ブロックチェーンが「分散型台帳技術」であるという特性を活用し、情報の安全性を確保したうえで速やかに共有化できるようなシステムの構築が世界中で進んでいますね。
その最たるものが「仮想通貨」ということになるわけですが、情報の安全な共有化はさまざまな分野で必要とされています。
なかでも、医療分野では患者さんの病歴をいかに安全に共有するかということが重要かつ喫緊に解決するべき課題になっています。
今回は、台湾でブロックチェーンを医療情報の共有化に活用するプラットフォームの運用が始まったというニュースを目にしましたので、書き留めておきたいと思います。
・台北医大附属病院がブロックチェーンプラットフォームの運用を開始
・プラットフォームで出来ることって?
・「分散型医療」を実現する⁉︎
・「正式運用」ということの意味
台湾のデジタル系ニュースサイト「iThome」が報じた記事によると、「臺北醫學大學附設醫院(台北医学大学付属病院)」が2018年8月30日に「健康醫療區塊鏈平臺(健康医療ブロックチェーンプラットフォーム)」の運用開始を公表したそうです。
このニュースは他にも、台湾の中央報道機関である「中央通訊社」や大手紙の「自由時報」のサイトにも記事が載っていて、一般的なニュースとして注目されているようです。
「iThome」の記事でも言及されていますが、台北医大付属病院はこれまでに、台湾のブロックチェーン開発企業である「DTCO」と提携して、ブロックチェーン上に構築されたプラットフォームにカルテを登録し、情報共有を図るシステムの試験運用をおこなうなど、医療サービスへのブロックチェーン導入を進めてきました。
台北医大とDTCOとの提携については、以下の記事に書き留めています。
今回のプラットフォームはDTCOと開発したものとは別のものであるようですが、医療サービスの多様な場面でブロックチェーンを活用していこうという姿勢がうかがえますね。
今回、運用が公表されたプラットフォームでは、台北医大付属病院のシステムに登録した患者さんの病歴情報が付属病院内だけではなく、地域医療を担う診療所などでも共有できるようになるということです。
患者さんは付属病院で「智鏈護照(スマートチェーンパスポート)」を登録すると、QRコードが印刷されたカードが発行されます。
(台湾のネットニュースサイト「今日新聞NowNews」の記事には、パスポートの写真が掲載されています)
このQRコードを専用のスマホアプリで読み取ると、付属病院が持っている患者さんの病歴が取得できるという形になっているようです。
ここで取得できる情報は、2013年以降の病歴で、しかも概要ではなく「完整資料(完全資料)」であり、「iThome」の記事によれば、レントゲン写真や内視鏡写真なども含まれるということです。
従来は付属病院外の医療機関がこうした情報を取得するためには、申請してから2・3日かかるというのが通例だったようですが、このプラットフォームを使えば診療後24時間以内にいつでも利用可能になると説明されています。
こうしたシステムを、専門に開発された「智能合約(スマートコントラクト)」プラットフォーム上に構築することによって、安全な情報共有を実現しようということのようですね。
こうした情報共有のプラットフォーム構築は、単純にどこでも患者さんの病歴を確認することができるということだけにとどまらず、そうしたことによって、台湾の医療システムが抱える「ある問題」を解決することが期待されているようです。
その「ある問題」とは、大病院への患者さんの集中という問題です。
上に挙げた中央通訊社の記事には、「小病往大醫院跑(小さな病気で大きな病院へ走る)」という表現が使われていますが、施設が整い、専門医が多く在籍する大きな病院に患者さんが集中するという問題を台湾の医療システムは抱えているといわれています。
こうした問題は日本でも話題になりますし、世界的な課題でもあるようで、「インテル」が「医療の分散化」に関する特設ページを公開したりしていますね。
台北医大付属病院でも、100軒以上の地域医療を担う診療所と提携して、毎月平均500人以上の転院をおこなうなど、医療の分散・患者さんの分散は日々の医療活動において大きな課題となっているようです。
今回のプラットフォームによって、付属病院外の病院でも患者さんの詳細な病歴の共有が可能になることによって、地域の診療所でも患者さんの病歴を速やかに確認し、適切な医療行為や医療判断をおこなうことができるようになると期待されているそうです。
「iThome」の記事には、今回のプラットフォームを初めて利用する「莊敬診所」のお医者さんである王曜庭さんがコメントしていて、これまでは簡単な転院通知書しかなく、患者さんの病歴を取り寄せることも容易ではなかったけれど、プラットフォームを活用することによって、完全な情報を取得することができることのメリットを強調しています。
同時に、このプラットフォームはまだ一方的に台北医大付属病院の情報を参照できるというにとどまり、各診療所が蓄積している病歴をプラットフォーム上に登録することはできないなど、双方向性が実現されていないことを指摘しています。
まだまだこれからサービス拡大・改良の余地は大いにあるようですが、まずは「分散型医療」実現に向けた動きにブロックチェーンが活用される第一歩が踏み出されたということだと思います。
今回のニュースが注目されているのは、ブロックチェーンを活用したプラットフォームの運用が、試験運用ではなく正式運用だということが大きいようです。
そのうえ、これまでにブロックチェーンの活用を具体的に模索し続けてきた大規模病院である台北医大付属病院によるものだということも、注目を集める要因だろうと思います。
また、「分散型医療」の実現という方針は台湾の行政機関である「衛生福利部」の重点的な施策でもあり、そうした課題を解決するための方法のひとつとしても注目されているはずです。
世界的にも解決が目指されている課題でもありますから、このプラットフォームがうまく運用されていくかどうかということは、これからのブロックチェーンの活用の可能性に大きく関わっていくように感じます。
これからの動きにも注目しながら、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!
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