僕のこれまでの記事では、台湾・香港・中国のブロックチェーン・仮想通貨に関する技術やサービスを開発するスタートアップの動きをいろいろと書き留めてきました。
僕の記事は、現地のメディアなどで報じられるような動きがあったときに、そこからいろいろな情報を組み合わせて記事にするというのが基本的なスタンスになっています。
ですので、こうした地域で日々起こるブロックチェーン・仮想通貨をめぐる動きはなるべく幅広く捉えることを意識していますが、個々のスタートアップの「その後」の動きがなかなかフォローできていません。
今回は、これまでに記事で取り上げたスタートアップの新たな動きがいくつか報じられていましたので、ひとつの記事としてまとめておきたいと思います。
・池上米はブロックチェーンで世界から注目⁉︎
・度度客が日本企業と提携してサービス開始⁉︎
・TokenBaconは美術品をブロックチェーン上に登録⁉︎
・ブロックチェーンをめぐる動きは日々変化していますよ
台湾の大手紙「自由時報」のニュースサイトに2019年3月8日に掲載された記事によると、台湾のブランド米「池上米」の生産・販売のプロセスにブロックチェーンを導入した生産農家の魏瑞廷さんが、若手の米農家の方々を対象に「ブロックチェーン稲作産業導入シードプログラム(「區塊鏈導入稻米產業」種子培訓)」を開催したそうです。
記事によれば、プログラムのなかで魏瑞廷さんは、ブロックチェーンの解説から説明を始め、そうした技術が稲作産業にどのように応用できるのかというところから、「ネット「ニューリテール」コンセプト(網路「新零售」概念)」の実現を目指すことに言及されたようです。
魏瑞廷さんが生産する池上米へのブロックチェーンの導入については以下の記事に書き留めましたが、魏瑞廷さん生産のブランドである「池上禾穀坊」の流通に、台湾のブロックチェーンスタートアップ「OwlTing(奥丁丁)」が提供している食品トレーサビリティプラットフォームを活用するというものです。
この取り組みについては、台湾で注目されていることはもちろん、海外からも注目されています。
たとえば、台湾の大手紙「中國時報」では、2019年2月27日に秋田県大潟村の村会議員を中心とする視察グループが視察に訪れた様子が報じられています。
先に挙げた「自由時報」の記事には、魏瑞廷さんが生産するブランド米は、ドバイや香港など、海外への販路を順調に拡大させているそうです。
ブロックチェーンや食品トレーサビリティといった新たな技術が、従来の産業をどのように変えていくかということについて、「成功例」を積極的にシェアしながら、産業全体の底上げを目指している様子がうかがえますね。
日本との関係という点では、日本の企業と提携して日本進出を図っているスタートアップの動きも報じられています。
台湾の「ブロックチェーンクラウドファンディングプラットフォーム(區塊鏈群眾募資平台)」である「度度客(dodoker)」が2019年2月20日に発信したプレスリリースで、度度客は日本企業の海外進出支援サービスを提供する「東京商業支援機構(TCSM)」と提携し、日本でクラウドファンディングサービスを展開することを公表しました。
今回の提携については、TCSMもYahoo台湾の記事をリンクする形で公式ウェブサイトに掲載しています。
記事によれば、TCSMにとっては、日本の中小企業が海外のマーケットに進出するためのハードルを下げる効果が期待されていると同時に、度度客にとってはクラウドファンディングを通じたお金と文化の交流・流通の向上を目指すということです。
度度客については以下の記事に少し書き留めましたが、社会福祉分野を中心に、比較的少額から資金調達をおこなうことができるクラウドファンディングプラットフォームとなっているようです。
この記事に書きましたが、度度客による取り組みは、台湾のブロックチェーン関連スタートアップの「成功例」のひとつとして注目を集めています。
度度客がプラットフォームをブロックチェーン上に構築したのは2018年3月ということで、短期間で成果を出しているという点にTCSMが注目し、今回の提携に至ったということです。
「ブロックチェーン×クラウドファンディング」は注目の分野だと思いますので、これからの日本での展開が楽しみですね。
また、ブロックチェーンを美術品の権利保護と流通に活かしていこうとする動きも活発になっています。
台湾の経済紙「工商時報」が2019年3月8日に掲載した記事によると、台湾のスタートアップである「TokenBacon」が台湾の芸術家の李紹榮さんの作品である「Time for a drink」をイーサリアム上に構築されたシステムに登録したということです。
「Time for a drink」という作品については、以下の「ETtoday新聞雲」の記事に写真が掲載されていますが、毛沢東と蒋介石が笑顔で互いに肩を抱きつつ、蒋介石が「台湾ビール(台灣啤酒)」の瓶を持っているという絵画作品です。
(この作品、サムネイルに写っていますね)
記事によれば、今回のブロックチェーン上への登録を通じて、「最初にオンチェーンで商用化された現代芸術作品で、次には芸術品を株券として取引できるようにしていきたい(首幅上鏈商轉的當代藝術品,下一步要將藝術品分成可交易股份)」とあります。
TokenBaconについては以下の記事に書き留めましたが、TokenBaconの技術的なセールスポイントは各種のメインチェーンを架橋するサイドチェーンの構築というところにあります。
この技術を活用し、企業によるブロックチェーン導入・DApps開発のサポートをおこなうと同時に、デジタルアセットの流通にもブロックチェーンを活用しているようです。
「工商時報」の記事によれば、芸術品をブロックチェーンに登録することによって、真贋判定の正確さ、投資性の向上、流通経路の拡大といった課題を解決することができるとされています。
TokenBaconでは今後、中国出身の大芸術家で、晩年は台北で過ごした張大千さんの「紅葉小鳥」の複製版をブロックチェーン上に登録する計画を立てているということです。
世界的に知名度の高い芸術家の作品をブロックチェーン上に登録することで、技術の知名度向上も期待されると思いますので、これからの展開が楽しみですね。
台湾では、2018年は「ブロックチェーン元年(區塊鏈元年)」と言われていましたが、2019年は「ブロックチェーン技術定着の年(區塊鏈技術的落地年)」と言われています。
2018年にはアイデア段階も含めて、さまざまな技術やサービスの開発が報じられ、ブロックチェーンの活用可能性がいろいろと考えられていたと思います。
そうした段階を経て、2019年は具体的な技術やサービスが実際に動き出して、社会実装が試みられていくような動きが見えてくるようになってきました。
すでに開発が止まっている・滞っている(ように見える)ものもあるかと思いますが、今回取り上げたスタートアップのように、継続して開発を進めているところも少なくありません。
これからもできる限り、開発状況の「その後」を追いかけながら、台湾のブロックチェーン・仮想通貨をめぐる動きの変化をコツコツと捉えていきたいと思います!