中野江古田病院(中野区江古田)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19; coronavirus disease 2019)のメガクラスターが発生しています。中野江古田病院は2020年4月7日に職員と入院患者の新型コロナウイルス感染確認を発表しました。
発表は7日付ですが、「感染拡大の防止策として、4月5日より外来診療と入院の受け入れを中止とさせていただきます」とします(社会福祉法人浄風園 中野江古田病院「新型コロナウイルス感染症発症に伴う休診について」)。発表では感染者の人数などは明らかにされていません。
東京都は4月12日、新たに確認した感染者が166人と発表し、そのうちの87人が中野江古田病院から発生したとしました。中野江古田病院では既に複数人の感染が確認されているため、中野江古田病院の感染者総数は87人よりも多くなります。中野江古田病院は職員数約200人、病床数173床であり、感染率は非常に高いものになります。
これだけ人数が多いと死者の中にも感染者が含まれているのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染者の死者は葬儀においても感染防止の対応が求められており、死因の究明は感染拡大防止のためにも必要です。
東京都の感染者数は9日178人、10日189人、11日197人と推移し、これらに比べると12日の166人は減少しています。中野江古田病院関係を除けば79人になり、激減しています。これは中野江古田病院関係の検査を優先させたためです。むしろ、減少した分は検査待ちの人が出ていると考える必要があります。根本的な問題は検査のキャパシティーが需要に追い付いていないことです。感染判明数は実際の感染者数以前に検査能力の限界があります(林田力「新型コロナウイルス発生事業所の検査数」ALIS 2020年4月5日)。
中野江古田病院の問題として情報公開の消極性があります。病院の発表に基づいても4月5日に外来診療と入院の受け入れを中止しながら、発表は7日とタイムラグがあります。また、東京都が12日に87人の感染を発表するまで何の経過報告もありません。その上、インターネット上ではもっと早い時期から感染を把握していたのではないかとの告発がなされています。
中野江古田病院は無料低額診療事業実施医療機関です。医療費がない人も医療を受けられます。良心的な病院と経営判断による感染隠蔽や診療続行は一見すると真逆です。しかし、市場の評価を無視した福祉重視の組織が逆に独善的になることもあります。世の中には貧困ビジネスというものも存在します。
中野区界隈では早くも2月に立正佼成会附属佼成病院(杏林学園教育関連施設)で新型コロナウイルスの院内感染が起きました。佼成病院は杉並区和田ですが、中野区南部寄りです。中野区民の利用者も多い病院です。佼成病院と中野江古田病院は職員と入院患者が感染した点でも重なります。
その後、中野区ではサミットストア東中野店、中野セントラルパークサウス、マルイファシリティーズ、東京警察病院と感染者が広がりました。中野江古田病院は「中野区と練馬区の境にある救急病院です」と紹介するように中野区の北端にあります。大まかに言えば北上して中野区を縦断したことになります。
深刻な状態と言えますが、中野区は新型コロナウイルスへの情報発信が消極的です。飲食店支援の「お持ち帰り&出前推進事業」などは熱心ですが、感染情報は消極的です。佼成病院の院内感染では中野区民の利用者も多いことから中野区民の関心事でもありましたが、中野区からの発表はありませんでした。
中野セントラルパークサウスのコールセンターのクラスターでも中野区は発表せず、一部の中野区議会議員が自ら確認するような状態でした(林田力「中野のコールセンターで新型コロナウイルス9人感染」ALIS 2020年3月26日)。
中野区は対策本部の名称も新型コロナウイルスではなく、中野区新型インフルエンザ等対策本部になっています(林田力「新型コロナウイルスでも中野区新型インフルエンザ等対策本部」ALIS 2020年4月8日)。中野江古田病院の情報公開の消極性は、中野区の消極姿勢が見透かされた面もあるのではないでしょうか。