ネットワーク国家はクラウドから取り組みはじめ、領土は最後です。
物理的な領域からではなく、デジタルコミュニティから始めます。
Balaji氏(元Coinbase CTO, 元a16z GP)記事の日本語訳です。
This article is the Japanese translation of the link below.
I believe he wants to spread this idea all over the world.
・なぜ新しい国を始めるのか?
・どのように新しい国を始めるのか?
1. 選挙
2. 革命
3. 戦争
4. ミクロネーション(独立小国家)
5. シーステッド(海洋国家)
6. 宇宙
7. クラウド国家
・必要最小限のイノベーション
・何をもって新しい国とするか?
新しい国を、平和的に始めたいと思っています。それは未開の地球や、白紙や、新規のスタートアップのような、まっさらな状態から新たな物事を始めたいのと同じで、旧来の制約に縛られたくないからでもあります。
まっさらな状態の経済的ニーズは明らかです。人々は毎年、何百万㎡もの空き地を購入し、何十万もの新会社を設立し、再出発のために数十億円を費やしています。そして今では、会社だけでなく新しいコミュニティや新しい通貨も創れるようになり、それに人々が群がっています。
また社会的な価値も明らかです。テクノロジー分野だけを見ても、新会社の設立によって過去数十年間に文字通り何兆ドルもの富を生み出してきました。もし、白紙を手に入れるだけでなく古い紙の文字を消さなければならなかったり、更地を獲得するだけでなくビルを壊さなければいけなかったり、新会社を設立するだけでなく既存の会社を改革しなければならないような世界だとしたら、希少な資源をめぐって無限の争いが起こるでしょう。
しかしそんな世界の想像もそれ程難しい事ではありません。我々自身の世界と似ているからです。遠い昔、人々は粘土板にしか文字を書けず、近年でも起業を考えただけで処刑され、今でも古くからあるガソリンスタンドを転換するか否かで議論しています。これらの時代や場所でのフレッシュなスタートは、技術的に実現不可能か、政治的に不可能か、司法で罰せられるものでした。
そしてこれは、国や都市、国家、政府、多くの物質的な世界にも当てはまります。真新しいものは考えられないので、私たちは古い土壌の上で戦います。しかしおそらく、私たちはこれを変えることができます。
新しい国の始め方は、公に議論されているものだけでも最低6つあります。3つは従来型、残り3つは非従来型です。全面的に支持する7つ目の方法を示すため、ここでそれらを紹介したいと思います。
新しい国を作る最も一般的な方法は、選挙で十分な力を得て、(a)既存の法律を書き換えるか、(b)国際社会の同意を得てゼロから新しい 国を作ることです。これは、最も広く議論されている方法であり、最も多くの人が参加しています。多くの人がこの方法に関心を持っていて、おそらく多すぎるくらいです。
2つ目の明白な方法は、政治的な革命を起こすことです。しかしお勧めはできません。特に重要な選挙は革命と呼ばれることがありますが、革命はしばしば流血を伴います。頻繁に起こるものではありませんが、それが新しい政府を意味することは誰もが知っています。
3つ目の従来型の方法は、戦争に勝つことです。これもお勧めしません。勿論、戦争は上記の2つの方法と無関係ではありません。実際、選挙や革命が戦争に発展し、新たな政治を切り開くこともあります。革命と同様、戦争は頻繁には起こらず、好ましくもありませんが、国境を書き換える手段として広く知られています。
さて、ここからは慣習に囚われない方法です。型破りなアプローチの中でも最もわかりやすく、多くの人が「新しい国を始める」というコンセプトを聞いたときに思い浮かべるのは、変わり者が石油プラットフォームや紛争中の土地に旗を立て、何もないところで王様宣言することです。選挙の問題が、大勢の人々がそればかりに関心を持つことだとすると、いわゆるミクロネーションの問題は、あまりにも少数の人々しか関心を持たないことです。国家とは(通貨のように)本質的に社会的な事象のため、何も持たない少人数では、軍隊を組織したり、法律を施行したり、他国から認知してもらうことはできません。加えて、既存の国家は人々が箱庭で無害な偽国家のリアルRPG(LARP)に興じている分には気にしないかもしれませんが、主権に対する実際の脅威には、フォークランドであれサハリンであれ、本物の銃で対処するのが基本です。
