(飛行機から見る台湾、島の輪郭と街並みがクッキリと見えますよ)
ブロックチェーンの技術開発をめぐる動きは世界中でおこなわれているため、開発企業同士の技術競争になっていると同時に、国同士・地域同士の競争になってきている側面がありますね。
特に、行政として各企業の技術開発をどのようにバックアップし、産業育成を進めていくかということが、各国・各地域の大きな課題になっているように感じます。
今回は、台湾と中国で同じ日に開催された、行政機関によるブロックチェーン産業をめぐる動きがそれぞれに興味深く感じたので、合わせて書き留めておきたいと思います。
・台湾・新北市に「ブロックチェーン特区」を設置⁉︎
・中国・福建省の平潭に「海峡ブロックチェーンアプリケーション協会」が結成⁉︎
・「両岸×ブロックチェーン」のこれから…
台湾の大手紙「自由時報」のニュースサイトに掲載された記事によると、台湾の新北市が今年9月に台湾で初めて「區塊鏈產業推動辦公室(ブロックチェーン産業推進事務所)」を開設し、年末には「區塊鏈實驗特區(ブロックチェーン実験特区)」を設ける予定だということです。
今回の発表は新北市が市内の中小企業や、立法委員の許毓仁さんや台湾師範大学の黃冠寰さんを呼んで、2018年8月14日に開催した「區塊鏈產業發展研討會(ブロックチェーン産業発展シンポジウム)」の場で公表されたようです。
新北市は台北市を囲むように位置する自治体で、北に台北郊外の避暑地「淡水」、南に温泉地でもあり先住民タイヤル族(泰雅族)の故郷である「烏來」、西には焼物の名産地「鶯歌」、東には「九份」で有名な「瑞芳」など、有名な場所をいくつも擁しています。
(詳細は「新北市観光旅遊網」日本語ページの地図をご参照ください)
シンポジウムの場で立法委員の許毓仁さんは、「ブロックチェーン実験特区」の敷地は3,800坪、200軒のブロックチェーン関連企業を呼び込み、一年で20億アメリカドルの価値を生み出すと表明したそうです。
具体的な開設場所については記事には書かれていませんが、ある程度計画は固まっているように感じます。
また、記事には、シリコンバレーで2018年1月に結成され、台湾に事務所を開設し、ブロックチェーンプラットフォームを開発している「ThunderCore」という企業が、すでに特区への投資を願い出ていて、投資額1億台湾元、1千名のスタッフ投入を考えていると書かれています。
ThunderCoreは公式ウェブサイトによれば、自社の事業を以下のように説明しています。
ThunderCore is its own blockchain with its own native cryptocurrency. It is EVM-compatible with throughput of 1,200+ TPS, sub-second confirmation times, and low gas costs—making it quick and easy for DApps to deploy and scale.
