台湾の産業の中心は、規模の小さな中小企業や零細企業が担っています。
シャープの買収で日本でもよく知られるようになった台湾の精密機器メーカーである鴻海グループは、電子機器の受託生産をするEMS企業として世界的な大企業へと成長してきましたが、もともとはプラスチック部品の製造業から始まった零細企業でした。
台湾の経済発展はこうした小規模の企業の成長にかかっているといえますが、こうした企業は銀行からの融資を受けることが難しいという問題を抱えています。
今回は、ブロックチェーンを活用したプラットフォームを通じて、企業への融資を安全に効率化しようという取り組みが目に留まりましたので、書き留めておきたいと思います。
・關貿網路がサプライチェーン金融エコシステムを構築?
・關貿網路はブロックチェーンの導入に積極的?
・多くの企業・産業を巻き込んでいく?
台湾の報道機関である「中央通訊社」が2018年12月20日に掲載した記事によると、台湾の貿易業務のICT化を推進している「關貿網路」が、台湾内の金融業や物流業者と提携して、フィンテックとブロックチェーンを活用した「サプライチェーン金融エコシステムブロックチェーン(供應鏈金融生態區塊鏈)」を構築することを公表したそうです。
記事では、こうしたシステムの構築によって以下のような問題解決が想定されているということです。
これまで、業者が銀行に貿易金融を申請すると、業者は書類の準備から信用情報の確認まで、通常1か月以上の時間を要していたが、将来的にはサプライチェーン金融プラットフォームとブロックチェーン技術によって、最速3日以内にすべてのプロセスを完了することができる。
(以往業者向銀行申請貿易融資,從業者準備文件到徵信通常約需一個月以上,未來透過供應鏈金融平台及區塊鏈技術,最快3天內即可完成整個流程。)
スマートコントラクトによる融資業務の効率化が目指されていることがイメージされますが、今回の取り組みはこうした業務の効率化だけではないようです。
台湾の経済系ニュースサイトの「鉅亨網」の記事によると、今回の取り組みの特徴として、關貿網路の董事長である許建隆さんは以下のように語ったそうです。
(記事中の写真の男性が、許建隆さんです)
台湾の金融業は融資全体の4分の3の資金が大企業に供給されていて、規模の比較的小さな企業は4分の1の資源しか分け与えられていない。また、中小企業の規模は大グループほど大きくなく、銀行はリスクコントロールを基に、信用調査のプロセスを特に慎重におこなっており、中小企業に対する資金調達圧力を必然的に生み出している。
(台灣金融業有高達 4 分之 3 的資金放款給大型企業,規模較小的中小企業只分得 4 分之 1 的資源,加上中小企業規模不比大集團,銀行基於風險控管,在授信徵審過程中會特別謹慎,這也無形讓中小企業產生籌資壓力。)
こうした課題を解決するために、ブロックチェーンを活用したスマートコントラクトを通じて、融資情報の信頼性と融資・資金調達の透明化を実現していこうと考えられているようです。
「中央通訊社」の記事には、こうした課題の解決によって、台湾企業の多元的な発展と国際的競争力の強化が目指されているということで、産業の中心を担う中小企業の底上げがイメージされていることがうかがえますね。
今回の取り組みを主導している關貿網路については以下の記事に書き留めましたが、半官半民の協働組織として、台湾の貿易業務の効率化を推進していて、近年はブロックチェーンの活用を強く進めているようです。
關貿網路の公式ウェブサイトに掲載されたニュースリリースには、ブロックチェーン活用に関する提携についての動きが多く見られます。
たとえば、2018年12月13日には台湾の港湾業務を担う「台灣港務公司」と提携して、貿易業務の効率化にブロックチェーンによるスマートコントラクトの導入を進めていくことになったそうです。
海運業や貿易業務へのブロックチェーン活用については、台湾に限らず中華圏全体でも多様な提携が結ばれていますので、關貿網路の取り組みもその一環に位置づくものだと捉えることができます。
また、2018年4月には台中にスタートアップを育成するアクセラレータープログラム実施のための拠点を設置し、「區塊鏈+」というコンセプトを掲げて、貿易、食品衛生、保険、電子決済といった分野へのブロックチェーン導入を後押ししていくような取り組みを始めているようです。
こうした取り組みには、中央政府や地方行政などの期待感も示されていますので、一組織の取り組みというよりも、官民連携のもとで積極的に進められているということができそうです。
台湾の産業発展にブロックチェーンを組み込んでいくことが意図されていることを感じますね。
「中央通訊社」の記事に掲載されている提携先は、「中國輸出入銀行、土地銀行、星展銀行、三信商銀、兆豐產險、中小企業信用保證基金」といった金融機関名が並んでいます。
このうち、星展銀行(DBS銀行)については以下の記事で少し触れましたように、フィンテックの開発を担い、R3コンソーシアムの技術協力パートナーでもある「普鴻資訊」の提携先として名前が挙がっています。
ただ、他の金融機関は台湾のブロックチェーンやフィンテック関連ではそれほど名前が挙がることのないところが並んでいて、こうしたところへもブロックチェーンの導入を進めていくことが考えられているようです。
とかく伝統的な金融システムとの対立的側面が注目されがちなブロックチェーンですが、台湾のこうした動きを見ると、着々と従来の金融機関への導入が進んでいるように感じますね。
実際に今回の提携を基に実現されていくというエコシステムがどう展開されていくのか…
金融機関の動きと合わせて、これからの動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!