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【教育:中日翻訳工作坊】外国語の作品を翻訳する人は、翻訳する作品をどうやって決めるの?

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  • kaz
  • 2019/10/22 17:24
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こちらのアイキャッチのイラストはミカヅキカヅキさんに描いていただきました!

はじめに

この記事は2019年3月7日にOCRYBIT-CMSに公開していた記事「何を翻訳する?それってどうやって決める?」を加筆修正したものです。

みんな大好き!億ラビットくんさんが作った「次世代ブログプラットフォーム」で、どんな記事を上げていこうかな〜と考えたときに、僕の仕事とも関係のある「翻訳」をテーマにした記事を書いていこうと考えました。

このあたりの考え方については、以下の記事にまとめました。

と言いつつ、すっかり更新が止まってしまっていました…

ところが、みなさんご存知のとおり、億ラビットくんさんが新たなプラットフォームALISCHOOLを開設しました。

学びを相互支援するコミュニティ」を掲げるALISCHOOLに上げていく記事として、中断してしまった「翻訳」をテーマにした記事はフィットするのではないのかなと思ったので、OCRYBIT-CMSに書いた記事を加筆修正してこちらにも上げておきます。

これを機に、またコツコツと翻訳記事を上げていけたらと思いますので、どうぞよろしくお願いします🙇‍♂️

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ということで、OCRYBITデビューの記事では、「研究としての翻訳」の作業の「可視化」を目指して、これから記事をアップしていきますよ〜と書きました。

これから、この「中日翻訳工作坊」と銘打った記事は、僕の個人的な「翻訳作業ノート」にしていきたいなと思うのですが、そのノートをここで公開していくことで、どんな効果が現れてくるのか/もしくは現れてこないのかを感じながら、僕自身も使い方を模索していきたいと思います。

ちなみに、「工作坊」というのは「workshop /ワークショップ」の中国語訳です。

まさに僕の仕事の一端を見せていくような記事になればいいなぁと思って名付けました。

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さて、具体的な翻訳作業に入っていくにあたって、まずは翻訳を進めていく翻訳対象を決めないといけません

もちろん、依頼された翻訳仕事でしたら与えられたもので作業を進めますし、商業ベースに乗せるようなものなら「需要があるかどうか」が最優先ということになります。

まあ、何を以って「需要がある」=「売れる」とみなすのかということは…

・どんな分野の内容なのか

・ターゲットをどう設定するか

・出版社の得手・不得手

・原典の著書や翻訳者の実績・ネームバリュー

・時代性・話題性

などなど、いろいろな要素が絡み合って判断されるわけで、このあたりは翻訳書ではない商業出版の場合も同様ですね。

商業ベースに乗るような翻訳で意識することについて知りたい方への内容はここまでです。タイトルからそうした内容を想像された方には謝ります。ごめんなさい🙇‍♂️

そういえば、僕が出版社に翻訳書の企画を提案した時に、「需要がありません、売れません」とはっきり言われたことがあったなぁ…悲しい…(遠い目)

…という感じの僕には、「売れる翻訳書の決め方」は経験がないためによくわからないので、以下、「研究としての翻訳」をどうやって進めていくかということに絞って考えてみます。

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で、唐突ですが、これから翻訳していきたいなぁと考えている研究書は、これに決めました!


 

陳智衡『太陽旗下的十架:香港日治時期基督教會史(1941-1945)

(香港、建道神學院、2009年)

*リンクは販売元のウェブサイト(香港、繁体字)に遷移します

 

書名をとりあえず日本語に訳してみると、『日章旗下の十字架:日本統治期香港キリスト教会史(1941-1945)』となります。
 

 

「需要がありません、売れません」

 

…はい、わかります。そのとおりだと思います。

ごめんなさいとしか言えません🙇‍♂️

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でも、僕がこの本を研究対象として「翻訳したい!」と思ったということには、一応、理由があります。

 

理由その1:日本語に翻訳されていない

これは当たり前のように思われるかもしれませんが、たとえば古典的な書物の場合は複数の日本語訳が存在したりします。

時代を超えて読み継がれるべきものだからこそ複数の訳書や訳文が出されるわけですが、それだけに原典ばかりではなく翻訳自身が研究・検討の対象となり、時代に合わせた研究の潮流に合わせて新たな翻訳が試みられるということがよくあります。

ですが、こうしたケースはいわゆる「名著」として世界的にも評価されているものに限った場合ですので、まずは「日本語訳が存在しない」ということが大切です。

今回、翻訳していこうと思っている本も、今のところ日本語訳は存在しません。

なお、日本語で書かれた論文などで、翻訳しようと思っている本の一部が引用などの形で既に部分的に翻訳されているというケースがよくありますが、こうしたケースはむしろポジティブな要素になります。

なぜなら、当該書の翻訳によって全体的なニュアンスを日本語話者が掴みやすくなり、研究の発展に寄与しますし、すでに先行研究で引用されているということは、当該書に研究上の需要があることを示しているということにもなりますので、より積極的に翻訳を試みる理由として考えることができます。


理由その2:日本では研究蓄積が不足している内容を扱っている

文系研究(とりわけ、文学・哲学・歴史学・言語学のような人文科学)は、研究者コミュニティだけの「閉じた世界」のように捉えられがちです(もちろん、そうした性格が強いということも否定し難いのですが)。

