2018年11月24日、台湾の統一地方選挙が波乱のうちに終わりました。
ある程度は予想されていたことですが、与党・民進党の大敗と野党・国民党の大勝に終わりました。
選挙結果の概要については、以下、「フォーカス台湾」の日本語記事から把握することができます。
22県市の首長選挙では、これまで13の首長ポストを持っていた民進党が、長年の「牙城」だった高雄市長選に敗北するなど、7つのポストを失い6つとなりました。
他方、これまで6つのポストを確保していた国民党は、倍増以上の15の首長ポストを獲得しました。
(残りひとつは、無所属の柯文哲さんが台北市長のポストを確保しました)
民進党は大敗の責任を取る形で、台湾のトップである総統の蔡英文さんは党代表を辞任、賴清德さんも行政院長(行政府のトップ)を辞任ということで、これからの政権運営に大きな影を落とすことになっていきそうです。
僕の記事では、行政院の直轄6市(台北市、高雄市、新北市、台中市、台南市、桃園市)の市長選挙に注目し、それぞれの候補者が「ブロックチェーン(區塊鏈)」をどのように位置づけていたかについてまとめました。
今回は、この記事の「答え合わせ」という感じで、6市のブロックチェーンや「スマートシティ(智慧城市)」をめぐる政策がこれからどうなっていくと考えられるのか、ごく簡単にですが書き留めておきたいと思います。
台北市では、わずか3,254票差で辛くも現職で無所属の柯文哲さんが2回目の当選を決めました。
(ちなみに、対立候補だった丁守中さんは選挙の無効を訴える訴訟の準備を進めるようです。台湾では非常に僅差の場合、落選者が票の差し押さえや再集計を求めることができます)
柯文哲さんはこれまでに、台北市とIOTAとの提携で「スマートシティ」の実現を進めてきた中心人物ですし、ネットを活用した若いサポーターに支えられている「網紅市長(ネットで人気のある市長)」ですので、こうした政策が今後も発展的に継続されていく可能性が高いと思います。
ちなみに、台湾では2020年1月に総統選挙がありますが、柯文哲さんは総統選に立候補する可能性があるといわれています。
現時点では本人は出馬を否定していますが、これからどうなっていくかというところも興味深いです。
今回の統一地方選における国民党の躍進を象徴的に担った韓國瑜さんが、過去20年間、市長ポストを守り続けてきた民進党が推す陳其邁さんを破って初当選しました。
韓國瑜さんも台北市長の柯文哲さんと同じく、ネット戦略を通じた若い世代の人々を中心に幅広く支持されたということで、ブロックチェーンの導入やスマートシティの実現についても積極的に進めていく可能性が考えられます。
ただし、選挙公約のなかでは、「経済貿易都市(經貿首都)」、「農業ビッグデータ(農業大數據)」、「フィンテック(金融科技)」といったワードは見られましたが、ブロックチェーンやスマートシティというワードは僕が見た限りでは見つけることができませんでした。
対立候補だった陳其邁さんは、以下の記事に少し書きましたように、同じ民進党の立法議員とともに、ブロックチェーンの活用やスマートシティの実現について公言していましたが、韓國瑜市長のもとでは、こうした方向性とは違う方針が採用されていくかもしれません。
ただ、高雄市の経済発展を前面に掲げて当選した韓國瑜さんにとって、ブロックチェーンの導入やスマートシティの実現が高雄市の経済発展に有用だということになれば、市民の支持のもとで積極的に推進されていく可能性もあるのかなと思います。
どのような具体的な行政方針を打ち出していくかを見れば、方向性が見えてくるかもしれませんね。
新北市では、現職の朱立倫さんの後継候補である国民党の侯友宜さんが、民進党のベテラン政治家で行政院長を務めた経験もある蘇貞昌さんを破り、初当選を果たしました。
冒頭に挙げた記事にも書きましたが、新北市は現在、「ブロックチェーン特区」の設置を目指し、行政としてブロックチェーンの導入・推進を積極的に展開しているところです。
