NHK大河ドラマ『どうする家康』第9回「守るべきもの」が2023年3月5日に放送され、三河一向一揆が決着しました。家康は家臣の裏切りがショックで引きこもります。このこのドラマの家康と本多正信の関係性で正信の裏切りは、それほど家康にとってショックでしょうか。十分に想定できそうな感じがします。これがショックならば後の石川数正の出奔は耐えられなくなりそうです。
鳥居忠吉は家康を訪れて二つの選択肢を提示します。家臣を信じるか、謀反の疑いがあれば殺すかです。後者は『鎌倉殿の13人』の源頼朝や北条義時の路線です。上総広常ら多くの人々が冤罪で滅ぼされました。家康を演じる松本潤さんはテレビドラマ『99.9 刑事専門弁護士』で冤罪を追及する深山大翔弁護士を演じました。謀反の疑いで殺す道を選ばないことは当然です。
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とはいえ家康は晩年には冤罪で大久保忠隣を改易しました。この忠隣改易は本多正信の陰謀とする説と無関係とする説があります。忠隣の父の大久保忠世は正信と深い関係に描かれています。江戸幕府初期の大久保と本多の関係をどのように描くかにも注目です。
一向一揆の側も家康を殿と呼んでいます。ここは守護を倒した加賀一向一揆と異なるところです。一向一揆側が不輸不入の権を元通り認めることという既得権維持を考えるだけで、領主の否定にまで至らないところが勝ち切れない要因でした。
家康は一向一揆に和議を持ち掛けます。空誓上人は多くの信者の死に心を痛めており、和議を受け入れます。「進者往生極楽 退者無間地獄」(進まば往生極楽、退かば無間地獄)と信者を戦死に駆り立てる要素はありません。家康にとっては敵役になり、カルト教団のボスのように悪く描くこともできますが、そうしないところに脚本の面白さがあります。
2023年3月3日公開の『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』は『どうする家康』と同じ古沢良太脚本です。誰もがパーフェクトになれる楽園「パラダピア」を舞台とします。素晴らしい世界に聞こえますが、実はディストピアだったという展開はユートピアを描く作品の定番です。『どうする家康』で狂信的ではない三河一向一揆を描きましたが、『ドラえもん』のユートピアはどうなるでしょうか。
家康は和議を結んだ後に一向宗を弾圧しました。元に戻すという約定を「(寺が建つ前の)元の野原に戻す」と主張しました。一揆側にとっては「だまし討ち」でした。後の大坂冬の陣の和議を連想させます。家康は生前の秀吉から難攻不落の大阪城を攻め落とす方法として一旦和議を結んで堀を埋めさせることを教えてもらったとする説があります。しかし、三河一向一揆の結末を知れば、家康の策略と感じます。
『どうする家康』では和議の持ちかけも「元の野原に戻す」の論理も他人の入れ知恵でした。「どうする家康」というよりも、本人はどうもしない家康になっています。家康に和議を勧める人物は「和議は方便」と言い切ります。最初から「だまし討ち」を想定しています。方便という言葉は仏教用語でした。一向一揆の「だまし討ち」に仏教用語を出すことは皮肉です。
本多正信は家康を正面から批判します。働く人々の気持ちを分かっていないとの批判は今の官僚や政治家にも当てはまるでしょう。本多正信は三河を追放されます。これは一向一揆についた他の家臣と比べて厳しい措置で、差別的です。しかし、ドラマでは逆に家康が度量を示した寛大な措置とすることに説得力を持たせました。
『どうする家康』第8回「三河一揆でどうする!」守護使不入の否定
『どうする家康』第7回「わしの家」三河一向一揆
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