「まずやんなきゃいけないのは、もとの大きさにもどることね」とアリスは、森のなかをさまよいながらつぶやきました。「そして二ばんめに、あのきれいなお庭へのいきかたを見つけることよ。それが一番いい計画だわ」
引用元:不思議の国のアリス
私がビットコインから学んだ最も重要なレッスンは、長期的にはハード・マネーの方がソフト・マネーよりも優れているということだ。ハード・マネーは、サウンド・マネー(健全なお金)とも呼ばれ、信頼に足る価値の保存機能を備えた世界中で取引される通貨である。
確かに、ビットコインはまだ若く不安定である。批評家は、ビットコインは確実には価値を保存しないと言うだろう。だがボラリティの議論は大事なポイントを外している。ボラティリティは予期できることだ。市場がこの新しいお金の適正価格を把握するのにはまだ時間がかかるのだ。また冗談めかして指摘されることが多いように、それは測定エラーに基づいている。もしドルで考えるなら、1ビットコインは常に1ビットコインの価値があることを理解し損ねるだろう。
“固定マネー・サプライ、もしくは客観的で計算可能な基準のみで変更されるマネー・サプライが、意味のある公正なお金の価格の必要条件である。”
Fr.ベルナルド W. デンプシー, S.J.
忘れ去られた貨幣の墓場をちょっと散歩するかのように、印刷可能なお金はプリントされる。今までの所、歴史上この誘惑に抵抗できた者は誰もいない。
ビットコインは、このお金を刷ることへの誘惑を独創的な方法で取り除いた。サトシは人間の貪欲さや誤りやすさに気づいていた。それゆえサトシはこうした人間の制限よりも、より信頼のおけるものを選んだ。数学である。
この公式はビットコインの供給量を表すのに役立つが、実際にはコードのどこにも見当たらない。新しいビットコインの発行は、アルゴリズム的にコントロールされた方法で行われ、マイナーに支払われる報酬が4年ごとに減らされていく。上の公式は、内部で起こっていることをすばやく要約するのに使われている。実際に起こっていることを知るベストな方法は、有効なブロックを発見したマイナー支払われる報酬(およそ10分ごとに発生)である、ブロック報酬の変化を見るのが良い。
数式、対数関数や指数関数は、直感的に理解できるものではない。健全性の概念は、別の見方をすれば理解しやすいかもしれない。何かがどれだけあって、それを生産したり手に入れるのがどれだけ難しいかが分かれば、その価値はすぐにわかる。ピカソの絵画、エルビス・プレスリーのギター、ストラディ・バリウスのバイオリンに当てはまることは、法定通貨、金、ビットコインにも当てはまる。
法定通貨の堅固さは、誰が各印刷機を担当しているかによる。ある政府は、他の政府よりも大量の紙幣を印刷することに積極的で、その結果、紙幣が弱くなることもある。他の国の政府は、紙幣印刷をより厳しく制限し、その結果、より堅固な紙幣になるかもしれない。
法定通貨になる前は、お金の健全性は、我々がお金として使ったものの自然な性質によって決められていた。地球上の金の量は、物理法則により限られている。金は、超新星や中性子星の衝突がまれであるがゆえに、まれなのである。金の“流れ”は、抽出が大変であるがゆえに限られている。そして重い元素であるため、地中深くに埋まっていることがほとんどだ。
金本位制の廃止は、新しい現実へと道を譲った。新たにお金を追加するのに必要なのは印刷インク数滴のみである。現代の世界で、銀行口座の残高にいくつかゼロを付け足すのは、さらに少ない労力ですむ。銀行のコンピュータで数ビットを入れ替えるだけで十分だ。
“この新たな現実の重要な一側面は、FEDのような機関は破産することはできないということである。彼らは自分らが必要になるであろう量のお金をいくらでも、事実上のゼロコストで印刷することができる。”
ヨルク・グイド・ヒュルスマン
上記で概説した原則は、もっと一般的には“ストック”に対する“フロー”の比率として表わすことができる。簡単に言えば、ストックとは現在そこにあるものの量である。我々の目的では、ストックは現在のマネー供給の尺度である。フローは一定期間(例:1年)でどれだけ生産されるかだ。健全なお金を理解する鍵は、このストックとフローの比率を理解することにある。
法定通貨のストック・フロー比率を計算するのは困難である。なぜならどれだけのお金が出回っているかは、それをどう見るかによって異なるからである。 紙幣と硬貨(M0)のみを数え、トラベラーズ・チェックと小切手預金を追加し(M1)、普通預金口座と投資信託などを追加し(M2)、さらに預金証書をこのすべてに追加できる(M3)。 さらには、この全ての定義と測定方法は国によって異なり、米国連邦準備制度がM3の数値の公開を停止したため、M2の通貨供給量で間に合わせなければならなくなった。喜んでこうした数字の検証を行いたいが、そのためにはとりあえず、連邦準備制を信用しなければならないようだ。
