政府・与党が大企業のベンチャー企業に対するM&Aを促す検討に入ったという。財務省が反対するのも当然のことで、内部留保の活用を言うのならば、内部留保することのコストを上げて資金を研究開発に向けさせるべきなのに、減税によるインセンティブというのは明らかな逆噴射。より開発力のあるベンチャーの技術を買い取ることを減税によって支えると言うのは、企業内部の開発投資を抑えることで社内開発陣のやる気を削ぐと同時に、ベンチャーも中途半端な技術を大企業に売り抜けるところまでを目標設定の範囲とし、総合的な開発力をスポイルすることになる。活気のあるベンチャーがやれるところまでやってやっと見込みが出てきたものを、減税がなければ出資しないというそれよりもかなり消極的な大企業が買い取ってうまくいくとは到底思えない。この政策の帰結は、大企業がベンチャーに技術を売り渡すよう圧力をかけることを促進し、自己開発力よりも他社依存型の研究開発を主流とすることとなり、むしろ技術革新を停滞させるだろう。組織が組織を所有するというタコ足組織を推進するよりも、組織のフラット化によって組織自体の開発力を上げることの方が組織を活性化するだろう。利益を基準に行動する株式会社制度における企業による株式保有というものに意味があるのか、ということが問われているのだろう。
大企業という体力のある組織がやるべきなのは、ベンチャーでは実現できないような長期スパンの開発、あるいは大規模なプロジェクトを主体的に行うことであり、それをせずに内部留保をため込むだけの企業は、そもそももはや存在価値を失っていると言っても良い。社内開発の利益率よりも外部開発の利益率の方が高いと認めるのならば、素直にその組織の非効率性を認識して組織を解体するのが、市場にとっても、社会にとっても、その組織自体にとっても望ましいことだろう。組織、特に大規模な組織にはその体制でなければできないことがあり、それは決して内部留保を積み上げることではない。それを自ら見つけられないと言って外部に依存するのならば、税引き後内部留保をさらに減税で投資につなげるのではなく、税引き前に費用として支出すべきだろう。そこに二重で穴を開けるような制度設計はどう考えても非効率だし、利権の温床以外の何者でもない。
今政府のやるべきことは、そのような非成長的な方向に企業を導いた法人税減税という政策の失敗を素直に認めることだろう。法人税減税の結果として内部留保が積み上がりました、困ったからもっと減税して使ってもらいます、などというのは何を言っているのか全く意味不明である。政府が企業行動を変える力があると考えるのならば、財政危機下に減税という手法で間違ったインセンティブをつけるのではなく、困っているので使わないのならば負担をお願いします、と言って、積極的にその休眠資産を活用する仕組みを作るべきなのだろう。休眠資産がコストであるという認識が共有されているのならば、そのような休眠資産を積み上げることにインセンティブをつけていることの意味をまず考えてみたらどうだろうか。