(台北の街角にある小籠包のお店。こういうところが美味しかったりするんですよね)
僕のこれまでの記事でも触れてきましたが、台湾では医療機関や保険会社でブロックチェーンの活用を進める動きが活発になってきています。
こうした分野へのブロックチェーンの導入は、単純に効率化やコストカットにつながるというだけではなく、患者さんのヘルスデータを誰が管理するかという本質的な部分に関わるものだと認識されているようです。
しかも、こうした動きが業界内だけで共有されているだけではなく、社会に広く認識されつつあるというところが新しい動きかなと思います。
今回は、「医療×ブロックチェーン」をめぐる新たな動きと合わせて、これまでの動きが広く共有されていくような動きが目に留まりましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・医療保険プラットフォームがもうすぐ運用開始?
・「医療×ブロックチェーン」の動きはマスメディアにも⁉︎
・ブロックチェーンへの理解は深まるか?
台湾のネットニュースサイト「ETtoday新聞雲」が2019年1月11日に掲載した記事によると、台湾の保険業の業界団体である「中華民國人壽保險商業同業公會(壽險公會)」が近年、開発を進めてきたブロックチェーンを活用した登録プラットフォームが2019年2月から試験運用開始、6月から正式運用開始の予定だと公表されたそうです。
まず、プラットフォームの利点として挙げられているのは、紙の保険証書の削減によるコスト低減です。
記事には、プラットフォームの運用開始によって5.35億台湾元(約19.8億円)のコスト減につながり、約2万本の樹木分のパルプを削減できると指摘されています。
(ちなみに、このパルプの量は、台北市内の有名な公園である大安森林公園5つ分の資源に相当、と説明されているところが台湾らしいところです)
こうしたメリットに加えて、プラットフォームの活用が顧客にもたらすメリットが以下のように説明されています。
(顧客は)保険手帳アカウントを通じて、それぞれの保険会社での保険内容を自分で見ることができ、補償内容などの契約情報管理し、理解するのに役立つ。
(透過一個保單存摺帳戶就可以看到自己於各家保險公司的保單內容,方便管理及了解保障理賠等條款資訊。)
こうしたメリットは当たり前のように感じるかもしれませんが、注目されるのは、このような特徴が「資料権を人民に返そう(把資料權還給人民)」と題された集会の場で語られたと報じられていることです。
ブロックチェーンを活用したプラットフォーム構築の取り組みが、個人資料の管理を個人ひとりひとりが管理・運用できるようにするという考え方と結びついていると、サービス開発の当事者によって言及されているところが、新たな動きとして注目されるかなと感じました。
まずは2月に、國泰人壽、中國人壽、台灣人壽という大手保険会社3社が参加する形で試験運用がおこなわれ、その後の正式運用に向けてはすでに13社が参加を表明しているということです。
13社というのは壽險公會の公式ウェブサイトによれば、公會に加盟している台湾内の保険会社19社の3分の2にあたります。
プラットフォームの運用開始に、業界内では期待が高まっているように感じますね。
冒頭にもリンクを貼りましたように、「保険×ブロックチェーン」や「医療×ブロックチェーン」をめぐる動きは、台湾では多方面で展開されはじめています。
まさに、2018年に「ブロックチェーン元年(區塊鏈元年)」を迎えていた台湾に顕著な動きだといえますが、2019年に入って、こうした動きがより一般の人々に知られるような展開が生まれてきているように感じます。
台湾のケーブルテレビ局である「TVBS」のニュース専門チャンネルでは、2019年1月14日に「病歴の使用権を取り戻せ ブロックチェーンが医療革命を起こす(拿回病歷使用主動權 區塊鏈掀醫療革命)」というニュースが報じられました。
以下の「TVBS」の公式チャンネルで、実際のニュース映像が公開されています。
ニュースでは、冒頭に挙げた高雄榮民總醫院の取り組みと、以下の記事に書き留めた臺北醫學大學附設醫院の取り組みが紹介されています。
こうした取り組み自体は、僕も記事にまとめましたように、すでにいくつかのメディアでは報じられていたものです。
ただ、注目されるのは、ブロックチェーンの導入という動きにフォーカスしたニュースが一般的に報じられるようになってきたというところです。
台湾では地上波よりもケーブルテレビが発達しているため、TVBSは多くの視聴者を持つテレビ局として有名です。
ブロックチェーンを活用した取り組みが、こうしたメディアで注目すべき動きとして取り上げられるというのは、ブロックチェーンのイメージ向上に資するところが大きんじゃないかなと感じます。
また、このニュースのなかでもコスト削減や業務の効率化とともに、タイトルにもなっている「病歴の使用権(病歷使用主動權)」を個人が管理できるようなシステムを構築することがメリットとして強調されています。
ヘルスデータの管理・使用を個人の手に、というブロックチェーンの理念的な側面が注目されているというのは興味深く感じます。
医療や保険へのブロックチェーンの導入はこれまで着々と開発が進んできていて、具体的なサービスが運用される段階にきているようです。
2018年の台湾でのブロックチェーンの位置づけは、こうした技術開発の段階にあったといえますが、2019年に入るとこのような動向が、一般的なマスメディアでも徐々に報じられるようになってきているのかもしれないなと感じるようになりました。
投資熱の高い台湾でも、仮想通貨に対するイメージはそれほど良いわけではなく、一般的な関心もどちらかというと低調な状態で推移しているように思います。
ただ、ブロックチェーンをめぐるポジティブな動きが少しずつ報じられるようになっていくと、こうしたイメージも向上していくのではないかなと感じています。
とはいえ、まだまだ大きな動きになっていくには時間がかかると思いますので、小さな動きもコツコツと追いかけながら、マスメディアに報じられる動きもしっかりと追いかけていきたいと思います!