<<前回>>
私はイーサリアムがローンチされた日の事を覚えています。ヴィタリックからメールが送られてきてコメントを求められた日の事を。
あれは、2013年の12月でした。彼はこの業界の多くの人々にこのメールを送ってこう言いました。
「聞いて欲しい。新しいアイデアがあるんだ。今、開発者、投資家を探していて、皆さんにもホワイトペーパーを読んで見てほしい。」
そこで私はホワイトペーパーを読みに行って、1つの疑問を持ちました。その疑問は
「どうしてこれをビットコイン上でやらないの?なんで別の独立したチェーンのローンチに全精力を使う方向に行くわけ?」
私はSkypeでヴィタリックに電話をかけ、彼のキッチンで会話をしました。
彼は辛抱強く私に説明してくれました。すでにビットコイン上でそれを試してみたんだと。彼はすでにビットコイン上のマスターコイン・プロトコルと呼ばれるものでそのアイデアを試し、すぐに気が付いたそうです。ビットコインは、イーサリアムの目的とする事を行うには、機能があまりに特定され過ぎていると。
同じセキュリティ・モデルで行うことはできず、彼が言うには、イーサリアムには十分な一般性、相違性、重要性があり、新たなセキュリティ・チェーンを一から立ち上げる努力には、そうする価値があると述べました。別チェーンを立ち上げるのは、本当に本当に難しい事であり、 イーサリアムはそれを行うのに、ビットコインとは十分な違いがあったのです。
それは正しかったかもしれないし、うまく行くかもしれない。まだ確かではありませんが、今の所は時に大丈夫そうに見えますし、時にはあまりうまく行ってないように見える時もあります。
しかしながら、彼らは新しいセキュリティ・チェーンの立ち上げをどうにかやり遂げたのであり、それはイーサリアムがビットコインとは十分に違っていたからです。
でも、今、本当にイーサリアムが大好きな人々と話すと、面白いことに彼らはまるでビットコインができる事を含め、自分たちが全てのことが可能であるかのように話します。
いや、そんな事はできないんです。
それができるのは、ビットコインから十分に差異化をはかったからこそです。つまり、全く異なった環境でプレイするからこそ、汎用的で柔軟なスマートコントラクトで色々できるんです。政府からの攻撃にも耐える事ができる世界のオープンフリーマネーアプリケーションとして、既にビットコインが占有しているスペースにおいては、それはできない事なんです。
イーサリアムは“次なるビットコイン”には、なり得ないんです。
次に起こる面白い事には、イーサリアム界隈の人達が「次なるビットコインは我々だ!」と言う一方、他の人達が「次なるイーサリアムは我々だ!」と言いだしているんです。
そして気が付けばイーサリアム界隈の人々は肩越しに「あんた誰?」「なんで俺らのアプリから始めてんの?」
それでいいんです。なぜなら彼らもまた次のイーサリアムには、なれないのだから。
まったく同じ理由です。アプリケーションのスペース、ヴァーチャルマシンベースの汎用スマートコントラクト・アプリ・プラットフォームは、今ではイーサリアムによりしっかり占有されています。
それがベストだからではありません。
なぜって最初にそこにたどり着き十分長い間、生き残ってまあどうにかこうにか、そのスペースを独占して長い事やってきたからです。
そして今や、イーサリアム用のあらゆるライブラリがあり、多くのイーサリアムアプリ開発者がおり、結果として、自分のものを他者のものと競合しようとする試みは十分な注目を得ることができません。
ですから“次なるイーサリアム”と言うのはないのです。
なぜならそのスペースは既に取られてしまっているから。
これらのテクノロジーの1つを置き換えるには、何が必要でしょうか。他の何かがビットコインやイーサリアムを置き換えるには、一体何が必要となるでしょうか?
誰かが、ほんの少し優れた解決策を発明したとしてもそうはなりません。もしくはずっと優れていたとしても、そうはなりません。
その代わり、それが起こり得るのはスペースを完全に占有していたシステムが、自ら自滅して行った場合のみです。
他の何かが“次なるビットコイン”になるためには、最初にビットコインが失敗しなければなりません。本当に、壮絶なまでの失敗です。
ちょっと小突かれたぐらいの「あぁ、また取引所がハックされて2億ドル失ってしまった」ぐらいなものでなしに。あきらかに、それだけでは十分ではありません。
「中国に禁止されてしまった。これで37回目だ。今回ばかりは本気らしい。」
こんなのでもだめ。ですよね?
