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【ロッキード事件】コーチャンの思惑5

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  • starai
  • 2021/07/09 10:58

福永一臣

最後に福永一臣だが、福永に関しては、ロッキードで自ら証言を行おうとしたと言うことで、無罪であることを確信しているからそういう行動に出たのだろう。なぜこの目立たない、地味な人物が献金の対象になったかと言えば、妻の弟が後に毎日新聞社長となったと言うことと関わりそう。このあたり、妻の話も全然つじつまが合っていないので、どこまで突っ込むべきか見当もつかないが、問題なのは、妻よりも妻の弟の勤務先毎日新聞の方であろう。

この時期の毎日新聞は、非常に政治的な行動が目立つ。まずは46年に西山事件が起きる。毎日新聞記者の西山太吉が外務省女性職員と関係を持った上で機密を持ち出す、という事件だ。機密の内容は、沖縄返還に関わる土地の現状復帰費用を日本政府が負担するという密約だった。とは言っても、これは不思議なことだらけだ。まず44年11月21日に佐藤とニクソンの共同声明で核抜き本土並みの沖縄返還が発表された。そして、これは平成22年になってから公開されたものだが、同年の12月2日に柏木雄介財務官とアンソニー・J・ジューリック財務省特別補佐官との間で作成された、通称「柏木・ジューリック文書」と呼ばれる日本の対米支払い総額に関する文書で、アメリカの27年間にわたる対沖縄総投資額にほぼ等しい総額6億8500万ドルの支払い合意書が交わされたという。普通の交渉ごとで、合意内容が発表されてから細かい内容の合意がなされるというのは考えにくい。しかも、沖縄返還と共に通貨は円となるので、資産買い取りや役務提供など、基本的には円建て表示にならないとおかしいが、合意書は全部ドル建てで、しかも金額が対沖縄総投資額とほぼ等しいという。これは、返還の前年8月15日のニクソンショックによって変動相場となったことで、360円の固定相場でなされた投資が円建てになることでドルベースで差益が出るということがあり、その差益を使ってアメリカ国内で反対が大きかった基地に関する出費の帳尻を合わせたという事ではないかと考えられる。理論的には沖縄に属するはずの為替差益を用いてアメリカ予算の穴埋めをしたという点では、問題は残るのだろう。ただし、日本政府の予算上の支出があったかと言えば、それはおそらくなかったのではないかと考えられる。しかも、実際にアメリカ政府から生じたであろうその支払いは結局沖縄の地権者ら、その資産の保有者の下に帰属することになったわけで、実質的にはなにもなかったことを、アメリカ議会への説明のために文書化した、というだけのことだと言える。その意味で、政府間で言えば密約はなかったという事になり、そうなると総理には責任はないだろう。あるのは実質的にはありもしない財源を文書化により絞り出した大蔵省であり、担当の大蔵大臣であった福田赳夫の責任であると言える。それは同じ時に公開された他の資料である46年6月付の吉野文六外務省アメリカ局長とアメリカのスナイダー駐日公使との間で作成された文書2点の担当閣僚が外務大臣であった福田赳夫であると言うこととも符合する。密約は、あったとしても福田赳夫の独断でなされた、と考えるべきで、それを政府間の密約と呼べるか、と言えば難しい所なのであろう。これが密約問題の正体であると考えられる。

では、その後の情報持ち出しについての経過を見てみたい。細かい部分は省略するが、46年5月に西山が女性記者と関係を持ち、資料持ち出しを依頼、その後署名記事まで20日、関係解消まででも1月余りで十数回に亘って機密文書の持ち出しというのは、ちょっと現実的には想像しがたい頻度であると言える。そして、上記の吉野局長名の文書は、西山の署名入り記事が出た日付とその翌日付になっている。土地復元費用に関しては翌日付である。会談内容の電文を受けて成文化して局長と駐日公使の間で合意文書が発行されたという事ならば、一応の説明にはなるが、密約をその場ではなく電文で送って合意当事者ではなく代理で成文化する、ということで、密約の効果があるのかどうかもよくわからない。ここで問題なのは、この密約があった時期は、ニクソンショックの前であり、当局者はそれがあることを知っていたのか知らなかったのかはわからないが、それによっては、合意に基づいて実際に支払いがなされた可能性もある、と言うことになる。感覚的には、44年の文書の日付がいわゆる沖縄解散による第32回衆議院議員選挙の投票日と同じであることを含め、金額や日付ができすぎていることから、公開された文書は事後に作られた偽文書ではないか、と考えるが、それはアメリカ公文書の信頼性に関わる問題となるので、アメリカ側としては絶対に認めることはないだろう。なぜその時期にそのような文書が出てきたのか、というのは、非常に現代的にスキャンダラスな話ではあるが、それはロッキードとは直接関わらないので触れることはしない。

