ブロックチェーンと仮想通貨は切っても切り離せない関係にありますが、技術としてのブロックチェーンと、その応用としての仮想通貨をさしあたって別のものとして捉える視点は世界各国で共有されているようですね。
特に、中国では仮想通貨に対する規制を強める一方で、ブロックチェーン産業の発展を強力にバックアップしていて、「幣鏈分離(仮想通貨とブロックチェーンを分ける)」を実践しています。
(中国のこういった視点については、阿悉さんのこの連載記事が参考になります)
台湾でも、仮想通貨・ブロックチェーンの健全な発展に尽力している立法委員の許毓仁さんはたびたび「幣鏈分離」の方針を強調しています。
台湾の行政の動きも、仮想通貨とブロックチェーンは切り分けて捉えながら、その対策と環境整備を進めていこうとしているようですので、今回はそうした動きについて少し書き留めておきたいと思います。
・APECのTEL58でAI・ブロックチェーンの展開事例を紹介
・仮想通貨の監督機関はどこになるのか?
・両者の健全な発展を目指して…
台湾の経済系ニュースサイト「鉅亨網」に2018年10月3日に掲載された記事によると、台北で開催されたAPECの「TEL58」の席上で、台湾のAIやブロックチェーンに関する取り組みが紹介されたそうです。
TEL58は正式名称を「The 58th Meeting of APEC Telecommunications and Information Working Group」、中国語で「電信暨資訊工作小組第 58 次會議」、日本語で「第58回電気通信・情報作業部会」といいます。
会議のプログラムは、以下の特設サイトに掲載されています。
この会議については、外務省のウェブサイトに以下のような説明があります。
1990年設立。情報通信技術(ICT)分野における人材育成,技術移転,地域協力等を目的とし,自由化分科会(LSG), ICT開発分科会(DSG),セキュリティ繁栄分科会(SPSG)及び相互承認(MRA)タスクグループにおいて,技術的・専門的活動を実施。近年はインフラのみならず,ICT利活用や情報セキュリティについても議論。
「鉅亨網」の記事によれば、こうした特徴を持つ会議のなかで、今回は特に「數位經濟(Digital Economy)」に焦点を当てた議論が展開されたそうです。
このなかで、会議を主催した台湾の「國家通訊傳播委員會(National Communication Commission、NCC)」が、台湾の「AI行動計畫(AIアクションプラン)」を公表するとともに、ブロックチェーン活用事例を挙げながら、これからの方向性について議論をおこなったということです。
まず、「AI行動計畫」については、以下の5つの重点化計画を進めていく予定のようです。
AI 人才衝刺(AI人材の養成)
AI 領航推動(AIナビゲーションの推進)
建構國際 AI 創新樞紐(国際的なAIイノベーションハブの構築)
場域與法規開放(フィールド開放と法律の緩和)
產業 AI 化(産業のAI化)
また、NCCと日本の関係機関との共同開催という形で、「新興技術、區塊鏈與數位政府之發展潛力(The Potential of Emeging Technologies such as Blockchain for Digital Government)」シンポジウムを開催し、台湾におけるブロックチェーンのこれからの方向性について、以下のように説明したそうです。
未來將從區塊鏈的產業新創發展、監理法規完善、個資保護接軌、政府應用建置等 4 大方面持續推動區塊鏈應用的經驗,獲與會人士正面肯定。
(将来的に、ブロックチェーン産業のイノベーティブな発展、規制の整備、個人情報保護、行政アプリの開設など4つの方向からブロックチェーンの応用を進めていくという台湾の経験は、参加者の賛同を得た)
日本との関わりが伝えられていますが、日本側の情報が今のところ見当たらないのが気がかりですが、台湾がAIやブロックチェーン産業に対して多角的に環境整備を進めている様子がうかがえますね。
ちなみに、このニュースについては、台湾の外交部が発信している「TAIWAN TODAY」の日本語記事として読めるものがありますので、こちらもご参照ください。
APECのワーキンググループでブロックチェーンに関する議論が展開されていたのと同じタイミングで、台湾の行政機関において仮想通貨をどのように位置づけるのかということに関するニュースも報じられていました。
台湾の大手紙「自由時報」のニュースサイトに2018年10月4日に掲載された記事によると、同日に立法院で開催された財政委員会の席上、中央銀行の総裁である楊金龍さんが、仮想通貨の管理について、中央銀行が主管するという意見に対して賛同しない姿勢を表明したということです。
台湾の行政機関のうち、仮想通貨をどこが監督するかということについては、以下の記事を今年6月にまとめたように、台湾の仮想通貨をめぐる重要なテーマのひとつとして議論が続けられています。
楊金龍さんは仮想通貨の位置づけについて以下のように述べたうえで、「金融監督管理委員會(金管會)」の動向を注視していると述べたそうです。
比特幣等虛擬貨幣不是法定貨幣,是「一種商品」,既然不是貨幣,央行擔任主管機關沒有著力點
(ビットコインなどの仮想通貨は法定通貨ではなく「商品」である。貨幣でなければ、中央銀行が主管機関として注力することはない)
中央銀行総裁のこうしたコメントを受ける形で、名前が挙がった金管會のトップである主任委員の顧立雄さんが以下のような意向を示したことを、台湾の経済紙「工商時報」の記事が伝えています。
如果確定虛擬通貨屬於洗錢防制第五條規定的「非金融相關事業」,金管會是可以來承接這個主管機關。
(もし仮想通貨がマネーロンダリング防止法の第5条の規定における「非金融関連事業」に当てはまることが確定すれば、金管會は主管機関であることを認める)
「洗錢防制法(マネーロンダリング防止法)」第5条の規定については、以下の記事に書き留めたように、マネーロンダリング防止の対象として仮想通貨を位置づける法案が提出されています。
仮想通貨の管理監督をめぐる議論は法制化の動きに促される形で、決着に向けて動いていることがわかりますね。
ブロックチェーンと仮想通貨をめぐる動きは、日々、さまざまな形で展開されています。
それも特定の地域の内部で完結するような形ではなく、国際的な動向と連動しながら、相互補完的に動いているといえます。
そうしたなかで、ブロックチェーンの発展と、仮想通貨の健全な市場整備に向けた動きが同時並行で進んでいることがわかる今回の行政の動向は、台湾でどのような環境が整えられていくかと捉えるうえで注目に値するかなと感じます。
それは、「幣鏈分離」をさしあたって設定し、それぞれのメリットとデメリットを整理しつつ、最終的には両者を一体として環境整備を進めていくという前向きな姿勢を台湾の行政機関は持っている…という形で捉えることができるのかなと思います。
行政の動きはその地域でのブロックチェーン・仮想通貨がいかに発展していくかを規定する重要な要素だと思いますので、これからもコツコツと追いかけていきたいと思います!