2020年も始まったということで、各所で今年のさまざまな動向を予測する記事が出されていますね。
たとえば、日本国内のブロックチェーンに関しては、「2020年に注目すべき国内ブロックチェーン企業10選」というような記事が昨年末にアップされています。
中華圏でもいろいろな予測記事が出されていますが、ここでは昨年も公表された、中国のアリババグループ(阿里巴巴集团)による2020年予測について、少し書き留めておきたいと思います。
・逹摩院が「2020十大科技趨勢」を公表
・将来予測の内容は?
・実際にはどうなっていくでしょうか?
2020年1月2日に台湾の大衆紙「聯合報」が報じた記事によると、中国のアリババグループにおける研究機関である「達摩院(达摩院)」が、同日に「2020十大科技趨勢(2020十大科技趋势)」を公表したということです。
今、台湾では総統選挙真っ最中で、中国に関する話題はセンシティブでもあるのですが、こうした動向についても中国寄りのメディアを中心に報道されています。
逹摩院による動向予測は、昨年(2019年)に続いて2回目ですが、昨年の場合は広く報道されていたことと比べると、報道のされ方はやや現在の台湾の政治情勢が反映されているような感じもします。
ちなみに、昨年の予測については以下の記事にまとめました。
達摩院についてまとめた記事についても、この記事にリンクを貼ってありますので、合わせてご覧いただければと思います。
さて、今回の「2020十大科技趨勢」の内容について、「聯合報」の記事は以下のようにまとめています。
(今年の)傾向は、AI、ICチップ、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン、産業インターネット、量子コンピュータなどの分野を中心に展開し、多くの分野で2020年には革新的な技術革新が起こると言及されています。
(該趨勢圍繞AI、晶片、雲計算、區塊鏈、工業互聯網、量子計算等領域展開,提出多個領域將在2020年出現顛覆性技術突破。)
では、具体的にこうした分野でどのような技術革新が起こると予測されているのか?
逹摩院が出している予測を実際に見てみたいと思います。
逹摩院の公式ウェブサイトには、以下のページに10の予測が掲載されていると同時に、詳細な説明を加えた「完整版」がpdfで公表されています。
(「完整版」については以下のページにリンクが貼ってありますので、興味のある方はそちらからご覧ください)
ここに掲載されている10の予測は、以下のとおりとなっています。
1.AIは感知知能から認知知能へと進化する(人工智能从感知智能向认知智能演进)
2.コンピュータとストレージの一体化はAIの計算能力のボトルネックを革新する(计算存储一体化突破AI算力瓶颈)
3.産業インターネットのハイパーコンバージェンス(工业互联网的超融合)
4.機器間の大規模コラボレーションが可能に(机器间大规模协作成为可能)
5.モジュール化によりチップの設計ハードルが低下(模块化降低芯片设计门槛)
6.大規模化した生産レイヤーのブロックチェーンアプリケーションが大衆に浸透(规模化生产级区块链应用将走入大众)
7.量子コンピュータは開発レイヤーに進む(量子计算进入攻坚期)
8.新素材が半導体デバイスの革新を推進(新材料推动半导体器件革新)
9.データ上のプライバシーを保護するAI技術が加速度的に開発(保护数据隐私的AI技术将加速落地)
10.クラウドはIT技術のイノベーションの中心となる(云成为IT技术创新的中心)
それぞれに興味深いトピックが並んでいますが、すべての内容を取り上げると大変なので、ここではブロックチェーンに直接関係している「6.大規模化した生産レイヤーのブロックチェーンアプリケーションが大衆に浸透」の内容を書き留めておきます。
ちなみに、英語版のページも公開されていますので、他のトピックについてご関心のある方は合わせてご参照ください。
さて、ブロックチェーンに関する予測の内容ですが、公式ウェブサイトに掲載された説明としては、"Blockchain as a Service(区块链BaaS)"が企業におけるブロックチェーンの導入ハードルを下げることに言及したうえで、物理的な資産とネット・チェーン上の資産の融合が進むと指摘されています。
そうした状況を踏まえ、未来予測として以下のような観測が示されています。
将来、イノベーティブなブロックチェーンアプリケーションシーンから特定の業界やエコシステムを超える多元的なコラボレーションの動きがいくつも現れ、1,000万人以上の人々の生活に関わる規模の生産レイヤーに達したブロックチェーンアプリケーションが大衆に浸透するだろう。
(未来将涌现大批创新区块链应用场景以及跨行业、跨生态的多维协作,日活千万以上的规模化生产级区块链应用将会走入大众。)
以上の観測を支える現状認識と詳細な内容については、10大予測の「完整版」に掲載されています。
まず、現況認識としては2019年を「ブロックチェーンの一里塚となった一年(区块链里程牌的一年)」と位置づけ、国家戦略や産業成長のなかにブロックチェーンが位置づけられた一年だったと指摘しています。
具体的な動きとして、"JP Morgan Coin" や "Facebook Libra" を挙げています。
そうした動きを受けて、ブロックチェーンの位置づけが「革新から補充へ、脱中心から脱仲介へ、コンソーシアム型チェーンが業界の中心的な技術を構成するようになっている(从颠覆到补充,从去中心到去中介,联盟链架构成为行业主流技术路线)」と位置づけています。
このあたりは、阿悉さんが以下の記事で指摘されているような、中国のブロックチェーンに対する見方が反映されているようにも見えますね。
こうした状況を踏まえて、2020年には"Blockchain as a Service"による企業へのブロックチェーン導入が大規模に進むと同時に、多様な技術の融合、とりわけAIoTとの技術的な融合によって、データと資産が相互流通するようなインフラが整備されると予測されています。
このあたりは5Gの普及と連動して形成される「データエコノミクス(数字经济)」の時代の到来を想定した予測になっていることがイメージできますね。
昨年発表された2019年のブロックチェーン技術に関する予測では、「商用アプリケーションの開発が加速する」とされていました。
こうした観測とこの1年間のさまざまな状況を勘案すると、今回の予測はより一歩進んで、ブロックチェーンは普及レイヤーに進むとイメージされているように感じます。
むしろ、アリババ自身がそうしたレイヤーへとブロックチェーンの開発を進めていくという「決意表明」と見ることもできるかもしれません。
他の項目で言及されている多様な技術の開発とあいまって、2020年はブロックチェーンの社会実装が目に見える形で進んでいくのかもしれないですね。
こうした観測を頭に置きながら、今年のブロックチェーンをめぐる動きもコツコツと追いかけていきたいと思います!