この頃、無職ニートはトラック転生して無双するが相場ですけど、たまには現実世界で足掻いてみてもいいじゃない。今回はそんな無職ニートがテーマとなるライトノベル、おすすめ三選をお送りします。
路地裏に吹き溜まるニートたちを統べる美少女・アリスは、ニート探偵。 高校1年生の僕・藤島ナルミと同級生の篠崎彩夏を巻き込んだ怪事件―― 都市を蝕む凶悪ドラッグ “エンジェル・フィックス” の謎を、自室にひきこもったアリスが暴いていく。 そして事件解決へ向け、普段は不真面目なニートたちが動き出す!
作者の杉井光さん、2ちゃんねるでの流出騒動(知りたければググりましょう)があってどうもなあ、と思っている人も多いかもしれません。けれども、その馬鹿さ加減含めて筆者は嫌いになれないなあと思ってる作家さん。もともと「NEET TEEN」というサイトを運営していたぐらい、割と長いニート生活を経てライトノベル作家になった経歴の持ち主です。
『神様のメモ帳』はアニメ化もされた作品で、美少女安楽椅子探偵、有栖川アリスを中心としたサスペンス活劇。主人公ほか、あまり引きこもってる印象はないかもしれませんが、紹介文にある通り登場人物はだいたいニート。
最も面白いのは第一巻近辺で、高校からほとんどドロップアウトしかかっている主人公の周りに、ひょんなことから「ニートがニートを呼ぶ」がごとくニートの知り合いばかりが増えていく、「人は、自分と同類の人間としかつきあえない」といわんばかりのシニカルな展開からのくだり。
しかしながらそれは「自分の居場所はここだ」を見つけるための一つの作業。人が会社なり組織なりに所属するのは生活のためでもあるけれど、そこが「必要とされる自分」の居場所となるから、でもあります。
仮に自分が状況から、ニート達から求められるならそれが自分の居る場所だ、ということで、主人公は自身を賭して騒動の解決に奔走していくことになります。ここらへん、作者の実感が反映されているのか妙なテンションとリアリティ、それと突き放した人間模様の描写で筆が走っていて出色の面白さになっています。
物語後半は半グレまとめる街の顔役なんとやら、ってなほんとうに「自由業」な展開でこうした醍醐味は薄れていってしまうんですけれど、第一巻近辺は特に必読です。自分に目覚める物語。
未踏の地を夢見て、若者たちが冒険の旅に出たのも、今は昔。冒険なんて、時代遅れもいいところ。今の若者の夢は、無事に就職すること。主人公・チタンは一生安泰の宮廷務めを目指し就職活動中。しかし、なかなか採用されず苦戦続きでやさぐれていた。そんなチタンの前に現れ、冒険という悪の道に誘う中年男・ケントマ。しかし、今時、冒険者など流行らない。食べていけない。冒険者の才能がある、としつこく誘うケントマから逃げ回るチタンだったが……。
さえない大男、あまり美しくないエルフ、そして一匹の白い犬が織りなす「ファンタジー世界」の青春とは?
冒険者向きの恵まれた体格と才を持ちながら、不幸にもそれを活かすことのない平和な時代に生まれてしまった主人公。卒業を控え就活に励みますが、これでもかと就職試験に落ちまくり、お断りされまくり、ご活躍とご多幸をお祈りされまくるお話です。彼が最終的に選んだ道とは?
作者の田中ロミオさんは美少女ゲームのライターとして著名で、世間の常識やルートになじめない「はみだしもの」達があがいて生きていく姿を描くことで定評がある作家さん。単巻完結の短いお話ですが、こうした主題が軽妙な語り口の中にも色濃く出ているのが本作です。
就職して一人前と言われたい、うぇーいなリア充として振舞いたい、時代の流れに沿って安泰に生きていきたい、周りはみんなそうやって上手く生きているように見える。けれども、望んでいるのにそうなれない。自分はまるでそれに向いてない。自分とはいったいなんなのだろう?
架空のファンタジー世界を舞台にしていますが、なろう転生の真っ向向こうを張ったリアルでせちがらい就活物語。大学4回生なら読んでて笑えないエピソードのオンパレードで、周りが次々将来を決めていく中での飲み会コンパの描写など生々しすぎて冗談抜きに笑えないかも。
ですが、作者の視線はどこか優しい。えてして当人が望むものと、当人が持っている適性とは異なるもの。こういう時、どうやって折り合いをつけたらいいのだろう?淡々と日々を描きながら、ゆっくりと待っているような、そんな目線を感じる作品です。自分について考えてみる物語。
ひきこもりの大ベテラン佐藤は気づいてしまった。人々をひきこもりの道へと誘惑する巨大組織の陰謀を!――といってどうすることもなく過ごす佐藤の前に現れた美少女・岬。彼女は天使なのか、それとも……。
角川文庫から刊行されてますので、ライトノベルではないんですけど(もとはWEBでの小説)、無職ニートといえばやはりこの作品を欠いては話にならないので、挙げます。
漫画にアニメに、いずれもヒットとなった有名作品で、あらすじはご存じの方も多いかもれません。実のところ原作小説、漫画、アニメとでそれぞれ設定もあらすじもちょっとずつ違ってたりするんですが、始まりは同じ。
大学からドロップアウトして引きこもる主人公のもとに、「引きこもり脱却プロジェクト」を掲げた少女、中原岬がやってくるというお話。
全国の廃オタどもに「いつか俺のもとにも岬ちゃんがやってくる!」と甘い幻想を抱かせ、00年代のオタク文化に絶大な精神的影響を与えた作品ですが、過酷で徹底したニート生活の「底」を描いたニート小説の金字塔です。
仲間や自分の適性を探しだすのが上述紹介した2作品であるとするなら、この作品はそれすら見つからない、あてにならない場合はどうするか、という突き抜けたどん底を描いた物語。上にあるイラストが美少女ながら何やら不穏な空気を醸し出しているように、出てくるキャラクタ、ほんとうに「ダメ人間」しかいない。
漫画版が一番ダメ人間が揃って大宴会、になっているので読み比べしてみるのも面白いんですが、居場所や仲間や自分のありようを探して、美少女ゲームづくりにネトゲにマルチ商法に、とさまざまに挑んでは七転八倒し、足掻き、結局やっぱりどうにもならなくてへたり込む。
作者の実体験がベースになっているぶん、その苦悩は非常なリアリティを伴っていて、どうにもならない生活の中で、見えてくるこれまたどうにもならない真実。「見なかったこと」にして過ぎていけない不器用さがまたややこしい事態を引き起こす。そんな、自由に見えながらがんじがらめな不器用さの果て、を描いた物語です。
主人公達が最終的にたどりついた場所に、どこまで納得することができるか、がこの作品のキモ。皆さんはどんな感想を抱くでしょうか。
無職について語ることは、つまりは、自分とは何か、自分の場所はどこか、を考えること。どのような結論を皆さんは導き出すでしょう?
以上、無職ニートなライトノベルのすすめ、三選でした。