ブロックチェーンや仮想通貨が身近なものになっていくには、小売業での技術の活用を欠かすことができないと思います。
小売業でのブロックチェーンの活用というと、一部の家電量販店などで実施されている仮想通貨決済を思い浮かべるのではないでしょうか?
ただ、仮想通貨および仮想通貨決済はブロックチェーンの活用方法のほんの一部であり、「小売業×ブロックチェーン」は、より多様に活用できる可能性があります。
こうしたテーマについて、中国の大手家電量販店がさまざまな形でブロックチェーンを活用しているというニュースが目に留まりましたので、書き留めておきたいと思います。
・中国のSuningが「ブロックチェーン白書」を発表
・Suningはもはや単なる「家電量販店」ではない!?
・家電量販店から技術開発企業へ
中国の大手家電量販店の「苏宁(Suning、蘇寧)」が2018年7月20日にプレスリリースとして公表したところによると、「苏宁技术研究院(蘇寧技術研究院)」、「苏宁金融研究院(蘇寧金融研究院)」、「苏宁云(蘇寧クラウド)」の連名で、「苏宁区块链白皮书(蘇寧ブロックチェーン白書)」をまとめたと明らかにしたようです。
上記、Suningの公式ウェブサイトに掲載される前に、いくつかのメディアで報じられていましたが、以下、プレスリリースの内容を基に書き留めていきます。
ホワイトペーパーの内容はまだネット上で確認できませんでしたが、プレスリリースには以下のように書かれています。
详细解读了区块链在零售、物流、科技、金融、文创等苏宁的优势产业和公共服务等领域的应用场景
(ブロックチェーンの小売、物流、科学技術、金融、文化創造など蘇寧の有力事業と公共サービスなどの領域におけるアプリケーションユースケースについて詳しく説明している)
ホワイトペーパーの発表会の場で、「苏宁科技グループ」の副総裁である乔新亮(喬新亮)さんは、今回のWP公表が、ブロックチェーンの「智慧零售生态(スマートリテールエコシステム)」における活用方法について、具体的な解決方法を示し、業界の参考に供するという目的があると語ったそうです。
同じ場で、「苏宁IT总部区块链研发中心(IT本部ブロックチェーン研究開発センター)」のテクニカルリーダーである姚平さんも、「作为智慧零售领先者,苏宁对技术一直保持着很高的敏感性(スマートリテールのフロントランナーとして、蘇寧は技術に対して一貫して高い感受性を保持し続けてきた)」と述べたようです。
Suningは自らを「智慧零售(スマートリテール)」をリードする存在として位置づけたうえで、今回のWP公開によって、ブロックチェーンの活用を業界全体で進めていこうという姿勢を明確に示したといえるのかもしれません。
Suningは公式ウェブサイトによれば、1990年12月に中国・南京で、空調機器を専門に取り扱う販売店として創設されたそうです。
その後、家電量販店として中国全土にチェーン展開し、2017年末時点ではあらゆる業態の店舗を含めて約4,000店を超える店舗を展開しているとのことです。
日本でも、2009年にLaox・ラオックスを買収したことで知られていますね。
ただ、実店舗の展開を中国全土で展開しているわけですが、今の企業名は「苏宁易购集团(Suning.com Group)」となっているように、e-コマースが主力事業となっているようです。
日本でも報じられていましたが、2015年には阿里巴巴集团(アリババグループ)から283憶人民元(今のレートで約4,500億円)の出資を受け、オンラインでのサービス提供を強化しました。
「ブロックチェーン白書」のプレスリリースにあったように、現在では「零售、物流、科技、金融、文创(小売、物流、科学技術、金融、文化創造)」に事業を拡大していますが、とりわけ「科技」、ICTの開発を積極的に進めてきています。
2013年11月にはシリコンバレーに研究所を開設し、IoT、検索技術やビッグデータの分析・開発、e-コマースへのICTの活用を進めているようです。
また、2018年6月13日から15日に上海で開催された2018CES(Consumer Electronics Show)Asiaのなかで、SuningはIT部門に新たに2,000人のスタッフを投入し、特に、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoT、AIなどに注力する方針が、こちらの記事のなかで示されています。
記事中には、Suningの目指すべき事業が、「以智慧供应链、智慧物流、智慧金融为核心的智慧零售生态(スマートサプライチェーン、スマートロジスティクス、スマートファイナンスを中心とするスマートリテールエコシステム)」の実現であると明言されています。
日本語で読める記事としても、たとえば無人店舗の開設について報じられているように、まさに「スマートリテール」の実現に向けて、着々と事業を展開していることが伝わってきます。
自社による技術開発から実際のサービス提供までを一貫して、かつスピード感をもって実現していくという動きのなかで、今回の「ブロックチェーン白書」がまとめられたということがうかがえますね。
Suningは技術開発・提供プラットフォームとして「数据易道」を開設しています。
公式ウェブサイトには、Suningの技術を活用している企業として、Lenovo、HUAWEI、Hisenseなどの中国企業とともに、dysonの名前も挙がっています。
こうした事業展開を見ると、Suningはもうすでに単なる家電量販店から脱して、技術開発をベースとするICT企業グループへと発展しているように感じます。
今回の「ブロックチェーン白書」が「智慧零售领先者(スマートリテールのフロントランナー)」としての役割を果たすものであると自負されているのは、こうした近年の事業展開を基にした、地に足のついた自負であることがうかがえます。
Suningによるこうした事業展開に、「家電量販店×ブロックチェーン」の多様な可能性を見て取ることができるように思います。
それは、自らを「小売業」であるというところから逆算して、必要となるあらゆる技術の開発に自らかかわっていくという姿勢だろうと感じます。
ブロックチェーンは、「小売業」にかかわるあらゆる事業を刷新していく可能性があるからこそ、Suningはホワイトペーパーの公開を通じて、積極的に技術開発を進めていく姿勢を示したのだろうと思いました。
これは、「小売業×ブロックチェーン」についてのひとつの可能性でもありますが、それはとりわけ「家電量販店」という、よりICTに触れる事業であるからこそ展開できたことでもあるのかもしれません。
いずれにせよ、小売業における仮想通貨決済の導入ということにとどまらない、ブロックチェーン活用のひとつの具体的な方向性が、ここに示されているのではないでしょうか。
Suningの動きは世界的な代表例として非常に興味深いものだと感じました。
今後の事業展開を出来る限りコツコツと追いかけていきたいと思います!
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