怪談フェス2022で初めて小説を書いてみます。
拙いところあると思いますが、短いのでサクッと読んでみてもらえると嬉しいです。
「激しい雨の夜にはいつも思い出すんだ」
暗い表情を浮かべたままぼそっと言った。
その男とはさっき会ったばかりだ。陽気な表情を浮かべながらバーで話しかけてきたときと今では真逆の表情をしている。
その男は陽気な表情を浮かべながら、バーで私に話しかけてきた。「ひとり?ちょっと隣いいかな?」いうよりも早く隣の席に座って、私が飲んでいるドライマティーニを2つ注文した。
年は20代後半だろうか。八重歯が特徴的で笑うとやたらと尖って見える。スラっとした体型はバスケットをしていたからだろう。やたらとバスケットをしていた学生時代の話をしてくる。
私は一人で飲みたかったが、意外と八重歯が好みだったので話を聞いていた。バスケットの話には興味がなかったが、今日は雨も降っておらず気分がいい。
話が盛り上がってきて「別の店にいこう」といわれた。いつの間にか私の分の会計も終わらせてくれていたので、もう1軒付き合ってもいいかなとは思ったのだった。
外に出てみると、ひどく強い雨が降っていた。私は急に醒めて濡れながらでも帰ろうと思った。しかし、その男はタイミングよく来たタクシーを捕まえた。
「パークリージェンシーホテルまで」
私は少し躊躇したが、その男は「濡れるよ、早く乗って」といい半ば強引にタクシーの中に連れ込んだ。
パークリージェンシーホテルの駐車場にはタクシーで10分ほどで着いた。なかなか綺麗なホテルで、その男は今日このホテルに泊まっているといった。
フロントを通り抜けエレベータホールに向かう。「28階のラウンジはまだ空いているから」と歩きながらその男はいったが、「私はあなたの部屋にいきたい」といった。
その男はごくりと唾をのみ、無言で16階のボタンを押した。
16階の部屋の大きな窓からは、天気がよければ東京の夜景がきれいに見えたことだろう。しかし、今見えるのは激しい雨粒がぶつかる様子とぼやけた町のネオンだけだった。
その男は「ちょっと濡れちゃったからシャワー浴びてくるよ。君もあとでシャワーを浴びるといい」といいながらシャワーを浴びにいった。
その間、私は窓に打ち付ける激しい雨を見ていた。
シャワーの音が消え、背後からゆっくりと男が歩いてくる音が聞こえた。私は振り向きざまに大きな灰皿で男の頭を打ち付けた。
「激しい雨の夜にはいつも思い出すんだ」
暗い表情を浮かべたまま”私は”ぼそっと言った。
激しい雨は私の衝動を抑えられなくする。
その男は恐怖と絶望にひしがれているようだった。陽気な表情を浮かべながらバーで話しかけてきたときと今では真逆の表情をしている。