Mt.Gox破綻を追ったアメリカのドキュメンタリ映画
“Bitcoin Big Bang - The Unbelievable Story of Mark Karpeles (2018)”
が非常に面白いので印象深かった所を少しだけご紹介。マルク・カルプレス氏と言えば、僕の中ではこのカタコトの謝罪会見が面白すぎてそれ以上のイメージはなかったのですが、この映画のおかげで彼の知られざる一面を知る事ができました。
「この瞬間、俺、めっちゃイキそうなってる。」
事件の舞台が日本の首都・東京、そして主役のマルク・カルプレス氏がいわゆるコンピューターおたくで秋葉原属性との親和性が高かった事もあり、日本の街並みや途中いきなり差し込まれるアニメ・パートなど映像的にも見てるだけで楽しめる内容になっています。
*以下、画像は全てYoutube:Bitcoin Big Bang - The Unbelievable Story of Mark Karpeles (2018)より引用
↓突然差し込まれるマルク・カルプレス・アニメバージョン
カルプレス氏が日本の公園にPCを置き忘れた際に、盗んだりせずにしっかり届けてくれた日本人の親切心に感銘を受けるエピソードが描かれるのだが、それより気になるのはホウキで公園掃いてるやつの間違った日本人観。
映画はカルプレス氏風の小太り男性による逮捕劇の再現ドラマで始まり、終始、彼をいじり倒す感じで進むのかと思いきや、まさかの本人登場のあたりからこの事件の別の側面へと光が当てられて行きます。
一時は顧客資産の横領を疑われていた彼でしたが、映画の中で実際に見えてくるのは、他人とのコミュニケーションが苦手で、コンピューターと猫と日本のおたく文化を愛する青年が、偶然出会ったビットコインの普及に尽力するうちに、ビットコイン価格のクレイジーな急騰・闇サイト市場シルクロードの台頭による巨額のブラック・マネーの流入など、自分の能力を超えた大きな力に巻き込まれ、急成長する会社のCEOでありながら、そのコミュニケーション能力の欠如から誰にも相談できず、たったひとりでなすすべなく翻弄されていく姿でした。
「みながどうやってコミュニケーションしてるのかを理解するのが難しいんだ。」
「人間の方がサーバーを管理するよりずっとずっと難しい。」
Mt.Goxの元従業員によるタレこみで、奥さんが何度も会社まできて子供ともっと一緒にいて欲しいと泣きながら懇願しカルプレス氏が、彼女が立ち去るまでそれを無視する、といった彼の非人間的エピソードが盛り込まれるのですが、ここで僕らはある事に気づかされるのです。
「マークはものすごく変な人間だ。彼がもし何らかの精神的な病や、アスペルガー、社会的な障害を抱えてたとしても不思議じゃない。」
「彼は多くの人間とは違っていた。僕らが多くの人間に期待するような、人間的な感情の幅を持っていないんだ。彼を“人間ではない形態”と考えてもおかしくはないよ。だって僕らが期待する人間的な特徴を持っていないんだから。」
実の母親の証言からも彼が、先天的に高い知能を持った子供“ギフテッド・チルドレン”であった事が語られます。そしてそうであるがゆえに、生まれながらに大多数の人にとって“当たり前”である事が、まったく“当たり前”ではない独特なOSを持って生きる事となった、彼にしかわからないこの社会へのなじめなさや苦悩の実態も明らかになっていきます。
「あなたがアスペルガーであったとしても驚かないという人々もいますが。」
インタビュアーのこの直球の質問に、「自分が若い頃は、そのような症例がまだまだ一般的ではなかった。でも、そうだとしてもおかしくないよ。」と答えるカルプレス氏。アスペルガー症候群の人には、アイコンタクトを苦手とするケースが多いのですが、相手にきちんと向かい合い丁寧に言葉を選びながらインタビューに答える姿にそのような素振りは見られません。それを誉められると下記のように答えています。
そういった問題に対処するためにトレーニングしたんだ。中学生の頃、その事で何度も叱られた。だから無理やり相手の顔を見る事にしたんだ。鼻とか。何年かの練習後、それは習慣になった。
インタビュアーの「今も私の鼻を見てるの?」の質問に(この質問いるか?)
「実際は、あなたの右目の端を見ているよ。」
とものすごく正確に答えるカルプレス君。なんだか愛おしくて“くん”で呼びたくなってくる。彼は幼い頃から、多くの人にとっては考える余地もない“当たり前”が“当たり前”じゃない社会で混乱し、非難される中それでも周りになんとか適応しようと努力を続けてきたのです。
「もう30年も自分と付き合っているんだ。だからたくさんの方法、習慣を開発してきたんだ。自分を人間らしくするためのね。」
「日本に住むのはフランスにいるよりずっと簡単だよ。例えば挨拶のキスだって、地域によっては2回、3回そして4回だったりするんだ。一方、日本だったら、どこでも挨拶の仕方は同じだもの。ずっとストレスがないよ。」
インタビュアー「あなたは毎日、そうやって他の多くの人々に合わせるためにずっと時間を費やしているのですか?」
「ん~。少しはね。状況と多くの物事によるんだ。例えば、こうやって座って机で話してるなら、20~25%くらいは“自分の手をどうしよう”って事に自分の意識を使ってるかな。こうしようか。それともこうか。手を組むのは“他人をシャットアウトする”事を意味する。だからそうしちゃいけない。ずっと考えてるんだ、“手をこんな風にしばらくしてたら不自然かな?”とか。あなたの動きを見て、コピーしたりね。」
ドキュメンタリを観終わった後は、なぜか自然に彼のこの言葉を信頼できるようになっていました。彼は今、自身の犯した過ちと破綻してしまったMt.Gox社の顧客に対する責任に、ひとり静かに向かい合っているように思います。
「起こった事は、明らかに僕の能力の欠如によるものです。たくさんの事で非難されて然るべきです。でも、それはビットコインを盗んだ事においてではない。」
このドキュメント、他にも今まさに問題になっている“コインハイブ事件“に見られるような日本の刑事司法の問題点にも切り込む内容になっていて非常に面白いのですが長くなりましたので、今回はこの辺で。
「日本は素晴らしい国だ。だが日本の司法制度は“オワッテ”(fucked up)いる。日本の検察官は公平な裁判にも、正義にも興味がない。だからカルプレスの間違いは、彼が日本の司法制度を正義のためのものだと信じた事だ。実際は違う。非難を受け入れる誰かを見つけてきて、有罪にし、物事を先へ進める。それだけだ。」
おまけ
Mt.Gox口座凍結でやもたてもたまらず海外から雪降りしきる東京にかけつけたあの投資家も登場!
ゴシップ記事書いてただけなのにジャーナリストとして紹介されイキる人々