NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が2022年8月28日に第33回「修善寺」を放送しました。源頼家が殺害されます。頼家の殺害は歴史的事実ですが、誰が主導して殺害するか(誰が悪者になるか)がドラマの描き方になります。北条政子は悪女イメージが強いですが、『鎌倉殿の13人』では翻弄される側です。
修善寺に追放された頼家は北条氏に敵意を抱き、実母の政子にも会いたくないと言います。それに対して政子は「あの子の気持ちを考えれば当然」と思いやりがあります。無理やりコミュニケーションを強要して、それを良いこととする迷惑な自己満足に陥っていません。
頼家の殺害は北条氏にとって都合が悪いからです。美化しようがないものです。源頼朝が生きていたら許さないでしょう。これに対してドラマは後鳥羽上皇の頼家への後押しを描き、鎌倉幕府の存立に影響を及ぼす事態とします。これで頼家殺害に多少は止む無しという要素を出します。
これは承久の乱につながる対立軸になります。承久の乱でも後鳥羽上皇が命じたことは北条義時の追討でした。鎌倉幕府を滅ぼすとは言っていません。ところが、北条政子の演説で鎌倉幕府の存亡の問題にすり変えられ、御家人達が一致団結して京に攻め上る結果になりました。この論理のすり替えは政子の政治手腕を示すものですが、後鳥羽上皇には無念だったでしょう。
このギャップはドラマの頼家の対応で浮き彫りになります。後鳥羽上皇にとって源氏は朝臣であり、むしろ保護する対象になります。許せない存在は源氏を担いで勝手なことをする北条氏らとなります。後鳥羽上皇の主観では鎌倉幕府を良くするという感覚があったかもしれません。
ドラマでは頼家の殺害と並行して次の対立の芽も描かれます。畠山重忠の乱は表面的には酒宴での平賀朝雅と重忠の嫡子重保との口論が原因です。しかし、実際は武蔵国の支配をめぐる重忠と北条時政の対立でした。
武蔵国では古くから国司の支配が形骸化し、地元の武士団のトップが武蔵国留守所総検校職として実務を取り仕切っていました。重忠は河越重頼が源義経に連座して殺害された後に留守所惣検校職になりました。ところが、時政が武蔵国を本拠とした比企氏の領地や家人の支配を進めようとしたため、重忠と対立します。ドラマでは時政が武蔵守を目指します。
畠山重忠の乱は吾妻鏡も認める冤罪です。吾妻鏡では義時は心ならずも重忠誅殺を行った立場と描かれます。当時は孝という儒教道徳が強く、親が滅茶苦茶なことをしても逆らうことは困難でした。平家物語では平重盛が後白河法皇を蔑ろにする父親の平清盛を諌めて命をすり減らしたと描かれます。そのような時代に父親の時政を追放した義時は画期的でした。
第32回「災いの種」の義時はすっかりブラックになりましたが、第33回「修善寺」では運慶に「悪い顔になった」と言われながらも「迷いがある」と評されます。畠山重忠の乱の義時は正に迷う存在になります。
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