京都で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性を殺害した容疑で医師らが逮捕される事件が起きました(林田力「医師嘱託殺人は危険ドラッグ売人レベル」ALIS 2020年7月26日)。石原慎太郎・元東京都知事が2020年7月27日にTwitterで医師らを擁護するツイートを行い、大きな批判を集めました。
問題のツイートは以下の内容です。「業病のALSに侵され自殺のための身動きも出来ぬ女性が尊厳死を願って相談した二人の医師が薬を与え手助けした事で『殺害』容疑で起訴された。武士道の切腹の際の苦しみを救うための介錯の美徳も知らぬ検察の愚かしさに腹が立つ。裁判の折り私は是非とも医師たちの弁護人として法廷に立ちたい」
業病とは「悪業の報いでかかる難病」です。石原発言は病気への無知も曝け出しました。石原元知事は過去にも「水俣病患者はIQが低い」「障害者に人格はあるのか」「(性的少数者は)どこか足りない感じがする」など差別発言を繰り返していました。石原発言の根底には優生思想があると指摘されている(野村房代、牧野宏美「石原慎太郎氏の差別発言はなぜ繰り返されるのか 「業病」ツイートの根底に優生思想」毎日新聞2020年7月30日)。
石原さんは7月31日に謝罪を余儀なくされました。しかし、謝罪ツイートでは「ALSを難病とせず業病と記したのは偏見によるものでは決してなく」と差別意図を否定しています。反省していない差別発言謝罪のテンプレートそのものです。謝罪の対象も「誤解を生じた方々に謝罪いたします」と誤解であるとしています。石原発言の批判者達は石原さんの本性を批判しており、誤解してはいないでしょう。
中島岳志・東京工業大教授は差別発言の背景に健康へのこだわりがあると指摘します。「一番嫌っていたのは太宰治、織田作之助ら、いわゆるデカダンスと呼ばれる退廃的な文学でした」(「石原慎太郎氏の問題発言「健康への強いこだわり、不健康に直面する恐怖」 中島岳志さん」毎日新聞2020年8月1日)
正直なところ、太宰治や織田作之助の方が作家としては王道でしょう。「太陽の季節」のような作品の方が戦後昭和の大衆への迎合であり、芸術性が問われるでしょう。文学だけでなく、ラノベや漫画アニメなどのエンタメ作品の愛好家も、酒浸りではないとしても家に引きこもった生活が主流です。ヨットに乗るような生活を健康的と考える方が創作者として浮いています。そのような石原さんが芥川賞選考委員をしていたこと自体が日本の文学にとって不幸だったと言えるでしょう。
◆林田力の著書◆
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