(新北市の北部、淡水の繁華街。川沿いでキレイな景色が素敵なのですが、雨の写真しかありませんでした^^;)
新たな技術であるブロックチェーンが社会実装されていくためには、技術やサービスを開発する企業の発展はもちろん、良好な開発環境が社会のなかで構築されていく必要がありますね。
法制度の整備や各種のアクセラレーター・インキュベーターのプログラム、行政機関のサポートや教育機関・人材養成機関の充実などなど、さまざまなところで新たな技術を支えていくような環境が必要になってくると思います。
そうしたなかで、行政機関のサポートについてはこれまでの記事で、台湾の地方自治体がそれぞれの方法でブロックチェーンを行政システムに導入しようという動きがあることについて書き留めてきました。
今回は、そうした動きとは少し違う角度から、ブロックチェーン産業そのものを育てていこうという自治体の動きが目に留まりましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・新北市が「ブロックチェーン推進室」を設置
・BizWitcherによるデモンストレーションも!
・ブロックチェーン特区の開設を見越しているけれど…?
台湾の大手紙「中國時報」が報じた記事によると、2018年9月10日に台湾の北部にある新北市が市内の三重區に「新北市區塊鏈推動辦公室(新北市ブロックチェーン推進室)」を設置したことを公表し、開設セレモニーを開催したそうです。
この動きについては既に今年8月の時点で公表されていて、僕も記事に書き留めましたが、それが実際に動き出したということですね。
前回の記事では文章で書いたのですが、新北市は2010年までは「台北県」と呼ばれていた地域で、台湾の北部にあります。
推進室は「新北創力坊(Innosquare)」という、新北市が開設している起業者支援の拠点の一角に開設されたようです。
新北創力坊は新北市の「經濟發展局(経済発展局)」が運営する施設で、公式ウェブサイトには「創業加速器、投資媒合與產業媒合(起業アクセラレーター、投資や企業のマッチング)」を目的に開設されたとあります。
新北市にはこうしたスタートアップを支援する施設が既に開設されていたこと、また、推進室が置かれた三重區は工業地帯でもあり、地図からもわかりますように、台北市の中心部から近いなど、スタートアップが活動しやすい環境が整えられているということがイメージできますね。
「中國時報」の記事によれば、セレモニーでは新北市長の朱立倫さんが推進室の目的について言及し、「場域實驗(実地試験)」、「人才培育(人材養成)」、「產業媒合(産業のマッチング)」、「國際合作(国際協力)」という4つの方向性でブロックチェーンに関する起業をサポートしていくということです。
このうち、まずは人材育成に注力していくということですから、アクセラレータープログラムのようなものが実施されるのかもしれませんね。
セレモニーでは推進室の開設発表だけではなく、実際にブロックチェーンの開発とサービス運用を進めている「BizWitcher」という企業によるデモンストレーションもおこなわれたそうです。
BizWitcherの公式ウェブサイトによれば、「BizWitcher提供一個創新、安全、可靠的商業資產收併購、投融資服務, 藉此提升資產流動性及交易效率,同時減少交易成本及風險。(BizWitcherはイノベーティブで安全かつ信頼性の高い資産購入や投融資サービスを提供し、資産の流動性と取引効率を向上させることで、取引コストやリスクの減少を実現する)」とあります。
より具体的には「虛擬資產(ヴァーチャルアセット)」、いわゆるアプリケーションやウェブサイト・ブログといったウェブ上のコンテンツを「資産」として取引することができるプラットフォームを提供しているようです。
実際の取引プラットフォームには世界中の多様なコンテンツが売りに出されていて、売買に関する情報が掲載されています。
ブロックチェーン推進室のセレモニーに登壇してデモをおこなった、BizWitcherの創業者でCEOの張哲維さんは、台湾のスタートアップニュースサイト「Meet」のインタビューに答えて、自社の方向性を以下のように説明しています。
隨著科技進步,隨著年輕網路時代的人口增加,未來網路滲透率會愈來愈高,我們很看好未來網路資產交易量會不斷提升。
(技術の進歩にともなって、若いデジタルネイティブの人口が増えてくると、将来はネットの浸透率がどんどん高くなっていき、ヴァーチャルアセットの取引量も増え続けると考えている)
これからの市場発展を見据えた事業を展開し、ブロックチェーンの開発も進めているというところは、今回の新北市による取り組みが目指すところとマッチしているように感じます。
BizWitcher自身も今回の推進室によるサポートを受けるようですから、今後の事業展開が注目されますね。
上に挙げた過去記事でも触れましたが、今回の推進室設置は、2018年末に「區塊鏈實驗特區(ブロックチェーン実験特区)」を設けるための第一歩と位置づけられています。
この計画には、僕もこれまでの記事でたびたび触れている、台湾のブロックチェーン発展のキーパーソンである立法委員の許毓仁さんも関わっているようで、今回の推進室設置セレモニーにも登壇していたようです。
今回の取り組みについては新北市の公式ウェブサイトでも報じられているので、このまま順調にいけば実験特区の設置まで進んでいくと思います。
ただ、ひとつだけ懸念があるとすれば、2018年11月に実施される統一地方選です。
このときに新北市長選挙も実施されますが、現職の朱立倫さんは出馬せず、後継候補である元副市長で国民党公認候補の侯友宜さんと、与党民進党のベテラン政治家で行政院長(行政機関のトップ)の経験もある蘇貞昌さんの一騎打ちになると予想されています。
両候補のブロックチェーンに対する考え方はまだ報じられていないので、どちらの候補が当選すればどうなるのかということについてはよくわかりませんが、公約次第では現在の方針が修正される可能性も出てきます。
とりわけ、特区設置となれば広大な敷地と莫大な予算が必要になるでしょうから、選挙戦のなかで論点のひとつとして浮上してくるということもあるかもしれません。
こうした動きも視野に入れながら、これからの動きもコツコツと追いかけていきたいと思います!