ここからが面白いところです。パトリ・フリードマンが考案し、ピーター・ティールが支持したシーステッドは、基本的にはクルーズ船の存在観測から始まり、一度に数週間の水上生活から、(都度寄港は必要でしょうが)国際水域での半永久的な居住へと移行できないかと考えています。最近はクルーズ船のコストが下がってきているので、このアプローチはより現実的になりつつあります。しかしまだ実用的な事例はありません。
新しい国の始め方として最も栄誉ある方法は、他の惑星にコロニーを形成するというアイデアでしょう。シーステッドやミクロネーションとは異なり、宇宙開発は国家レベルで取り組まれ、多くの映画やテレビ番組で美化されてきたため、社会的にも受容されています。また多くの人々は、宇宙開発が奇想天外な事ではなく、現時点では技術的に難しいという様に考えています。イーロン・マスクのSpaceX社は、火星に新しい国家を建設することを真剣に考えている企業の一つです。
そしてついに、好ましい方法「クラウド国家」に辿り着きます。このアイデアは、クラウドから始め、土地は最後に取り組むというものです。物理的な領土から始めるのではなく、デジタルコミュニティから始めるのです。新たな仮想ソーシャルネットワーク、新たな都市、そして新たな国家に関心がある人々を、オンラインで募集します。オープンソースプロジェクトとして未成熟な国家を構築し、リモートワークを中心とした内部経済を組織し、礼節ある対人関係を育み、VRで構造をシミュレートし、価値観を反映した芸術や文学を創造していきます。
最終的にはクラウドファンディングで現実世界の領土を獲得していきますが、必ずしも連続した領土は必要ありません。あまり認識されていない事実ですが、インターネットにより飛び地をネットワーク化できるからです。言い換えると、クラウドコミュニティは全領土を一度に一箇所で獲得する必要はありません。異なる都市にある1,000のアパート、100の家、10の袋小路を、クラウドに首都を置く新しい形のフラクタルな市民政府として繋げられるからです。時が経つにつれ、コミュニティのメンバーは近接した飛び地やクラウドファウンディングで獲得した領土を往来するようになり、個々の住居やグループハウスは独立した拡大機会を提供します。
ここまで説明してきたことは、世界中に分散していてもお互いや母国がコミュニケーションチャンネルでつながっている、離散民族ディアスポラの発想とよく似ています。つまり、まずインターネット上でコミュニティを形成し、オンラインで文化を築き、その後実際に集まって住居や構造物を作るという、逆ディアスポラをやろうとしています。ある意味このデジタルコミュニティの物理的な拠点は、世界各地で生じた草の根ビットコイン大使館に似た、クラウド大使館と考えることができます。新参者はバーチャルからでも物理的な環境からでもトライアルで参加でき、去るか留まるか決定できます。
さて、このような大使館や国の話をしていると、クラウド国家も前述のミクロネーションのように単なるLARPだと思えるかもしれません。しかしミクロネーションとは異なり、(想像力を駆使して大勢の人が同時に実践する)大規模なLARPとしてセットアップされています。そして過去10年に及ぶ暗号通貨の経験は、このようなシェア型LARPが如何に強力なものであるかを我々に示しています。
少し立ち止まってまとめてみましょう。7つ目の方法(クラウド国家)が、これまでの6つの方法(選挙、革命、戦争、ミクロネーション、シーステッド、宇宙)と大きく異なる点は、実用性と非実用性の境界を跨いでいることです。100万人規模のオンラインコミュニティや10億ドル規模のデジタル通貨の構築が不可能だとは誰にも言えませんし、VRで建物を建築してクラウドファンディングすることが物理的に不可能だとも言えません。クラウド国家の発想は、火星探査ロケットや永住型シースタッドのような新技術の発明は不要で、多くの既存技術を積み重ねる「だけ」です。しかし同時に、選挙・革命・戦争といった、醜く且つ個々人の自発性や独創力を発揮する場もない道筋を、明らかに避けることができます。
言い換えると、クラウド国家構想は、私たちが持つ最も強靭な既存の技術スタック、すなわちインターネットを中心とした一連の技術を活用し、将来の物理的なイノベーションを待つことなく、政治的な障害を回避できるルートとなります。
