香港社会を揺るがしている「逃犯條例(逃亡犯条例)」修正法案をめぐる動きは、大規模な反対デモから1か月が経ちました。
この1か月のうちに、行政長官は法案の「審議延期(暫緩)」を公言し、その後も再三、立法会の会期中には審議しないことを明言し、直近では「条例草案の命は既に尽きた(條例草案已壽終正寢)」と述べています。
行政長官のこうした発言に対して、抗議デモを主導した人々や民主派の議員たちは法案の「撤回(中国語も「撤回」)」を求めて抗議活動を継続しています。
法案の「撤回」を求める人々の声に対して、いろんな表現を使いながらあくまでも「撤回」とは言わない行政長官という構図となってきています。
上のツイートでも少し触れましたが、「壽終正寢」などという行政上の言葉として適切ではない表現まで使って、行政長官は言葉を弄んでいるとの批判も現れているように、言葉をめぐる「疑心暗鬼」の様相も呈してきています。
この条例をめぐる一連の動きについては、wikipedia繁体字版の記事を基にした日本語版の記事からアウトラインを理解することができます。
(日本語版)
(繁体字版)
(英語版もかなり詳細)
ですので、僕がまとめるようなことはほとんどないのですが、今回の対立点のひとつになっている法案の「延期」か「撤回」かということについて、日本語でコンパクトにまとめられている情報がなかったので、現地のニュース記事を基に書き留めておきたいと思います。
イギリスBBCの中国語版(繁体字・簡体字)ニュースサイトは2019年7月6日に「逃犯条例:香港のトップは「命は尽きた」論を提唱したが論争はまだ続く(逃犯條例:香港特首提「壽終正寢」論但爭議猶在)」と題した記事を掲載しています。
この記事は、修正法案の「撤回」をめぐる様々な見解を軸に、この1か月の香港社会での動きが検証されていますが、記事の最後に、「「延期」と「撤回」はどう違う?(「暫緩」和「撤回」有什麼分別?)」という項目が設けられています。
この2つの表現の差について、とてもわかりやすくまとめられていますので、以下、引用のうえで日本語訳を付しておきます。
「逃犯条例」の修正案はすでに、香港政府公報による告示、立法会における第一審議と第二審議の開始など、一部の修正プロセスが進んでいた。もし、政府が議案を「延期」しただけなら、政府はこの基礎(すでに進んだプロセス:kaz補足)のうえに、いつでも法案修正を進めることができる。
林鄭月娥は「延期」の方針を打ち出してから意見を集め、その後に立法会の委員会へ次の作業に進むよう報告するが、いつ再びプロセスを進めるかということについては計画がないことを何度も強調している。
もし、撤回するとすれば、香港政府はあらためて法案修正を進めることを示し、公報での告示と第一審議などのステップを再びやり直さなければならない。
(《逃犯條例》的修訂案已經走了部份的過程,包括刊登在香港政府憲報、在立法會首讀和開始二讀等。如果政府只是「暫緩」議案,政府可以在這些基礎上,隨時繼續推動修法。
林鄭月娥指出,「暫緩」方案後,她會收集意見,之後匯報給立法會一個委員會才進行下一步工作,但多次強調沒有計劃在什麼時候重推。
如果撤回方案,表示香港政府要再次推動修法,就必須把刊登憲報、首讀等步驟重新再做。)
このまとめを見ると、「延期(暫緩)」という状況が審議再開の可能性を残しているということがわかります。
同時に、この可能性が制度上、正式に解消された状態が「撤回」ということになりますね。
行政長官がどれほど表現を変えながら「計画がない」ことを強調したとしても、この可能性が排除されない限り、つまり「撤回」が制度的に進められない限り、抗議活動が完全に止むことはないということになりそうです。
言葉の捉え方がわかると、その言葉の「向こう側」で何が問題となり、何が争われているのかが見えてきますね。
なんとなくわかっているけれど、もう少しはっきりと理解したいというときに、こうした論点の整理はとてもありがたいなと思いました。
香港に友人がいる僕としては、友人の住む社会がなかなか落ち着かない状況にあることは心苦しいことです。
ですが、そうした思いを持ちながら、少しでも状況を理解できるように、これからもコツコツと情報を追いかけていきたいと思います。