侯友宜さん自身の選挙公約には、ブロックチェーンやスマートシティというワードを見つけることはできませんでしたが、同じ国民党の現職市長の路線を大幅修正する可能性は低いと考えられますので、現在進められている政策が継続して進められていくだろうと思います。
隣接する台北市長選でもし国民党の丁守中さんが当選していれば、同じ国民党所属市長同士、協働する形でブロックチェーンの導入が進められていく可能性があるかなぁ…と思っていましたが、柯文哲さんが当選したので、当面は別々に展開されていくかなと感じています。
今回の選挙結果を受けて、地方行政におけるブロックチェーンの導入をめぐって一番大きな影響があるのかもしれないなと僕が感じているのは、この台中市です。
今回の台中市長選は、民進党の現職市長であった林佳龍さんが国民党の盧秀燕さんに敗れるという結果になりました。
台湾中部の台中市はもともと国民党の支持が高い地域でしたが、前回選挙の2014年に林佳龍さんが、当時のベテラン現職市長だった胡志強さんを破って初当選し、1期目を終えたところでした。
以下の記事に少し書きましたが、台中市は林佳龍さんの在任中にスマートシティの実現を目指した政策を積極的に進めてきた印象があります。
今回の選挙でも、林佳龍さんは公約としてブロックチェーンの導入・スマートシティの推進を掲げていましたので、こうした政策が継続するかどうかが問われた選挙でもありましたが、在任1期で交代という結果となりました。
今回当選した盧秀燕さんは、林佳龍さんが推進していた行政の方向性を修正していく方向で動き出すことになると予想されますが、ブロックチェーン・スマートシティに関する政策にどう向き合っていくかという点はまだ見えてきません。
高雄市同様、まずは具体的な行政施策の方向性を見て判断する必要がありそうです。
台北市、高雄市、台中市の市長ポストを軒並み取り逃がすという民進党の状況にあって、台湾南部のもうひとつの拠点だった台南市では、民進党の黄偉哲さんが国民党の高思博さんをはじめとする5名の候補者を降して初当選を果たしました。
ただ、今回行政院長を辞職することになった前台南市長の賴清德さんが過去二回、圧倒的な得票率を得て当選していたことから比べれば、今回は「辛勝」だったのではないかと思います。
黄偉哲さんは選挙公約のなかでスマートシティの実現を打ち出していたこともありますので、上位3市に続く政策を推進していくかもしれません。
桃園市では民進党への強い逆風が吹いた今回の選挙のなかで、もっとも安定した選挙戦を闘った現職市長で民進党の鄭文燦さんが、国民党の陳學聖さんたちを破って再選を果たしました。
初当選を果たした2014年の選挙と比べて得票率を上積みしていますので、桃園市民の固い支持のもとで安定した行政運営を進めていくことが予想されます。
鄭文燦さんの公約には「スマートシティ」というワードは見えていましたが、ブロックチェーンやスマートシティに関する政策をどのように進めていくのかは未知数ですので、これからの行政政策を見守っていきたいと思います。
今回は、市長選と同時に市議選も行われ、ブロックチェーン・仮想通貨に関する政策を掲げた候補者もいました。
以上の記事で取り上げた、台北市議選に立候補した「時代力量」の蕭新晟さんは残念ながら落選となったようです。
他方、以下の記事で少し触れました、蕭新晟さんと同じく台北市議選に立候補し、スマートシティの実現を公約に掲げていた国民党の徐巧芯さんは当選を果たしたようです。
選挙結果は悲喜こもごも入り混じるものとなっていますが、多様なアプローチでブロックチェーンに関する議論が展開され、具体的な施策が実行されていけばいいなあと期待しています。
今回の選挙結果を基に、台湾の地方行政をはじめとする台湾の政治・行政がこれから展開されていきます。
こうした状況のなかで、ブロックチェーンや仮想通貨をめぐる政策がどのように実現されていくのか、これからもコツコツと情報を追いかけていきたいと思います!