ラーメン漫画の久部緑郎作、河合単画『らーめん才遊記』がテレビドラマ化します。グルメ漫画は数多くありますが、日常の食事であるラーメンに特化した作品です。内容も、お洒落さよりもガッツリ食べる食事満足度を重視し、高級ぶったグルメ作品とは一線を画します。
ドラマは『行列の女神~らーめん才遊記~』として2020年4月からテレビ東京の月曜夜10時に放送されます。原作との大きな相違点は芹沢達也が女性になることです。芹沢はラーメンハゲと呼ばれるスキンヘッドの男性です。名前が芹沢達美になり、鈴木京香さんが演じます。
アクの強いハゲの男性キャラが別の媒体で女性になる作品に田中芳樹『銀河英雄伝説』があります。フェザーンの自治領主アドリアン・ルビンスキーが道原かつみ漫画版ではルビンスカヤという女性になりました。『銀河英雄伝説』は女性の活躍が乏しいという昭和の作品の限界がありました。この点で登場人物の女性化には意味があります。
これに対して『らーめん才遊記』は主人公が女性(汐見ゆとり)です。ことさら女性キャラを増やしてジェンダーバランスをとる必要はありません。また、芹沢とルビンスキーでは物語の重要度が大きく異なります。芹沢の女性化はジークフリート・キルヒアイスを女性化することに匹敵するでしょう。
一方で芹沢の女性化は外見イメージとは異なる芹沢の本質を表現できるかもしれません。芹沢は悪役顔で強面の外見です。漫画のイメージのまま実写化したら、存在そのものが昭和のパワハラ親父と拒否反応を抱かれる危険があります。働き方改革やダイバーシティが当たり前になった2020年では現実味のない存在として浮いてしまうかもしれません。
外見とは対照的に芹沢は、昭和の精神論根性論やヤンキー的な気合主義とは真逆の合理主義者です。頭に毛がないのも、料理に毛が入ることを避けるためです。芹沢の合理主義の一例として、新米社員に雑巾がけからさせるという発想を否定します。新米もベテランも社員に求めることは稼げる仕事です。雑巾がけのうまい奴など必要ないと言います。合理主義の冷徹さが女優によって上手く表現できれば女性化は成功と言えるでしょう。
脚本の古家和尚さんは2019年に『イノセンス 冤罪弁護士』を手掛けました。『イノセンス 冤罪弁護士』は直感的に振る舞う主人公に理知的な女性が振り回されました。『行列の女神~らーめん才遊記~』も似たような展開が楽しめるかもしれません。
『イノセンス 冤罪弁護士』で和倉楓弁護士役の川口春奈さんは、序盤は主人公に文句を言うばかりで良いところがなく、ウザイと視聴者のヘイトを集めました。その役を見事に演じきったことが、『麒麟がくる』の帰蝶役やYouTubeチャネルの人気につながっています。鈴木京香さんも序盤は原作キャラとのギャップから視聴者のヘイトを集めそうですが、最後は「ドラマ版は、これで良い」と評価されるのではないでしょうか。
『行列の女神~らーめん才遊記~』は働く人々を通して現代社会を描くドラマ枠「ドラマBiz」で放送されます。この点では注文があります。原作の芹沢はクライアントの話を部外者にベラベラ話していました。これはコンサルタント失格です。むしろ警察の捜査を受けても守秘義務から抵抗し、黙秘することがプロフェッショナルでしょう。
原作はラーメン漫画であって、フード・コンサルティングは色々なラーメン屋を登場させるための設定上の道具に過ぎないと理解しています。これに対して働く人々のドラマならば、コンサルタントらしさを期待したいです。