔採用がディストピアになる可能性があります。笑顔と仕事の相関がないところに笑顔採用を行うことは無意味です。仕事ができるか否かはアウトプットの質や納期で評価されるものです。笑顔で評価するならば、ハキハキと挨拶できる人を採用していた昭和の日本企業を笑えなくなります。AIを利用することの問題ではなく、昭和的な評価基準でAIを利用することの弊害です。
笑顔採用がブラック企業経営者に悪用されたら悲惨です。ブラック企業経営者にとっては薄給でもパワハラがあっても笑顔で働く労働者は好都合でしょう。このディストピアはエンタメ作品でも描かれています。尾田栄一郎『ONE PIECE 94』(集英社、2019年)では笑顔以外の表情が出来なくなる薬物を暴君が人々に食べさせていました。
この薬物はテン年代前半のパンクハザード編で登場しました。このパンクハザード編では依存性薬物の恐ろしさを描きました。薬物依存にさせられたキャラクターは薬物が切れると人格が崩壊してしまいます(尾田栄一郎『ONE PIECE 69』集英社、2013年)。これは脱法ハーブや危険ドラッグの警鐘になりました。時代を予見する作品です。
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◆林田力の著書◆
東急不動産だまし売り裁判―こうして勝った
埼玉県警察不祥事