何気なくTwitterのタイムラインを眺めていると、中国が「ブロックチェーン規制」を検討しているというニュースが目に止まりました。
ツイートにリンクされていたのは、「ASCII.jp」の以下の記事でした。
出典として挙げられている記事は、中国のブロックチェーン・仮想通貨関連の英語情報では定番の「coindesk」と「South China Morning Post(以下、南華早報)」の、以下の記事です。
日本語記事としてはもうひとつ、「CoinPost」の以下の記事もありますが、内容としては、上のふたつの英語記事をベースとしているようです。
同様のニュースが台湾のニュースサイトでも報じられていましたので、それぞれの記事に共通する視点とニュアンスの違いを気に留めながら、情報元の中国の関連法および関連法案を少したどってみましたので、記事として書き留めておきます。
・各言語の記事の重点は?
・今回の草案の条文は?
・ブロックチェーンと国家方針との関係性
中国がブロックチェーンへの規制を強めるのでは?というニュースは、中国のネット情報を管理している「国家互联网信息办公室(Cyberspace Administration of China)」が、法令に関するパブリックコメントを募集する「公开征求意见系统(パブリックコメントシステム)」に、「区块链信息服务管理规定(ブロックチェーン情報サービス管理規定)」の草案をアップしたという動きに基づいています。
この草案の条文については後で触れるとして、この動向について…
まず日本語記事では、「ASCII.jp」の記事が明確に「ブロックチェーンの規制」を軸にまとめられているのに対して、「CoinPost」の記事は「中国政府が関連企業にユーザー情報の収集を命令」というサブタイトルが付けられているように、ブロックチェーン企業からの情報収集に着目しています。
これらの日本語記事が参照している英語記事のうち、「coindesk」の記事は今回の草案の内容を比較的多く取り上げているのに対して、「南華早報」は草案の内容よりも、今回の草案起草に至った社会的背景についての記述が多くを占めている印象です。
こうした英語記事に基づき、台湾で中国語(繁体字)記事が書かれています。
台湾のテック系ニュースサイト「數位時代」には2018年10月23日付で、「中國出手監管區塊鏈服務,實名制將讓匿名特色蕩然無存(中国がブロックチェーンサービスの管理に乗り出し、実名制が匿名の良さをきれいに一掃してしまうだろう)」というタイトルの記事が掲載されています。
この記事は、上に挙げたふたつの英語記事に加えて、「The Verge」の以下の記事を参照しています。
The Vergeの記事では、ブロックチェーン上に記録された情報へ政府機関がアクセスできるようにする規制であることが紹介されると同時に、「南華早報」でも触れられていた2つの具体的な「事件」が取り上げられています。
その事件とは…
①2018年4月、大学で起きたセクシャルハラスメント・性暴力を大学当局が隠蔽しようとしたことに反発した学生が、事件に関するレポートをイーサリアムベースのブロックチェーン上で公表したこと
②2018年7月、偽ワクチンの流通に関するニュースをネットユーザーがブロックチェーン上に発信したこと
の2点が挙げられています。
いずれも、中国政府の徹底した情報管理に対して、ブロックチェーンを活用した「検閲逃れ」の事例として言及されています。
台湾の「數位時代」に記事にも、これらの事件が言及されていると同時に、今回の中国の規制草案が「加強管制(管理強化)」につながるものだとしています。
また、台湾の大手紙「自由時報」に掲載された記事では、草案の「第10条」の内容を中心にまとめられていて、より草案の内容に即した記事となっています。
今回、パブリックコメントの受付が始まっている「区块链信息服务管理规定」の草案については、上に挙げたパブリックコメントのサイトで全文を読むことができます。
全23条で構成されていて、パブリックコメントは2018年10月19日から同年11月2日までコメント受付がおこなわれるようです。
根拠法令として、2000年9月に公布施行された「互联网信息服务管理办法(インターネット情報サービス管理法規)」や2016年11月に全人代を通過した「中华人民共和国网络安全法(中国ネットセキュリティ法)」などが挙げられています。
