コロナ禍の自殺が増加していると報道されています。しかし、自殺の増加は2020年下半期からであり、逆に2020年上半期は大幅に減少していました。2020年1月から4月までの自殺者数の減少を論じた拙記事は2021年2月6日時点で「投稿者の人気記事」1位です(「Social Distanceで自殺減少」ALIS 2020年5月13日)。
記事では2020年上半期の自殺の減少はSocial Distance徹底によって職場や学校に行く機会が減ったためと分析しました。実際、ビズヒッツ「仕事に行きたくない理由に関する意識調査」(2021年1月14日)では仕事に行きたくない理由の1位は人間関係でした。
『相棒 season19』第4話「藪の外」(2020年11月4日)では怨憎会苦という仏教用語が登場しました。これは恨み憎む相手とも会わなければならない苦しみという意味です。
人と会わなくてよくなったステイホーム期間中に自殺が減ったことは自然に納得できます。ここからはアフターコロナ時代になったとしても、非対面非接触のNew Normalを推進することが日本社会の生き辛さを減少させるために求められます。
ところが、日本人は自殺と言えば昭和の一家心中や90年代のリストラの印象が強い向きも多いです。そのような人々にとって「Social Distanceで自殺減少」という結論には抵抗があるようです。もともと自殺が減少しているからではないか、人口自体が減少しているからではないかなどの懐疑論を投げかけます。逆に2020年下半期からの自殺増加は、コロナ禍の経済的苦境が原因とすんなり飛びつき、対策を求める傾向にあります。しかし、それだけで日本社会の生き辛さを説明し、解消していけるか大いに疑問です。
私はロスジェネ世代に属します。私にとって物心ついて自殺を認識した最初は学校のいじめ自殺です。葬式ごっこなどクラスが一丸となってのいじめで自殺するニュースに接しました。それ故に人と会わないから自殺が減るという論理はしっくりきます。これに比べると昭和の一家心中は古い話であり、物語の中で接するもので、現実感の乏しいものです。
リストラが進んだ90年代は学生時代であり、社会人として経験しておらず、それを暗黒時代のように受け止める感覚は持っていません。むしろ子どもの頃に「24時間戦えますか」のCMソングが流行っており、日本的雇用は大変という印象を持っていました。このために日本的雇用からジョブ型に転換する改革に好感を抱いていました。
コロナ禍による経済環境の悪化は対応すべき一つの問題であることは事実でしょう。しかし、人間関係による生き辛さも問題です。「Social Distanceで自殺減少」の事実は依然として自殺をなくす上で有益な知見になります。
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