台北では2018年7月2日・3日の2日間、「2018亞洲區塊鏈高峰會(Asia Blockchain Summit)」が開催されています。
日本を含むアジア各国・各地域にかかわりのあるブロックチェーン・仮想通貨業界のキーパーソンたちが台北に集まり、熱い議論が展開されているようです。
サミットでどのような議論が展開されたのかということについても、情報が集まった時点で記事としてまとめたいと思いますが、その前に…
今回はこのサミットの前日に発表された「兩岸區塊鏈聯盟」の結成が、サミットでの議論を追うにあたっても、
また中華圏のブロックチェーン関連の動きがどのように展開していくのかを観察するにあたっても、興味深い論点を提示しているように感じたので、少し書き留めておきたいと思います。
・台湾で「兩岸區塊鏈聯盟」が結成!
・「両岸四地」のキーパーソンが集結!
・アライアンスが目指す先は?
・ブロックチェーンを通じた「両岸関係」の構築
台湾の「中国時報」系列の経済紙「工商時報」の記事によると、2018年7月1日に台北で、台湾・中国・香港・マカオの、ブロックチェーンにかかわっている企業、研究機関、行政官、および台湾の立法委員らが集まり、「兩岸區塊鏈聯盟(Cross-Straits Blockchain Alliance、 CBA)」を結成するとともに、創立宣言に共同署名したそうです。
記事によれば、今回のアライアンス結成を呼びかけたのは、台湾の立法委員(国民党)の許毓仁さんです。
許毓仁さんの活動については、僕もこれまでの記事で何度も取り上げていますが、「TEDxTaipei」の創設者として知られ、立法委員に当選後は、ブロックチェーンおよびフィンテックに関する法整備に尽力していて、台湾におけるブロックチェーン・仮想通貨に関する主要なキーパーソンのひとりです。
(たとえば、立法委員の超党派組織や業界団体の結成と、中華民国代表として国連本部で発言した内容について、以下の記事にまとめました)
2018年7月2日・3日の「2018 Asia Blockchain Summit」の呼びかけ人でもありますから、海外から多くの登壇者・参加者が台北に集まるサミット開催に合わせて、アライアンスの結成も同時におこなったという感じでしょうか。
こうしたところに、許毓仁さんのブロックチェーン・仮想通貨に対するアグレッシブさが伝わってきますね!
今回のアライアンスは「両岸四地」の人々が集まって結成したものです。
「両岸」というのは、中国大陸と台湾島のあいだにある「台湾海峡」を挟んだ両者ということを示す表現で、主に中国と台湾の両者を示すニュアンスで使われます。「両岸関係」というような表現を日本語でも見かけますね。
そして、ここに「両岸三地」と書けば台湾・中国・香港を、「両岸四地」と書けば台湾・中国・香港・マカオを指すことになります。
(香港・マカオをひとつの地域として「両岸三地」とすることもあります)
先に挙げた工商時報の記事によると、記者会見には前行政院長(日本の「首相」に相当)の陳冲さん、新北市長の朱立倫さん、香港で今年の6月に出来たばかりの「中國數字資産研究院」の代表である朱嘉明さんをはじめとする「官」および「学」の代表者、
および、陽明山未來學社、香港區塊鏈協會(HKBA)、亞太區塊鏈協會(APBA)、中国の全球人工智能區塊鏈三十人論壇(「論壇」は「forum」の意味)など、「産官学」の協働団体、
さらには、Accupass、Clipper Coin Capital、FoundersToken、MaiCoin、SDChain、Steele Tech、Xrex、遊戲橘子、麗禾國際、幣寶(BitPoint)、幣託(BitoEX)、臺灣金融科技公司、思偉達創新科技(スタービットの運営会社)、華聯國際などのブロックチェーン・仮想通貨関連企業が勢ぞろいしたようです。
朱嘉明さんについては以下の記事に書きましたが、陽明山未来學社の創設者で、中国でも著名な経済学者だった方ですね。
