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小佐野ルート1

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  • starai
  • 2021/06/24 03:53

小佐野ルートは、国際興業社主の小佐野賢治が国会偽証罪に問われたものである。小佐野は日航、全日空、東亜国内航空の航空3社の株を、国際興業グループの企業に購入させており、各社の役員や社賓となることで強い影響力を保持していた。そんな関係もあり、昭和51年2月16日の衆議院予算委員会に証人として呼ばれ、宣誓の上証言を行ったが、その中に虚偽の内容が複数含まれていた、という事が起訴容疑となった。

小佐野は、大正6年に山梨県で生まれ、昭和6年に高等小学校を卒業した後上京し、昭和10年に自動車部品会社に勤めたという。その年は、自動車製造事業法が可決された年であり、それによって自動車の国産化が本格的に始まることになる。その法案可決を主導した商工省工務局長の岸信介は、その翌年の11月には満州へ渡っている。その更に翌年、小佐野は徴兵検査に合格し、陸軍に招集されて中国に渡っている。小佐野は戦傷やマラリアのためにすぐに帰国したとされるが、それと入れ替わり、あるいは多少重なって一つ年下の田中角栄が同じく徴兵で満州に渡り、騎兵第24連隊に配属されている。第24連隊自体の記録は定かではないが、騎兵連隊という以上、自動車部隊化していた可能性があり、それに関わって、岸、小佐野、田中につながりができたかも知れない。このあたりは全くの推測なので、資料的な裏付けはできていない。小佐野は帰国後16年に自らの自動車部品会社を立ち上げたという。一方で田中も同じ年に自らの建築事務所を立ち上げている。

さて、小佐野は戦後、接収解除となった熱海ホテルと、東急から強羅ホテルを譲り受け、観光業に進出したとされる。これはどちらも根津財閥の根津嘉一郎が絡んでおり、同じ甲州出身ということをうまく使って、東急五島慶太の尖兵となって、根津の名声を取り込んでホテル経営に乗り出したのだろうか。ただ、自動車部品からホテルというのは余りに唐突すぎてつながってこない。自動車については金の出所の説明のために後から作られた話だろうか。実際の所は、梶原季之の「小説GHQ」にあるように、接収となるホテルを手に入れ、そこに米軍兵士を呼ぶというアイディアで、五島慶太の公職追放中にいくつかのホテルの再建に成功したというところか。そしてそれによって五島の知己を得て東急のバス事業の譲渡を受けることになったか。バス事業については米軍から中古のバスを横流ししてもらい、それを事業化するというアイディアを小佐野が五島に売り込んだ、と言うことではないか。そんなこともあって、23年には小佐野は横浜のアメリカ軍事法廷で業務上横領による有罪判決を受けることになったのでは。

これもどこまで本当かわからないが、小佐野は幼い頃家が貧しくて寺で育てられたという話があり、菩提寺は日蓮宗の立正寺だという。そして五島慶太も日蓮宗に深く帰依していたとされ、また、同じく日蓮宗の僧侶の家に生まれた石橋湛山は時期は全く重ならないとはいえ、甲州で高校時代まで過ごしている。戦後すぐの第1次吉田内閣で石橋湛山は大蔵大臣を務めており、あるいは進駐軍経費節減策の一環として接収ホテルの民営化というのがあり、そこに小佐野がうまく入り込んだということがあるのかもしれない。

また、Wikipediaなどによれば、小佐野はその頃、旧下総佐倉藩主で伯爵堀田正恒の三女、女子学習院卒の英子と結婚しているという。これはどうみてもつながる要素がなく、後からの詐称であろうと考えられる。それは後に掘田力がロッキード事件の検事を務めたこととも絡む、新たな疑惑の糸口となるものであろう。

とにかく、米軍の法廷にかけられるほどの働きは、いやでも田中の目にとまるだろう。公式には22年に元広島控訴院検事長で弁護士だった正木亮の紹介で田中と知り合ったとされるが、それは実際には米軍横領事件に絡んで弁護士から政治家に手を回してもらおうとしたのではないか。だから、それは第2次吉田内閣で田中が法務政務次官となり、小佐野が有罪判決を受けた23年のことではないかと考えられる。あるいは、それより前だとすれば、逆に田中の方が小佐野の腕を見込んで何かの軍需品の横領を小佐野に依頼したのかも知れない。だから田中と小佐野は切っても切れないような関係になっていったか。そんなこともあってか、田中が25年に長岡鉄道の社長になると、小佐野はそこに中古バスを納入したり、さらには長岡鉄道が越後交通となった後にその役員となったりした。もっとも越後交通となったのはそこから12年も後の37年のことであるので、その間は長い空白期間があることになる。

*なお、ここまでの話はあまり現実感があるとは思えないので、名前が売れるようになってから盛られた話がかなりあるのではないかと考えられる。小佐野という人物の実像は、少なくともロッキード事件における評価については、田中角栄と絡んでからどのような行動をしたか、ということに照準を当てないと見えてこないだろう。

 

参考文献

「戦後政治裁判史録5」 第一法規 田中二郎・佐藤功・野村二郎 編

「航空機疑獄の全容-田中角栄を裁く」 日本共産党中央委員会出版局

「ドキュメント ロッキード裁判」 現代司法研究記者グループ 学陽書房

「小説GHQ」 梶原季之 光文社

Wikipedia 小佐野賢治

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