(台鉄の旧高雄駅舎。今は使われずに保存されていますが、雰囲気いいですよね)
ブロックチェーンの特性を活用した「シェアリングエコノミー」の構築は、世界中で試みられていますね。
シェアリングエコノミーについてはウサギのALISさんが記事にされていますように、ブロックチェーンを活用しなくとも、すでにさまざまなサービスが社会のなかで展開されています。
そうしたさまざまなサービスのなかで、「シェアリングエコノミーの先駆的な例」として紹介されることもあるものとして、「時間銀行」の取り組みがあります。
台湾の「ブロックチェーン×時間銀行」については、フィンテックの研究開発を積極的に進めている「亞洲大學」の取り組みを、以下の記事に書き留めました。
今回は、別の大学も産学連携で「ブロックチェーン×時間銀行」の取り組みを始めるという情報を目にしましたので、書き留めておきたいと思います。
・高科大・信馨・陽光區塊鏈が「時間銀行」で提携
・台湾は「高齢社会」から「超高齢社会」へ?
・「時間銀行」の取り組みは注目されている⁉︎
台湾の報道機関「中央通訊社」が2018年10月18日に掲載した記事によると、AIやフィンテックの研究を進めている「国立高雄科技大学(高科大)」が、高齢者福祉事業を展開している「信馨」、ブロックチェーンの技術開発を進めている「陽光區塊鏈科技」と提携し、ブロックチェーンを活用した「時間銀行」のシステム開発を進めていくことを明らかにしたそうです。
「時間銀行」とは何かということについては、冒頭に挙げた過去記事に少し書きましたが、今回の取り組みでは、「為解決臺灣長期照顧人力不足的問題,創造更優質的長照服務生態系(台湾の長期介護の人材不足の問題を解決するために、より良い長期介護サービスのエコシステムを創り出す)」ということが目指されているようです。
「長照服務生態系(長期介護サービスのエコシステム)」については、より具体的なビジョンが以下のように示されています。
未來,只要你投入長照服務的記錄,將被區塊鏈儲存為時間貨幣,日後若需長照服務時,即可使用與交易,換取他人提供長照服務。
(将来的に、あなたが長期介護サービスに関わった記録だけがわかれば、ブロックチェーンに書き込まれた時間通貨によって、のちに長期介護サービスを必要とする時がくれば、使用や取引が可能になり、他の人が提供する長期介護サービスに替えることができる)
長期介護は誰しもが将来必要となるかもしれないという点を活かして、ブロックチェーンによる記録の「真正性」を掛け合わせることで、多くの人々が「自分のため」に介護サービスに参加していくことを促す…
こうした目的を、各所で多くの実績を積み重ねてきた産学協働の取り組みとして実現していくというビジョンが明確に感じられますね。
なお、この取り組みについては、陽光區塊鏈科技の公式ウェブサイトにも「產品介紹(商品紹介)」として掲載されていますので、具体的な動きがもう展開されていることがうかがえます。
よく知られていることですが、日本はすでに「超高齢社会」に入っていて、介護人材の不足などが長年問題となっています。
データに基づくならば、人口における高齢化率が21%を超えると「超高齢社会」と位置づけられるなか、日本の高齢化率は2018年現在で27.7%となっています(内閣府「平成30年度版高齢社会白書」)
日本ほどではありませんが、近年、台湾でも高齢化が進んでいて、日本の「日本貿易振興機構(JETRO)」が2018年8月9日に公式ウェブサイトに掲載した台湾の高齢化に関するレポートによれば、台湾は2018年3月末時点で、高齢化率が14.05%に達したということです。
高齢化率が14%を超えると「高齢社会」に位置づけられますので、台湾は新たな段階に入ったといえます。
ちなみに、同じ記事には高齢化率の将来予測も掲載されていて、今から9年後の2027年には台湾の高齢化率が21.4%に達するとされています。
こうした社会の高齢化に対して、台湾の社会福祉行政を担う「衛生福利部」は2016年9月に「長期照顧十年計畫2.0(長期介護10年計画2.0)」を公表しています。
これは、2007年から2016年に実施された第一期の10年計画を受けて作成・公表されたもので、来たる「超高齢社会」に備えた長期介護の環境整備を目指しているようです。
冒頭に挙げた中央通訊社の記事には、この計画に基づいて長期介護の環境整備を進めるとしても、「推動長照計畫的人力不足,已成為推展長照計畫的最大障礙(長期介護の計画を進める人材の不足は、すでに長期介護計画推進における最大の障害となっている)」と書かれています。
「ブロックチェーン×時間銀行」の取り組みは、こうした課題を解決するための、緊急性の高いプロジェクトであることがうかがえますね。
冒頭にリンクを貼った過去記事にも書きましたが、台湾では「台湾時間銀行協会」という組織が結成されているように、「時間銀行」に対する取り組みはすでに一定の社会的支持を集めているといえます。
それは選挙公約としても有効なコンテンツとして位置づけられているようで、たとえば今年12月におこなわれる統一地方選挙で、台湾南東部の台東県長選挙に立候補している国民党の饒慶鈴さんは、「樂齡時間銀行」の開設をアピールすることで支持獲得を目指していると報じられています。
ちなみに、「樂齢」というのは「快樂的年齡」の略で、「楽しい老後」という感じのニュアンスで使用されるフレーズです。
時間銀行の取り組みは、政治的な課題としても位置づけられるほど、高齢者福祉をめぐる課題の解決に有効な方法のひとつとして捉えられていることがわかります。
こうした社会的に需要が高い取り組みにブロックチェーンが活用されていくことによって、この新たな技術がいつの間にか社会実装されていくのかもしれないと思うと、「ブロックチェーン×時間銀行」は興味深い取り組みだなと感じます。
こうした社会制度との関連性も視野に入れながら、台湾におけるブロックチェーンの動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!