新型コロナウイルス感染拡大防止のためにSocial Distancingが提唱されています。日本でもソーシャルディスタンスは普及しており、流行語になりそうです。これに対してWHO; World Health OrganizationはSocial DistancingをPhysical Distancingに言い換える傾向があります。物理的距離を保つことは大切であるが、孤立を促進させるものではないことを意図しています。WHOは2020年3月20日のPress Conferenceで以下のように説明します。
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If I can just add, you may have heard us use the phrase physical distancing instead of social distancing and one of the things to highlight in what Mike was saying about keeping the physical distance from people so that we can prevent the virus from transferring to one another; that's absolutely essential. But it doesn't mean that socially we have to disconnect from our loved ones, from our family.
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距離拡大戦略が孤立を促進させるものではないとの視点は重要です。日本の公務員感覚では自分達の仕事を減らすために距離拡大戦略が利用されます。たとえば精神病院や拘置所、刑務所で面会中止措置がとられています。これに対して障がい者団体らはオンライン面会を求めています。代替策なしで中止するだけでは無能公務員を喜ばせてしまうだけです。テクノロジーを活用した新しい繋がり方の工夫が公務員には要求されます。
「精神科病院や入所施設では、感染防止の観点から面会を大きく制限しています。このままでは、家族、知人との関係がますます失われ、精神的にもストレスを抱え込むことになります。最低限、テレビ電話、パソコンやスマートホンを通した面会を保障するようにしてください。電話を禁止されている人についても、こうした形の面会を認めさせるようにしてください」(「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会の厚生労働大臣宛て「新型コロナウイルス感染に関する要請書」)
「家族友人の面会禁止を撤回し、最低限テレビ電話あるいは設備が間に合わなければスマートフォンなどによる遠隔面会を実施すること」(世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワークの山本眞理理事の最高裁長官、法務大臣、検事総長、厚生労働大臣、厚生労働省障害福祉部精神・障害保健課長宛て「緊急要望書」2020年4月22日)
距離拡大戦略が孤立ではなく、テクノロジーを活用した新しい繋がり方の工夫を求めるものとの認識に立った上でSocial DistancingとPhysical Distancingのどちらが適切でしょうか。私はSocial Distancingの言葉狩りに反対です。
Social Distancingはテレワーク促進など、それ自体にテクノロジーを利用した新しい繋がり方を含意していると受け止めています。テレワークのようなものは一人が声を上げて実現できるものではありません。社会全体がテレワークなどの促進に取り組み、個々人の感染リスクを減らすことが大切です。その意味でSocialの形容は適切と感じます。
特に日本では日本語事情があります。日本語ではSocialは社会的の意味ですが、日本語のソーシャルは社会そのものという意味では必ずしも使われていません。SNSやソーシャルメディアなど従来とは異なる新しい繋がり方の形容詞として使われています。ITと親和性があります。
逆にPhysical Distancingには外部から強制的に距離を取らされるマイナスイメージを抱きます。上述の面会中止が典型です。ITとは無縁のイメージです。
もともとPhysical Distancingは距離拡大戦略が社会的な孤立を求めるものではないとSocial Distancingから生じるかもしれない誤解を避けるために作られた言葉です。それ故にPhysical Distancingを説明するためにはSocial Distancingから説明することになり、独立した言葉としては弱いものです。
結論としてPhysical Distancingには制限を強いられる受動的なマイナスイメージ、Social Distancingにはイノベーション促進の積極的なプラスイメージを抱きます。