過去4回にわたってアントノプロスさんの講演“Keeping Digital Communities Weird”(デジタル・コミュニティをおかしなままにしておこう!)を翻訳してきましたこの連載(略称:それちょっ)も今日で最終回になります。
「マスタリング・ビットコイン」の著者としてあまりにも有名なのと、これまでのスピーチの内容からBitcoin Maximalist(ビットコイン原理主義者)と誤解されがちなアントノプロスさんですが、意外にも最近では「マスタリング・イーサリアム」を書き上げるなど、他の技術にもビットコイン同様のパッションと関心を注いでいます。一部の狂信的なビットコイン・コミュニティ・メンバーからは裏切り者呼ばわりされたりもしていますが、本人は全く気にしていません。要は自分の知的好奇心が刺激される革新的なテクノロジーなら、分け隔てなく好きな人なんですね。「テクノロジーは科学だから、宗教的になってはいけない」ともおっしゃってました。
余談ですが、ヴィタリック君はイーサリアムの構想を発表する前に、アントノプロスさんにアイデアをシェアして意見を求めていたそうです。その際のアントノプロスさんの反応は「うまくいかないと思う。」だったんだそう。そうしたいろんな疑念に対するクリアな回答を、彼は当時から既にしっかり持っていたそうです。すごいなヴィタリック君。
そういうわけで、しめくくりへと続く話題も、なめらかにビットコインからイーサリアムへと移っていきます。
まさに今、メガバンクや政府は、イーサリアムに恋しています。彼らはイーサリアムがこうした機能を全部持っていながら、ビットコインよりだいぶ奇妙ではなさそうという事実が大好きなんです。
でも彼らは気づいてないんです。まだおかしな所は全部そこに残ってるんですけどね。
私はイーサリアムの変な所も好きですよ。なぜってだいぶ正直に言って、イーサリアムの本質は、電源オフにできない止まらないコード、アプリケーションを作る事だからです。電源をオフにできない理由は、それらは分散型アプリ、DAppsだからです。
なんでDAppを作るのか?
誰かが電源を切りたくなるような、でもあなたはずっと動き続けてほしいDAppを作りたい場合以外で(そんなものは作ろうと思わないでしょ(・∀・)ニヤニヤ )
検閲できないアプリケーションの本質は、誰かにとって攻撃的なアプリケーションをプログラムする事なんです。
なので人々がイーサリアムのアプリケーションを作る時、それらは攻撃的になります。おそらく、この部屋にいる皆さんに対して攻撃的になります。ちょっとだけかもしれないし、すごく攻撃的かもしれません。
ドラッグ・マーケットはシャットダウンできないでしょう。セックスマーケットもシャットダウンできません。
実際の所、コード上、分散化され中立的で止める事ができない環境で使用できる面白いアプリケーションは全部、他の誰かにとってはまさにストップしたいアプリケーションなのです。
そしてそれらは、そういったものを止めたい権力の座にいる人々がいる国々において、よりパワフルなんです。
もし私がロシアにいるなら、イーサリアム上に何かを置きたいですね。プッシー・ライオット・アプリケーションでも作りましょう。プーチンをイラつかせますからね。止められないし。
※プッシー・ライオット(ロシアのフェミニスト・ロック・バンド。過去にプーチン政権への過激な抗議行動で逮捕されている。)
韓国では、大学でのセクハラが問題になっています。大学機関は被害者を黙らせようとしている。なら何があったかをイーサリアム・ブロックチェーン上に書き込みましょう。そうすればそれらは検閲できない。
オスカー・ワイルドは言いました。
“話す価値のあるスピーチはどれも、誰かを傷つける。”
誰かが公開してほしくない真実を話すのがジャーナリズムです。それ以外の全部はマーケティングです。
これから数年間のどこかで、誰かがイーサリアム上に奇妙なアプリケーションを作成するでしょう。そして今、イーサリアムに完全に夢中になっているメガバンクや企業は全部、イーサリアム財団やイーサリアム企業連合に走って行って、彼らはこう言うでしょう。
