台湾・台北で2018年7月2日・3日に開催された「2018 Asia Blockchain Summit(亞洲區塊鏈高峰會)」には、ブロックチェーン・仮想通貨にかかわりのある企業から多くの人々が登壇したようです。
登壇者のみなさんは、それぞれ自らのサービスと絡めながらブロックチェーンの多様な可能性が論じられたとのことで、熱い議論が展開されていたことがうかがえます。
そのなかで、デジタルコンテンツの保護と発展に関する取り組みについて、さまざまな事業展開とともに多様に論じられていたという様子が垣間見えたので、少し書き留めておきたいと思います。
(文中の日本語訳は、ざっくりとした粗訳です。参考までにご覧ください(^^;)
・本題に入る前に…
・KKFARMは著作権をシェアする!?
・Mithrilは「ソーシャルマイニング」で問題解決!?
・橘子集團は「IIO」でゲームを変える!?
・RCCCは芸術品市場にブロックチェーンを導入!?
・「クリエーション×ブロックチェーン」の有効性
「2018 Asia Blockchain Summit」の公式ウェブサイトはこちらです。(英語)
Part1の記事に、サミットに関する情報ソースなどをまとめています。合わせてご覧いただければ、会場の雰囲気をイメージしやすいかなと思います。
Part2の記事には、Binanceの創業者・CEOの趙長鵬さんや、台湾政府関係者のブロックチェーン・仮想通貨に対する見方についてまとめました。
今回のサミットで議論されたテーマのひとつに、「社會影響力:社會、藝術與人文」という内容が挙げられていました。
芸術分野、とりわけデジタルコンテンツをどのように保護し、発展させていくのかという課題に取り組んでいる登壇者の発言は、メディアにおいて注目を集めていたようです。
たとえば、「今日新聞NowNews」の記事でインタビューを受けている、エンターテイメント事業への投資を専門におこなう「KKFARM」のマネージングパートナー(經營合夥人)である呉柏蒼さんは、「ブロックチェーン×音楽」の可能性について、以下のように語ったようです。
過去,若要與3、4個人分享專利,就有過多繁雜的書面資料或各種不同法律問題要處理,但未來只要結合區塊鏈,與50萬人分享專利都不是問題,同時能促成創作者「提供分享」的動力,帶動整個音樂圈向前邁進。
(これまでは、もし3・4人の人が著作権から生じる利益をシェアしようとすると、多くの煩雑な書類やそれぞれ異なる法律問題を処理しないといけなかったが、これからはブロックチェーンと結びつくだけで、50万人の人々と利益をシェアしても問題ない。同時に、クリエイターの「シェアを提供する」というモチベーションを刺激し、あらゆる音楽業界が前に進んでいける)
「分散型台帳」としてのブロックチェーンの特性を、音楽コンテンツの著作権保護とシェアに活用していくという方向性ですね。
実際に、KKFARMはすでに、台湾で初めてのブロックチェーン技術を利用した「デジタルミュージック提供プラットフォーム(數位音樂發行平台)」である「SoundScape在田」のサービス提供を始めています。
これについては、以下の記事にまとめています。
音楽コンテンツを生み出したクリエイター自身が、第三者に頼ることなく自ら著作権を管理できるという仕組みは、さらに、「如果能與歌迷分享著作權呢?(もしファンの人々と著作権をシェアできたらどうなる?)」という考え方へと広がっているようです。
クリエイターとファンが著作権をシェアする…というのは斬新な発想に見えるかもしれません。
ただ、こうした考え方の背景には、アーティストが資金を集めようと思っても、方法として採れるのは、流通しているCDやTシャツなどのグッズ販売しかないという問題意識があるようです。
ここに、ブロックチェーンを利用したICOのような仕組みを構築していくことで、クリエイターの資金確保の方法を拡大させてこうというビジョンがうかがえますね。
デジタルコンテンツの保護を「ソーシャルマイニング」という形で確保していこうとしているのが、「Mithril」というプロジェクトです。
Mithrilを立ち上げたのは、自身も過去にバンド活動をしていて、後にライブ配信アプリ「17直播(17video)」を作った黄立成さんです。
(ちなみに、黄立成さんは「麻吉大哥」というニックネームで知られています。このあたりのことも含めて、Mithrilについては以下の記事にまとめました)
「今日新聞NowNews」に掲載された黄立成さんのインタビュー記事によると、「ソーシャルマイニング(社交挖礦)」という言葉は、以下のように説明されています。
現在透過社群散播的創作越來越多,他相信好的創作都值得拿到相應報酬,秘銀幣便是新型態的獎勵機制,創作者透過社群網路的分享數、貼文數、讚數來獲得秘銀幣,黃立成將此稱為「新型態的社交挖礦」行為。
(現在、コミュニティでそれぞれに創作されているものはだんだん増えてきています。クリエイターは良いものを作れば相応の報酬を手にすることができると信じています。秘銀幣(MITH)は新たなモチベーションメカニズムであり、クリエイターはコミュニティネットワークでのシェア数、リンク数、いいね数によって秘銀幣を得ることができる。黄立成はこれを「新たなソーシャルマイニング行為」であるといっている)
…この説明の仕方、ピンときませんか?