ここまで7つの方法を紹介してきましたが、注意深い読者の方は「新しい国」の定義を少しずつ変えてきたことにお気づきでしょう。
まず、新しい国とは何を意味するのか。一つは、火星をコロニー化するように、全く新しい領土を開拓することです。また「第二次フランス共和国」から「第二次フランス帝国」のように、単に政府の形態が変わるだけで国が変わるという定義もあります。ここではこのような厳密もしくは曖昧な定義ではなく、数値的及び社会的な尺度を用いて、新しい国の定義を考えてみたいと思います。
数値的な定義は、まず coinmarketcap.com のような nationrealestatepop.com サイトで可視化することから始まります。ここではクラウド国家の参加者数や、参加者が所有する不動産の面積、オンチェーンのGDPをリアルタイムで追跡します。最終的にクラウド国家は、年間数十億ドルの収入があり、コミュニティが所有する(不連続な)何千㎡もの土地を持つ人々が世界中に500万人いると、認知される必要があります。
これが次の社会的な定義につながります。新しい国とは、国連の新たな加盟国であり、自己決定可能な正当な政治体として他国から国際的に認めらる国を意味します。
このような絶対的な指標と相対的な指標の組み合わせは、暗号通貨の台頭と一致します。当初は無視され、明らかな失敗作として嘲笑されていたビットコインは、発明から5年以内に時価総額10億ドルを達成し(数字上の成功)、その後 CNBC やBloomberg に優良株と並んで掲載されるようになりました(社会的認知の一形態)。ビットコインは一歩一歩、自分の力で数字を上げていくことで、社会的な認知度が高まり、2020年には中国人民銀行、IMF、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、世界銀行の軌道を変えました。
暗号通貨がこのような高みに到達できたのは、お金には技術的な側面と政治的な側面があるからです。社会的な称賛を得る前に、数字を積み上げられました。ビットコインが容易に偽造やハッキングできないことを証明した後、世界中の何千万人もの暗号通貨保有者がシェアする信念が、BTCの時価総額を0から1兆ドル以上にし、そこから全Bloomberg画面に掲載されるまでになったのです。
では100万~1,000万人の熱心なデジタル市民や、証明可能な暗号通貨の保有量、地球上のあらゆる場所に物理的な土地を持つ、十分に強靭なクラウド国家は、国連から社会的認知を得ることができるでしょうか?
国連が承認している193の主権国家のうち、約20%の国が人口100万人未満で、約55%が人口1,000万人未満であることを考えると、この規模の人口を持つクラウド国家は、実際には世界的に見ても真ん中あたりに位置します。これにはルクセンブルク(61.5万人)、キプロス(118万人)、エストニア(130万人)、ニュージーランド(470万人)、アイルランド(480万人)、シンガポール(580万人)など、一般的にその人々が「実在する」と考えられている国が多く含まれています。
これらの「利用者数」は、テクノロジースタンダードからすると驚くほど少ない数字です。もちろん、量だけがすべてではありません。仮想クラウド国家への所属の強さは重要であり、資産に費やした時間や、通貨に蓄えられた純資産の割合、コミュニティで見つけた人脈の断片なども重要です。
しかし、Facebookには30億人、Twitterには3億人のユーザーがいて、多くの個人インフルエンサーに100万人以上のフォロワーがいることを考えれば、純粋な国家意識を持ち、暗号通貨で統合され、世界中の領土をクラウドファンディングで獲得する計画を備えた、100万~1,000万人規模のソーシャルネットワークを構築できると考えることは、それほどおかしなことではない気がします。インターネットを利用して点在する飛び地をデジタルで縫い合わせ、新しい種類の国民や、ネットワーク国家とすることができるのです。
次のステップでは、これをどのように実現するかを具体的に説明しましょう。
(和訳ここまで)
元記事の最後には、記事のベスト10レビュアーへ$100相当のBTCを贈るとあり、申告フォームがあります。
この他にもBalaji氏は壮大な計画を実現するため、インセンティブ報酬付きの様々な取り組みをはじめています。興味のある方は是非ご覧ください。
(2022/3/20追記)
書籍(英語)のプレ予約開始(2022/7/4発売)