ですが、こうした研究分野をフィルターにしてまとめられた研究成果を基に、社会のなかにさまざまな知識や言葉や思考や視点=知見が実装されていき、その社会に生きる人々の参照軸となっていきます。

ここでいう「研究蓄積」の「不足」は、もちろん研究者コミュニティのなかで該当するテーマが充分に取り扱われていないということも意味しますが、それと同時に、そうした研究蓄積に支えられている社会的な知見の不十分さも意味しています。

研究の世界で知見が不足しているということは、つまり、日本の社会のなかで対象を適切に捉える思考や言葉が十全ではないということになります。

ですので、日本では充分に研究成果が蓄積されていない内容を取り扱っている、外国語で書かれた書物・文章を翻訳しようと考えます。

これから翻訳を進めていこうと思っている著書の副題は、「日本統治期香港キリスト教会史」となっています。

日本の歴史研究のなかで、「日本統治期」の「香港」の「キリスト教」の「教会」の「歴史」に関する知見は、それほど充分に蓄積されているとは言えません。

(ちなみに、中国語の「基督教」は「プロテスタント」を意味しますが、便宜上、ここでは「キリスト教」としています。このあたりは翻訳のプロセスで考えていくべき課題ですね。なお、「カトリック」は「天主教」と表記します)

この点、そもそも「日本統治期の香港」や「香港のキリスト教会の歴史」といった、本書を支えるバックボーンに関する研究蓄積も日本では少なく、翻訳を通じてこうした不足を補うことができるだろう…と予想されます。

 

理由その3:日本語で表現される世界観とは異質なものを持っている

翻訳という作業は、基本的に自分の母語以外の言語がわかる人にしかできないことですが、そうした人にとってはわざわざ一手間かけて行う作業=翻訳ということになります。

というのも、自分の用を足すだけで良いのであれば、その人は翻訳を経由しなくても、外国語で書かれた内容を直接理解することができるからです。

それをわざわざ形にして残す・表現するというのは…

・当該言語を話す人にぜひ読んでもらいたい・理解してもらいたい・共有してもらいたい

・当該言語で表現される世界観をより豊かなものにしたい

そのどちらか・またはその両方が関わっていると思います。

僕の場合は両方の要素を意識するのですが、1を強く意識すれば、日本では知見が共有されていないような内容のものを選ぶ傾向がありますし、2の理由が前面に立つ場合には、日本が直接的に関わっているような内容のものを選ぶことがよくあります。

前者は「理由その2」とつながっているのですが、後者については、たとえば、外国語で日本のことを書いたものというのは、その外国語を運用する人々の考え方・見方・志向・思考などが想定されて書かれているはずです。

つまり、その外国語を運用する人々のなかにある世界観を、その書物は内に含んでいると考えられるんですね。

そこには、日本語話者だったら想定しないような考え方や見方や志向・思考によって「日本」というものが描き出されているといえます。

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たとえば、ここで翻訳していく本で取り上げられている「日本統治期香港キリスト教会史」というテーマは、「日本統治」を研究対象としていることから、「日本史」の文脈で捉えることができます。

「日本史」の文脈で捉えるというのは、学問的な方法によって規定されるということもありますが、それ以上に、主に日本語で表現される歴史の文脈から対象を捉えるということです。

このテーマはそうした捉え方が可能なのですが、そうした単眼的な見方だけではなく、「香港史」の文脈から位置づけることができるテーマでもあります。

「香港史」の文脈というのは、言語的にはどのように描かれる世界観なのかということは非常に複雑なのですが、無理にまとめるとすれば、英語・中国語(北京語)・広東語の複雑な交わりの上に成り立つ世界観だといえます。

「日本史」と「香港史」を支える言語的世界観の相違をこのようにイメージしただけでも、そこで描かれる「歴史」は根本的に「異質なもの」になるだろうと思います。

加えて、このテーマには「政治史」、「宗教史」、「東洋史」、「西洋史」などなど…さまざまな言葉で表現されうる世界観が多様に交錯していることが想像されます。

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こうした「異なる言葉」で表現される世界観を日本語のなかに登録することができれば、日本語で表現される世界観をより豊かにすることができるのではないか…と感じるものを翻訳したいなと思います。

(このあたりは、言語学者のソシュール以降の「言語論的転回」をうまく説明できれば、もっとクリアに言えるのになぁ…と感じます💦)

 

あらためて文章にしてまとめると、自分がなぜその本を「翻訳したい!」と思うのかということには、いろいろな要素が絡んでいるのだなと実感します。

まだ文章にできていない理由もある感じがしますが…

少なくとも、ただ単に思いつきで翻訳しているわけではないんだな、と自分で確認することができて安心しています😅

翻訳は単なる「言葉の置き換え」ではなく「世界観の組み替え」を促す創作活動だと思うので、そうしたことが意識できるような作業ができればなと思います。

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さて、次回以降は、翻訳作業の地道な「ノート」になっていくと思いますが、翻訳をするときにどんなことに注意しているかということを意識しながら、記事にしていけたらと思っています。

本当は一冊まるまる翻訳する作業を記事化していけたらと思うのですが、そうすると終わりが見えないような気がします…

また、翻訳という作業そのものが時間のかかる、とっても骨の折れる作業ですので、これから他の記事も書きながらどれほど進めていけるのか…

先のことは全然見えませんが、とりあえず始めるということが大切かなと思いますので…

気長にやっていきます!

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