近所のスーパーマーケットが閉店します。長年利用していたスーパーであり、寂しさがありますが、購買意欲がそがれる要素として店内アナウンスでの手前取りの強調がありました。手前取りは食品を購入する時に商品棚の奥からではなく、手前の商品(消費期限・賞味期限の近い食品)から取ることです。それをこのスーパーでは店内放送で繰り返し推奨していました。これに反発する消費者もいたでしょう。
飽食は現代社会の病理であり、食品廃棄は大きな社会問題です。フードロス削減はSDG; Sustainable Development Goalsに掲げられ、グローバルな課題になっています。SDGsのターゲット12.3は以下のように定めます。
「By 2030, halve per capita global food waste at the retail and consumer levels and reduce food losses along production and supply chains, including post-harvest losses.」(2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる)
フードロス削減は素晴らしいことですが、手前取りという消費者だけの努力と我慢で問題解決しようという姿勢は相互主義に欠けます。賞味期限の短い食品を購入した結果、賞味期限内に食べきれず、廃棄することになったら、フードロスが生じます。スーパーでの食品廃棄が家庭内の食品廃棄にシフトしただけです。社会問題の解決になりません。
消費者には一週間分の買い物に来る人もいます。そのような消費者にとっては賞味期限の長いものを選択する必要があります。歩いてすぐの場所で毎日買い物に来る消費者に遠隔地からまとめて購入に来る消費者も加えて大きな売り上げになります。むしろ、後者をどれだけ増やせるかがスーパー同士の競争になるでしょう。
スーパーが賞味期限の短い食品を売り切りたいならば、値引きのような工夫が可能です。現実にダイナミックプライシングはフードロス削減の手段として取り上げられています。
手前取りは行政も推奨しています。一方で行政は災害対策として家庭での食糧備蓄も推奨しています。大災害では行政は全市民を助けられないとして自助を要求しています。それならば賞味期限の長い食品を普段から買い込む必要があります。手前取りが目の前の問題の解決しか考えない薄いものであることが理解できます。
実は繁盛しているスーパーは手前取りをあまり意識させません。多くの繁盛しているスーパーは商品ラインナップが豊富です。事業者にとっては商品取扱点数を絞った方が楽ですが、それでは消費者の多様な需要を満たせません。消費者に多くの選択肢を提供するから支持されます。
物理的限界のある売り場に多くの商品を並べるとなると多品種少量販売にならざるを得ません。同一商品の棚に並ぶ個数は少なくなり、わざわざ手前取りを選択する余地もなくなります。逆に言えば自分達が売りやすいと考える商品ばかり多く仕入れているから消費者に手前取りを求めたくなります。手前取り推奨とスーパーの繫盛は反比例の関係にあるでしょう。
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