地球上で最も希少な金属の1つである金は、ストック・フロー比率が最も高くなっている。 米国地質調査所によると、19万トン強が採掘されている。 過去数年間で、年間約3,100トンの金が採掘された。
これらの数値を使用して、金のストック・フロー比率を簡単に計算できる:
190,000トン/ 3,100トン = 〜61。
金よりも高いストック・フロー比率を持つものはない。これが、これまで存在するものの中で金が最も堅固で、健全性の高いお金だった理由である。これまでに採掘された金はすべて、オリンピックサイズの水泳プール2つに収まるとよく言われている。私の計算によれば、水泳プールは4つ必要になる。なので、これを更新する必要があるか、オリンピックの水泳プールが小さくなったかであろう。
ビットコインの話に入ろう。おそらく知っているだろうが、ビットコインのマイニングはここ数年、大流行だった。これは我々がまだ、報酬時期と呼ばれるものの初期段階にいるためである。この時期には、マイニング・ノードは、その計算の努力に対して多くのビットコインによって報われることとなる。我々は現在、2016年に始まり、2020年の初期、おそらくは5月に終わりを迎える報酬時期の3番目にいる。ビットコインの供給量は事前に決定されているが、ビットコインの内部動作は、おおよその日付のみを見込んでいる。それにもかかわらず、我々はビットコインのストック・フロー比率がどれほど高いものになるかを確実に予想できる。ネタバレ注意:高いぞ。
どれぐらい高いかって?そうだな、ビットコインはどうやら際限なく堅固なようだ。
マイニング報酬の指数関数的な減少のため、新たなビットコインのフローが減少し、結果としてストック・フロー比率が急上昇する。2020年には金に追いつくが、ほんの4年後には再びそれを追い越し、健全性が倍になる。このような倍増は合計で64回発生する。指数関数のパワーのおかげで、1年ごとにマイニングされるビットコインの数は50年で100ビットコインを下回り、75年間で1ビットコインを下回る。ブロック報酬である世界的な蛇口は、2140年頃にどこかで枯渇し、事実上ビットコインの生産をストップする。これは長いゲームである。これを読んでいるなら、あなたはまだ早期参入者だ。
ビットコインが無限のストック・フロー比率に近づくにつれ、現存する最も健全なお金となる。無限の健全性は無敵である。
経済学の観点から見ると、ビットコインの難易度調整はおそらく最も重要な要素だ。 ビットコインをマイニングするのが、どれだけ難しいかは、新しいビットコインがどれだけ早くマイニングされるかによって決まる*。 ネットワークのマイニングの難易度を、動的に調整することで将来の供給を予測することができる。
(*実際には、有効なブロックがどれだけ早く見つかるかに依存するが、我々の目的上、これは“ビットコインのマイニング”と同じものであり、今後120年の間はそうなる。)
難易度調整アルゴリズムの単純さは、その深遠さから気をそらしてしまう可能性があるが、難易度調整は真の意味でアインシュタイン比における革命である。どれだけ多く、もしくは少なくマイニングに労力が費やされようが、ビットコインの制御された供給が中断されることはない。他のあらゆるリソースとは異なり、どれだけの量のエネルギーが、ビットコインのマイニングに費やされたとしても、合計報酬量は増加しないのだ。
E=mc²が我々の宇宙における普遍的な制限速度を決定するように、ビットコインの難易度調整は、ビットコインにおける普遍的なマネーリミットを決定する。
もしこの難易度調整がなかったなら、すべてのビットコインはすでに掘り尽くされていたであろう。もしこの難易度調整がなかったなら、おそらくビットコインはその初期段階を生き残れなかったであろう。それは報酬期間にネットワークを保護するものであり、新たなビットコインの安定した公平な配分を確実にするものである。これこそが、ビットコインの金融政策を調整するサーモスタットである。
アインシュタインは我々にまったく新しいものを示してくれた。どれだけ強く物体を押そうが、ある時点でそれ以上のスピードを得ることができなくなる。サトシもまた我々に新しいものを示してくれたのだ。どれだけ一生懸命デジタル・ゴールドを掘ろうとも、ある時点でそれ以上のビットコインを手に入れることはできない。人類の歴史上初めて、我々はどれだけ努力しても、それ以上は生産できない金銭価値を手に入れたのである。
ビットコインは私に、サウンド・マネー(健全なお金)は必要不可欠なものであると教えてくれた。
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