「ちょっと、これ止めてもらえませんか?」
イーサリアム財団はおそらくこう言います。
「いいえ、私たちは止められません。」
いやいっそこう言うでしょう。「私たちにはできません。」
「イーサリアム改善提案書をご提出ください。コミュニティの意見を聞いてみましょう。」
「ねぇ、コミュニティ。このアプリケーションを止めたいですか?JPモルガンチェースが気に入らないみたいなんです。だめですか?おっとと。」
もしくは、止める決定をするかもしれません。そしてまた別のハードフォークです。
そうして3つ目のイーサリアムが登場します。
イーサリアム。イーサリアム・クラシックそしてイーサリアム・アンセンサード。
なぜならこれらは止める事はできないからです。
クソくだらない企業バージョンとしてフォークして離れ去るしかないのです。でも、もう一方は動き続けます。
そして何を手にしたでしょうか。
その瞬間、私たちは突然気が付くのです。これが私たちが初めて手に入れたGentrificationされないデジタル・コミュニティだと。
街の角にスターバックスは置けても、変な奴らを追い出すことはできない。
もし追い出そうとするなら、我々はフォークして、その界隈と共に居続ける。
おかしなやつらが、史上初めて、自分たちの居場所を手に入れたのです。そしてもう追い出されることはないのです。
これは本当に素晴らしい事です。これはまさにそういうことなのです。
私たちは、乗っ取られ、磨かれ、消毒され、無菌化される事のない、史上初めてのデジタル・コミュニティを手に入れたのです。あらゆる値打ちのあるアイデアが、デズニーやマクドナルドやコカコーラ、JPモルガンチェースのおもちゃに変えられ、クリエイティビティにクソをまき散らし、無価値なものに変えられ、空っぽのマーケティング・スローガンになってしまう事がない場所です。
初めて、私たちはGentrificationされる事のないデジタル・コミュニティを手に入れました。
人々が私に「なぜそんなに暗号通貨に興奮しているのですか?暗号通貨ってなんか変じゃありません?」と尋ねる時、私は答えます。
「そうです。変ですよ。美しいまでに変です。だからこそ、私は興味があるのです。」
私の誓い、そして何か変だからこそ暗号通貨に参加している他の全ての皆さんとの誓約は、暗号通貨を、そしてそのコミュニティを、このままずっとおかしなままにしておく事です。
ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。僕にとってはビットコインへの見方を大変革してくれた鳥肌もののスピーチです。
長きにわたって最後までお付き合いくださった方々、ありがとうございました。この連載で少しでもアントノプロスさんの魅力が伝わったなら本望です。最近、ALISでは長文はあまり好まれない傾向にある事を記事で検証してくださった方がいらっしゃいましたが、そんな中でこの場までたどり着いて最後まで読んでくださった方は、ALISコミュニティ内でもだいぶ変わり者と思われます。
アントノプロスさんの言うように、どうかそのままで。面白さの源泉、真のクリエイティヴィティはあなた達のような人々と共にあると僕は考えるからです。
今後ALISコミュニティがどのように発展していくのか、まだ誰にもわかりませんが、できれば淡い色や少しくすんだ色たちも、単にきれいでわかりやすい色たちに塗りつぶされることなく、そのままALISの彩りの一部となる事を期待しています。それがALISの目指す“信頼の可視化”ならば、自分も喜んで一緒にその場を楽しみたいと思います。
それでは北野ブルーではありませんが、最後にビートたけしの物真似で首をカクカクしながらこの台詞で締めたいと思います。
ビットコインもイーサリアムもALISもそしてそのコミュニティも
ご清聴ありがとうございました。
それアントノプロスさんならなんて言うかちょっと聞いてくるわ 過去記事
“Keeping Digital Communities Weird”
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