そう、目指している方向性がALISに近いんですよね。上に挙げた僕の記事でも触れましたが、Mithrilが広告のないソーシャルプラットフォームを目指していると黄立成さんは述べていました。
こうしたシステムを構築した背景として、以下のように黄立成さんが述べていることは、ALISがどのようなプラットフォームを目指しているのかを考えるうえでも参考になるのではないでしょうか。
過去創作者多半依賴創作平台發佈作品,IP(智慧財產)卻被平台拿走。區塊鏈可幫助創作者直接獲得利潤,消去中間第三方侵蝕獲利的空間
(これまでのクリエイターの多くはプラットフォームに依存して作品を発表していたが、IP(intellectual property)はプラットフォームに持っていかれる。ブロックチェーンはクリエイターが直接利益を得ることを助け、あいだに入る第三者が権利を侵食するような空間を取り去ることができる)
クリエイターによって生み出されたコンテンツを100%、クリエイターが自由に扱えるようにするという方向性は、デジタルコンテンツにブロックチェーンを導入する動機として、多くの人が共有している考え方なのではないかなと思います。
KKFARMやMithrilとは少し違う角度から、デジタルコンテンツの発展にブロックチェーンを利用しようとしているのが、今回のサミットのタイトルスポンサーとなっている「橘子集團gamania」です。
橘子集團はオンラインゲームやスマホゲームを主要な事業として技術開発をおこなっている台湾の企業グループです。公式ウェブサイトには日本語のページもあるようです。
僕は恥ずかしながら、オンラインゲームなどをまったくやらないので知らなかったのですが…台湾の街中では、「GASH」というゲーム内で使えるポイントの広告表示はよく見かけました。
上に挙げたグループの公式ウェブサイト(日本語)によると、オンラインゲームを軸として、GASHのようなゲーム内ポイントを含めた決済システムやe-コマース、クラウドマーケティングに至るまで、ネット産業全般に事業を広げている様子がうかがえます。
台湾の科学技術系ニュースサイト「TechNews科技新報」の記事は、橘子集團のGASHのCOO(營運長)である呂俊賢さんがサミットのスピーチのなかで、上のような事業展開を基にしたブロックチェーン活用のひとつとして、アジアで初めての「IIO(Initial Item Offerings 首次虛擬道具公開發行)」を実施することを明らかにしたと報じています。
具体的には、現在橘子集團のオンラインゲームなどで稼働しているGASHのAPIを提供することで、道具の公開販売を実施することができるようにするとのことです。
現在はもうすでに試験段階に達しているとのことで、第三四半期にはサービスを開始するとのことですから、もう間もなくIIOを実施することができるオンラインゲームが誕生するということになります。
中央通訊社の記事では1,200万人を超えるユーザーを持つといわれている橘子集團のIIOの計画…資金調達の方法としてどこまで定着することができるのか、サービス開始以降の動きに注目ですね。
デジタルコンテンツの保護と発展にブロックチェーンを活用していく動きとはまた少し違いますが、「クリエーション×ブロックチェーン」という取り組みとして考えるならば、RCCCのプロジェクトも注目です。
「今日新聞NowNews」の記事によれば、RCCCは芸術品の売買、投資、貸借、宣伝、鑑定、委託取引などのサービスをブロックチェーン上に構築したプラットフォームによって一貫しておこなうことができるようにするプロジェクトを提案しているようです。
記事によれば、RCCCが構築するプラットフォームはDApps作成プラットフォームである「EOS」を利用しているようです。
EOSと言えば、中国のCCIDが公表している最新のパブリックチェーン格付けで1位を獲得したプロジェクトとしても知られていますね。
(この格付けについては、以下の記事にまとめました)
RCCCは公式ウェブサイトによれば、オーストラリアのメルボルンに創設された企業で、ブロックチェーンの活用によって目指すところを、「艺术品所有的历史信息都可以在任何阶段进行检索,证实其出处和所有权的相关记录(芸術品のすべての来歴情報をあらゆる階層で検索できるようにし、芸術品の出所と所有権に関する記録を明らかにする)」ことができるプラットフォーム構築を目指しているようです。
記事によれば、2018年6月10日にHuobi(火幣)が開設している、取引所への上場を投資家の投票によって決めることができるHADAXで勝ち抜け、トークンの上場が近いうちにおこなわれるとのことです。
ホワイトペーパーのマイルストーンをみても、プロジェクトの実現プロセスはこれからという感じなので、こちらも今後の展開が注目されますね。
Mithrilの黄立成さんのコメントにもあった、デジタルコンテンツのIP(intellectual property)保護ということを考えれば、クリエイティブな活動とブロックチェーン技術はとても相性が良いように思いますし、多様なサービスの展開が期待できる分野なのだろうと思います。
しかも、クリエイティブな活動には、それを創り出した人だけではなく、その創作物を受け取るファンの存在を欠かすことができません。
クリエイターとファンのあいだを繋げるための技術として、ブロックチェーンに基づいたプラットフォーム構築を目指すというのも、技術の性質上、自然な流れなのかなという感じがします。
そうした、ある意味でブロックチェーンの「王道」ともいえるような分野だからこそ、サミットの場でも多様な観点から熱心に議論されていたのだろうと思います。
この場で提案されたさまざまなプロジェクトが今後どのように展開していくのか…これからもコツコツと情報を追いかけていきたいと思います!
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