インターネットの管理・検閲の根拠となっている法令に基づいて、ブロックチェーンの管理も進めていこうという意図をうかがうことができますね。
条文の内容については、まず台湾の「自由時報」の記事で言及されている第10条の条文は、以下のようになっています。
区块链信息服务提供者应当按照《中华人民共和国网络安全法》的规定,对区块链信息服务使用者进行基于身份证件号码或者移动电话号码等方式的真实身份信息认证。用户不进行真实身份信息认证的,区块链信息服务提供者不得为其提供相关服务。
(ブロックチェーン情報サービスのプロバイダは「中国ネットセキュリティ法」の規定に照らして、ブロックチェーン情報サービスの利用者に対して、身分証番号、あるいは携帯番号などに基づく本人による身分認証をおこなわなければならない。本人による身分認証をおこなわないユーザーには、ブロックチェーン情報サービスプロバイダは関連サービスの提供をおこなってはならない)
「自由時報」の記事では、この条文を基に「這意味著未來用戶的發言將不再具備匿名性(これが意味するところは、将来、ユーザーの発言は二度と匿名でおこなわれなくなっていくということである)」と指摘しています。
「仮想通貨」という限られたサービスにおけるKYCの問題ではなく、「ブロックチェーン」というあらゆる社会サービスへの実装が模索されている技術におけるKYCということのもつ問題の大きさを、この記事は的確に指摘しているように感じます。
そのほか、いくつかの条文をピックアップしていくと…
第2条では…
「区块链信息服务提供者(ブロックチェーン情報サービスプロバイダ)」の定義を、「指向社会公众提供区块链信息服务的主体或者节点,以及为区块链信息服务的主体提供技术支持的机构或者组织(一般大衆に向けてブロックチェーン情報サービスを提供する主体あるいはノード、ブロックチェーン情報サービスの主体のために技術サポートを提供する機構あるいは組織)」としていて、サービスの開発業者だけではなく、基盤技術の開発組織も含んでいます。
第4条では…
プロバイダによるサービス開始の10営業日前までに「区块链信息服务备案登记表(ブロックチェーン情報サービス登録フォーム)」を入力し登録申請すること
第5条では…
申請を受けた各行政組織の「互联网信息办公室(ネット情報事務所)」は20日以内に登録認可の可否を通知すること
第7条では…
「新闻、出版、教育、医疗保健、药品和医疗器械等互联网信息服务(ニュース、出版、教育、医療・保健、薬品や医療機器などのネットニュースサービス)」をブロックチェーンに載せるためには、関係当局の審査・承認が必要
第9条では…
ブロックチェーンプロバイダやユーザーは、「危害国家安全、扰乱社会秩序、侵犯他人合法权益等法律法规禁止的活动(国家の安全に危害を加え、社会秩序を撹乱し、他者の合法的な権益を侵害するなどの法律法規が禁止する活動)」をブロックチェーン上で展開してはならないこと
などが、草案の条文として挙げられています。
こうした具体的な条文からも、現在の中国におけるネット管理・検閲の仕組みのなかにブロックチェーンを位置づけようとしている様子がうかがえますね。
今回の草案は11月2日までパブリックコメントの受付がおこなわれる予定となっていて、このあと、どのような形で実際に公布施行されるのかということについては、上に挙げた複数の記事が「今後は未定である」と伝えています。
パブリックコメントを受けてどの程度修正されるのかというところも含めて、今後の動きは未定ですが、インターネット管理・検閲の枠組みのなかに明確に位置づけようとしている姿勢からは、案外早く、法律公布へと進んでいく可能性もあるとおもいます。
また、こうした規制が、中国のブロックチェーン産業にどのような影響を与えるのかということについても、これからの法整備および企業のコメントなどを追いかけていく必要がありますが、今のネットをめぐる社会環境のなかで、中国から多様な世界的企業が成長してきた状況を踏まえれば、ポジティブに働く可能性もあるのかもしれません。
もちろん、ブロックチェーンを中央集権的に規制することができるのかという大きな課題はなお残り続けるわけで、法規制が新たにどのような事態を招くことになるのか、まだまだ未知数だと思います。
中国のブロックチェーン産業がどうなっていくかということは、世界的な関心事でもありますから、これからの動きもできる限りコツコツと追いかけていきたいと思います!