その後西山記者は得た機密情報を社会党の横路孝弘議員と楢橋弥之助議員に渡し、47年に国会での議論へと発展してゆく。それは、沖縄返還を花道として佐藤が退陣するのにつながってゆく。

裁判では、女性事務官が罪を認めたことから、機密持ち出しについては裁判の争点とはならず、西山記者の機密持ち出しの教唆に焦点が定まった。彼は結局公務員法違反教唆で有罪が確定するが、それにもかかわらず、後にアメリカで文書公開された時には、違法に起訴されたと主張して損害賠償を請求すると言うことまでしている。関係を持ったことは事実で、それを基に資料持ち出しをそそのかしたのである以上、一体何が違法な起訴なのかよくわからないのだが、とにかく、国家の安全保障に関わる裁判としては余りにお粗末なものであった。この西山という記者、それ以外に何か話があるかと思えば、なにもなさそうで、本当に新聞記者であったかも怪しいのではないか、と個人的には考えている。いくら何でも、外務省の職員が、相手が新聞記者だと知った上でそこまで勝手気ままにもてあそばれる、という事はあり得ないのではないかと考えるのだ。まあ、裁判結果まで含めて全て合意の上だった、という可能性もあるが、それでは女性事務官にとって余りに失うものが多かったのではないか、と直感的には感じる。本人が実名を出していることを含め、男女の関係については傍目からはわからないので、実際のところは何とも言えないが。

そして、もう一つ、同じ46年7月に、重宗参議院議長が四選に挑戦した参議院議長選挙があったが、同じ自民党から重宗に批判的な河野謙三が立候補し、更に党内分裂を避けるために重宗が引いた後も河野は引かず、結局重宗が後継に指名した木内四郎に対して河野が野党と結んで勝利し、非自民の参議院議長が誕生した、ということがあった。重宗は佐藤とは余り関係が良くなかったようではあるが、結果的にはこれは佐藤政権にとっては大きな打撃となり、第32回衆議院議員選挙の圧勝の勢いが、4月の都知事選の敗北ともあわせ、完全に収まってしまった。この議長選の際、毎日新聞で河野番を勤めていた三宅久之が河野謙三のために積極的に動いたようで、後に河野から時計を受け取ったという。三宅はロッキード事件が発覚した後に毎日新聞を退社し、フリーの政治評論家となって影響力をふるうことになる。そして、三宅が西山の直接の上司であったという事から、機密持ち出しのためだけに西山を雇って関係を持たせたのではないかという疑いは避けられない。毎日新聞は三宅が退社した後に経営危機に襲われ、新旧分離での再建に至っている。三宅が佐藤政権を倒すために、西山、そして毎日新聞自体を鉄砲玉として使ってその野望を果たしたともいえそうだ。

このように、毎日新聞は田中政権樹立のために積極的に動いていた。その背景には、毎日新聞は戦時中に南京での百人斬りの記事を出しており、中国との国交正常化によってそのカードが生きてくると言う見通しがあったのだと考えられる。だから、日中国交正常化に積極的な田中に肩入れして、政局を動かしてゆこうと考えたのではないかと考えられる。

中国との国交正常化と言うことになると、1971年(昭和46年)7月には、いわゆるアルバニア決議と呼ばれる、中華人民共和国政府の代表権回復、中華民国政府追放、の決議案が提案され、それに対して佐藤と外務大臣に横滑りしたばかりの福田赳夫は「中華人民共和国の国連加盟には賛成するが、中華民国の議席追放には反対する」とした基本方針を発表し、9月22日、内閣総理大臣佐藤栄作は「二重代表制決議案」および「追放反対重要問題決議案」を共同提案する方針を示した。これに対して外務大臣福田赳夫に対する不信任決議案が提出され、自民党から河野洋平や田川誠一などが欠席するという事態となった。結局10月にはアルバニア決議案が採択され、佐藤政権はますます求心力を失うこととなる。

なお、福田に関しては、自民党が圧勝した第32回衆議院議員選挙の直後から、福田赳夫への政権禅譲の噂が流れたとされる。要職にありながら、佐藤を揺さぶり続けていたと言えるのだろう。アルバニア決議案に関しても、外務大臣である福田をある程度信用して走ったが、福田の方は最初からはめ込む気満々だったという事なのだろう。そんなことがあって、福永の妻齋藤美津子は、福田の紹介で結婚した、という時系列的には疑問が残ることを公言し、証拠としてその名前を残そうとしたのだろう。

一方で、これはまた後から触れるが、ロッキード事件自体は朝日新聞によって主導されており、逮捕起訴された橋本登美三郎は朝日新聞出身で南京大虐殺について否定的な見解を示している。つまり、ロッキードに至る政局において、毎日新聞と朝日新聞の間で報道主導権争いのようなものがあったことが考えられるのだ。主導権争いと言いつつ、毎日は内部から三宅が毎日つぶしに走っている状態だったので、毎日を鉄砲玉にして佐藤政権、そして自民党自体をