ブロックチェーンの開発や普及をめぐる動きは世界的に展開されているので、企業や団体間の提携が国境を越えて進められていますね。
台湾でも、たとえばシンガポールのブロックチェーン開発企業と提携する動きが、いろいろな分野でおこなわれています。
今回は、台湾とフィリピンそれぞれのブロックチェーン関連団体が提携というニュースを目にしましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・台湾とフィリピンの関連団体が覚書にサイン
・それぞれの業界団体はどんなところ?
・フィリピンはアジアから注目されている?
台湾の大手紙「自由時報」のウェブサイトが2019年1月30日に掲載した記事によると、台湾の「立法院ブロックチェーン推進ネットワーク(立法院推動區塊鏈連線)」が、フィリピンの「CEZA経済特区(CEZA經貿特區)」と「ABACAアジアブロックチェーン・仮想通貨協会(ABACA亞洲區塊鏈暨加密貨幣協會)」の2団体と、ブロックチェーン産業の発展に関する覚書(MOU)にサインをしたということです。
台湾の組織を代表してサインした立法委員の許毓仁さんは、今回の提携が実現した背景を以下のように説明したそうです。
わが国とフィリピンは距離が近く、飛行機ですぐに行けるだけではなく、国内には10万人以上のフィリピン籍の労働者がおり、東南アジアの移民労働者は35万人に達する。ブロックチェーンを活用することで、オープンで透明性が高く、かつスピーディな国際送金環境をより便利に、安全に構築することができる。このほか、フィリピンには1億1千万人を超える人口がいて、平均年齢は23歳だが、7割の庶民がフィンテックIDとネットバンクの環境を有していない。台湾のスタートアップにとっては大変な市場の潜在力を備えている。
(我國與菲律賓不僅距離近、航程短,國內還有10萬名以上的菲律賓外籍移工、東南亞移工合計逾35萬人,可透過區塊鏈打造公開、透明、速度又快的跨境匯兌環境,更便利、安全,此外,菲律賓有超過1.1億人口、平均年齡23歲,但7成民眾沒有金融科技帳號與網路銀行設備,台灣新創極具發展潛力。)
以下の地図を見ていただけると一目瞭然なのですが、台湾はフィリピンと距離的に近く、伝統的な人的交流が盛んな地域のひとつとなっています。
実際に、1960年代ごろから台湾には、台湾での労働や台湾人との結婚を目的に、フィリピンをはじめとする東南アジア諸国の人々が多く渡ってきていて、「新住民」と呼ばれるひとつの民族的カテゴリーを形成しています。
(このあたりの経緯については、台湾・台南にある国立台湾歴史博物館が特別展を開催した時の解説が参考になります)
こうした社会的な背景をもとに、移民の人々の「国際送金」という具体的なターゲットを設定し、台湾のビジネスチャンスを拡大するものとして、ブロックチェーンの活用が意図されていることがうかがえますね。
今回の覚書でサインを交わした台湾の「立法院ブロックチェーン推進ネットワーク」については、以下の記事で結成時の様子を書き留めましたが、立法機関である立法院の立法委員を中心に結成された、ブロックチェーン・仮想通貨業界を後押しする超党派組織です。
その中心的な人物が、今回の覚書に代表としてサインした許毓仁さんです。
許毓仁さんについては以下の記事にまとめたように、ブロックチェーン・仮想通貨関連法令の成立に尽力すると同時に、台湾の産業発展に向けて国際的な活動を広く展開しています。
今回の提携も、許毓仁さんが展開してきたこれまでの活動の延長線上にあることがわかりますね。
また、許毓仁さんは自らのFacebookページにも提携の様子について記事を上げていて、上に挙げたような提携の意義について発信しています。
許毓仁さんはこの記事のなかで、フィリピンの提携組織についても言及しています。
ここで挙げられている「CEZA経済特区」については、正式名称である「Cagayan Economic Zone Authority」として触れられています。
日本語では「カガヤン経済特区庁」と訳され、以下のCoin Choiceの記事でも取り上げられていますように、仮想通貨・ブロックチェーン産業の取り込みを積極的に進めている行政組織であるようです。
また、蟻巣ジョシさんの記事でも触れられていますように、NEMフィリピンとの提携も実現したということで、フィリピンの関連産業受け入れの窓口となっていることがうかがえますね。
さらに、今回の提携先のもうひとつの組織である「ABACA」については、ABACAによるニュースリリースのなかで以下のように概説されています。
アジアブロックチェーン・仮想通貨協会(ABACA)はカガヤン経済特区庁(CEZA)に認可された自主規制組織(SRO)です。ABACAはCEZAとABACAのメンバー内で、あるいはメンバーとフィンテック企業のためのベストプラクティスや業界基準の倫理規定とコンプライアンスに関する自主規制をおこないます。
(Asia blockchain & Crypto Association ("ABACA") is a self-regulatory organization (SRO) granted under the authority of the Cagayan Economic Zone Authority (CEZA). ABACA self-regulates the code of ethics and compliance with best practices and industry standards for the financial technology firms operating within, or in affiliation with CEZA and ABACA members.)
こうした役割から考えると、今回の提携は台湾とフィリピンのブロックチェーン・仮想通貨に関する官民協働組織による、関連産業の健全な発展を進めていくためのものであることがうかがえますね。
先に挙げた蟻巣ジョシさんの記事でも触れられていましたように、フィリピンはカガヤン経済特区を足がかりに、国を挙げてブロックチェーン・仮想通貨産業を育成する姿勢を打ち出しています。
今回の提携によって、フィリピンは台湾との提携に踏み出したわけですが、実はすでに中国・香港も、フィリピンに対していろいろなアプローチを展開しています。
たとえば、以下の記事にまとめましたように、中国のQRコード決済「支付宝」を運営するアリババグループ傘下のアントフィナンシャル(蚂蚁金服)が、フィリピンのGcashと提携して、ブロックチェーンを活用した国際送金を実現しています。
フィリピンの国を挙げたバックアップのもとで、多くのスタートアップが育ちつつあると同時に、そうした環境の整備が注目を集める形で、周辺地域の企業の進出や提携が進んでいる感じですね。
上に挙げた地図を眺めてみても、フィリピンは台湾や中国の海南島とともに、東アジアと東南アジアをつなぐ拠点になりうる地勢的なメリットを持っています。
公用語として英語が流通している地域でもありますし、世界的にも注目を集めるポテンシャルを持っている、もしかしたらもうすでに注目されている場所なのかもしれません。
台湾・香港・中国の動向と合わせる形で、フィリピンのこれからの動きにもコツコツと注目していきたいと思います!