(ThunderCoreは、自らの仮想通貨を持つ独自のブロックチェーンである。それは、1,200件以上のTPSスループット、1秒未満の確認時間、ガスの低コスト化をともなうEVM互換であり、DAppsの開発と拡張を迅速かつ容易にする)
詳しくはまたあらためて記事にできればと思いますが、DAppsの開発プラットフォームを提供している企業のようですね。
中国のニュースサイト「搜孤」の記事によれば、創設から半年のうちに、トークンのプライベートセールで5億枚のトークンを完売、トークン価格は1枚0.1アメリカドルということで注目されたことが報じられています。
こうした具体的な企業と、許毓仁さんのような台湾の仮想通貨・ブロックチェーンをめぐるキーパーソンが積極的に関わっているということもあり、今回の新北市の取り組みは特に注目を集めているようですね。
新北市で上記の発表がおこなわれた2018年8月14日に、対岸の中国・福建省の平潭では「海峡两岸区块链产业论坛(海峡両岸ブロックチェーン産業フォーラム)」が開催されたことを、中国のニュースサイト「中国新聞网」が報じています。
「海峡两岸」とは「台湾海峡」を挟んで対峙するように存在している中国と台湾のことを指していて、このフォーラムでは、「融两岸・链未来(両岸を融合し、未来をつなぐ)」をテーマに、中国と台湾のブロックチェーン開発者が登壇したようです。
記事によれば、このフォーラムは「中国国际贸易促进委员会台港澳企业服务中心(中国国際貿易促進委員会台湾・香港・マカオ企業サービスセンター)」と「平潭综合实验区管理委员会(平潭総合実験区管理委員会)」の合同開催と書かれています。
このうち、「平潭総合実験区管理委員会」は福建省福州市の平潭県に設置された「平潭総合実験区」の管理組織として開設されたものです。
「平潭総合実験区」は、香港情報に関する日本語サイト「香港ポスト」の記事によれば、2011年に台湾企業との経済交流プラットフォームとして設立された経済特区と説明されています。
平潭県は地図を見ると、福建省から台湾に向けてポコっと飛び出す形で位置するいくつもの島で構成されている地域です。
(少しわかりにくいですが、wikipedia簡体字版の地図、南部の茶色の島嶼部分が平潭県です)
「海峡两岸」に関するフォーラムを開催するにはうってつけの場所でもあり、実際に多くの台湾企業がここを拠点に経済活動を展開しているようです。
平潭総合実験区管理委員会の公式ウェブサイトに掲載されたフォーラム開催記事には、ブロックチェーン導入を進めている台湾の遠東航空のCOO(营运长)である曽金池さんが登壇し、今回の交流によって、草創期にある台湾のブロックチェーン業界をさらに健全に発展させることができるとスピーチしたそうです。
また、フォーラムの開催に合わせて、「福建省海峡区块链应用协会(福建省海峡ブロックチェーンアプリケーション協会)」の設立も発表され、中国と台湾のブロックチェーン企業同士の交流を進めていく方針を打ち出したとのことです。
協会内には、「区块链产业数据中心(ブロックチェーン産業データセンター)」、「高新企业孵化中心(ハイテク企業インキュベーションセンター)」、「区块链专业人才培训中心(ブロックチェーン人材養成センター)」、「高新技术研究中心(ハイテク研究センター)」が設置され、人材・企業育成から情報集積・技術開発までを担う組織になるようです。
平潭の今について報じているBBC中国語版の記事には、若い人々の起業センターとして平潭に開設されている「台湾創業園」には300に及ぶ企業が進出していて、その半分は台湾資本の企業だとあります。
これまでの「総合実験区」としての実績のうえに、「海峡两岸」のブロックチェーン企業を結びつける一大センターが平潭に建設されようとしている様子がうかがえますね。
先に挙げた台湾の新北市での「ブロックチェーン実験特区」の設置に関連することは、2018年7月に台湾で開催された「兩岸區塊鏈聯盟(両岸ブロックチェーンアライアンス)」の結成大会で、立法委員の許毓仁さんが新北市でのブロックチェーンインキュベーターの拠点を設置する旨を公表していました。
このときの記事にも書きましたが、台湾の産業を語るうえで中国大陸に香港やマカオも含めた「両岸関係」の状況というのは欠かすことができません。
ブロックチェーン産業ももちろん、この「両岸関係」のなかで展開されていくことが多々あるのだろうと思います。
そうした視点から、今回、台湾と中国の「両岸」で同日に生じた動きを合わせて見ると、ブロックチェーンをめぐる「両岸」の提携と競争の両面が垣間見えるように感じます。
一見すると、台湾と中国のブロックチェーン産業の交流・提携促進の場が構築される動きであるように見えるとともに、「両岸」のブロックチェーンをめぐるイニシアティブをめぐる激しい動きとしても捉えることができるだろうと思います。
ブロックチェーンをめぐる緊張と緩和のあいだに、多様なプラットフォームと新たな技術が生み出されるのかな…と考えると、この地域の動きを追いかけていくことは大切なのかなと思います。
こうした広域的な視点からも、ブロックチェーン産業をめぐる動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!
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