「中國數字資産研究院」は香港を拠点としているようなので、この方の「両岸四地」連携に果たす役割もまた大きいと思います。
そのほか、「香港區塊鏈協會」や「亞太區塊鏈協會」は香港に拠点を置くブロックチェーン・仮想通貨の業界団体・産官学連携団体として有名です。
また、「全球人工智能區塊鏈三十人論壇」は中国の経済オピニオンサイト「金色財経」の以下の記事にありますように、中国のブロックチェーン・AI企業の創業者が中心となって結成された交流団体とのことです。
さらに、参加企業も台湾・香港を中心とするブロックチェーン・仮想通貨関連企業が名を連ねていますし、遊戲橘子やBitPoint、BitoEXなどは開催中の「2018 Asia Blockchain Summit」のタイトルスポンサーや一般スポンサーにも名を連ねています。(サミットの公式ウェブサイトは以下です)
サミットが単なるイベントではなく、今後の継続的な活動や業界発展に向けて、多くのステークホルダーを集めて効果的に連携していくための場として機能している様子がうかがえますね。
「中央通訊社」が報じた記事によると、「兩岸區塊鏈聯盟」には以下の4つの「重要使命」があるようです。
1.産官學研相互交流,定期互訪(産官学研の相互交流と定期訪問)
2.協助兩岸區塊鏈産業合作相互對接(両岸のブロックチェーン産業が協力して繋がっていくことのサポート)
3.成立區塊鏈創新育成孵化器,協助新創企業落地(ブロックチェーンのイノベーションを育てるインキュベーターを作り、スタートアップの創業を助ける)
4.成立兩岸三地區塊鏈青年創業天使基金促進發展(両岸三地のブロックチェーン青年創業者のためのエンジェルファンドを作り、発展を促進する)
この点について、アライアンス結成に中心的な役割を果たした許毓仁さんは具体的に、2億人民元(約33億円)規模のエンジェルファンド創設を目指すとし、さらに、新北市にインキュベーター(孵化器)の拠点を作りたいと表明したそうです。
こうした許毓仁さんの表明に対して、新北市長の朱立倫さんも期待感を表明したとのことです。
また、「工商時報」の別の記事によると、Amazon Web Service(亞馬遜)の台湾の拠点を新北市に設置し、そこを「兩岸區塊鏈加速器(両岸地域のブロックチェーンアクセラレーター)」にしていくと述べたそうですから、速やかに実現に向けた動きが展開されていくのかもしれません。
台湾と中国の「両岸関係」は、政治的には対立関係がクローズアップされる傾向にあります。とりわけ、民進党政権下の台湾にあっては、中国の「統一志向」にはより一層敏感にならざるをえません。
それに対して、経済的・文化的側面においては、台湾と中国との関係は縮まっている、もしくは融合しつつあるというような状況もまた存在します。
もちろん、今回のアライアンス結成の動きも、許毓仁さんをはじめとする政界のキーパーソンは国民党の人々が多く、また、経済的な関係の深まりが政治的に台湾を窮地に追い込むのではないかと警戒する人々も少なくありません。
「両岸関係」というのは、歴史的な背景から政治的に微妙な問題をいくつも抱え込むことになってしまうのは当然ですが、そうしたことを踏まえたうえで、今回のような提携関係が結ばれたことは、ブロックチェーン・仮想通貨の未来にとってはポジティブなことではないかと思います。
香港やマカオも含めた「中華圏」の動きがグローバルな動きとどのように連関していくのか…こうしたひとつひとつの動きに注目をしながら、世界的な動向・文脈の中に位置づけて理解していく作業を、これからもコツコツと進めていきたいと思います!
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文中に触れた「2018 Asia Blockchain Summit」については、あらためて記事を書きたいと思いますが、下記の記事と合わせてご覧いただければ幸いです。
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