トランプ大統領が、ビットコインをドラッグディーラー呼ばわりした所で、何だと言うんだ。全然十分じゃない。以前にも、ドラック・ディラー呼ばわりされた事はあります。トランプより深刻な人達にね。
FacebookやJPモルガンが「我々も暗号通貨を作るよ!」と言いだしたとしても、いやいや、作れっこない。それも十分でない。
唯一ビットコインが失敗できるのは内側からです。
失敗する原因は修復不可能、もしくは人々が修復したがらない致命的な脆弱性があった場合です。
またはコミュニティの失敗が原因となるはずです。
ビットコインの失敗は、信頼や文化の失敗が原因となり、それはこのテクノロジーの分野ではとても起こりにくい事なのです。
なぜならこのテクノロジーには、多くの参加者が様々に異なる動機、文化、言語、OS、ソフトウェア・プラットフォームを有していて、それら全部が1つの核となる基本的なアイデアの元、協力しているためです。
彼ら全員が、異なった理由で一斉に幻滅するような事は大変に起こりにくいですし、これと同じ理由で“次なるイーサリアム”を見つけたいなら、他の何かが現れるためには、まずは現在のイーサリアムが失敗しなければなりません。
ここで良いニュースと悪いニュースがあります。
もしあなたが次なるシットコインを推したいのなら、これは悪いニュースとなるでしょう。なぜなら残念ながら、それが“次なるビットコイン”や”次なるイーサリアム”にはなり得ないからです。
実際、多くのアイデアが現れています。それら成功するには早すぎるか、現在の市場から十分な差異化がなされていません。
世界最高のアイデアとチームを持っていても、まだあなたの時代ではなければ完璧に失敗に終わります。でしょ?
誰かが言うでしょう。「でも、FacebookやMySpaceやGoogleをご覧よ。」
Googleは21番目のサーチエンジンです。彼らは最初の20個が失敗するまで待っていたのです。
ここにいる何人の人がAltaVistaを使った事がありますか?
そうですか。では、何人の人がまだAltaVistaを使ってますか?
マイクロソフトが出てきて「我々は次なるGoogleになる。もっと楽しい名前だしね。その名もBing!」と言ってたのを覚えてますか。
何人の人がBingを使ってますか?新しいコンピュータでまだ他のをインストールできない状態でもない限り。
でしょ?
既に完全にスペースを占有したテクノロジーを引きずり下ろすのは、とても難しい事なのです。
さて、良いニュースですが、もしこうしたテクノロジーの1つが失敗するとしたら同時に豊かな環境も明け渡す事になります。
その土壌はシステムの大きな成功をサポートしますから、それはつまり、“次なるX”になるための候補者たちの長い列が出来ている事を意味します。
どちらが本当に悪いニュースなのでしょうか?
全ての政府や規制当局、そして大企業が、10年の証拠の後にも強くこう願い続けています。
「まだ起こっていないだけで今年こそは、今年こそはビットコインは確実に失敗する。」
「ビットコインはシャットダウンされる。」
彼らは願い続け、自分に言い聞かせています。
「心配ない。政府がこんなのを許すわけがない。」
「こんなものが成功するはずがない。」
そうして10年間違い続けた後も、彼らは対抗する少しの手がかりもないばかりに、ビットコインが自滅して失敗するという希望に未だにすがりついているのです。
さて、ここに彼らにとっての悪いニュースがあります。ビットコインが失敗した瞬間、わずかばかりに優れたソリューションを持つあらゆるライバルたち、失敗に至ったそもそもの原因を具体的に修復するアイデアが、環境にどっと溢れ出し新しい何かを立ち上げ始めるでしょう。
そしてその時彼らが本当に賢明であれば、彼らはそれをビットコインと呼ぶでしょう。
なぜならそれが成し得る最高のブランディングだからです。
ですから、ビットコインは決して死にません。
なぜなら名前を変え続けながら、スペースを占有することはできないけれど、同じスペースを占有して、同じ名前もまた占有していく事はおそらく可能であるからです。
だからこそ“次なるビットコイン”はやはり、ビットコインなのです。
翻訳者後記
前回からだいぶ時間が経過してしまいましたが、どうにか翻訳を完了する事ができました。一時、完全に翻訳作業へのモチベーションが失われておりましたが、何の気なしにアンドレアスさんのこの動画宣伝ツイートに、ALISでの翻訳記事を追加してリツイートした所、何と御本人から「動画にこの日本語字幕追加してよ!」とのコメントを頂き、がぜんやる気が再着火。無事最後までやり遂げることができました。
ALIS内ではまったく需要も人気も感じられず、不遇の時を過ごしたアンドレアスさん動画翻訳シリーズですが、ここに来て外部で少しずつ認められてきて、やっとKatakotoさんのALISでの2年間の活動が報われた感があります。
字幕の方も、アンドレアスさんの公式チャンネルで無事採用して頂きました。
字幕の申請は、レビュー・修正後、表示されるようになるのですが、本人的に納得のいっていない個所が何か所かあります。
①おそらくアンドレアスさんは“イーサリアム”と発言しているが、Youtubeの自動翻訳スクリプト側が“Theory”と翻訳しているため、日本語訳が“理論”となってしまっていて、意味の通らない箇所がある。
②同じ理由で“イーサリアムは次のビットコインにはなり得ない”の箇所が、“なり得るかもしれない。”に修正されている。("can"と"can't”の違い)
③長いセリフには長めの表示期間などで読みやすさの微調整していたが、レビュー版ではあまり考慮されていない。
当然、レビューも人間がやっている事ですから、僕も含めて聞き間違い、誤訳、タイポ、大いにあり得るわけで、やはりこういったものはどんどんオープンソース・プロジェクト化して、皆の力でより良い日本語字幕に仕上げて、どんどんアンドレアスさん関連動画の翻訳を増やしていけたらな!
そんな思いから、現在、利用法学習中のGithubでプロジェクト化してみました。Githubがまだまだ不慣れな点も多く、今後ご迷惑をおかけするかもしれませんが、良かったら遊びに来てください。さて、次は何を訳そうか。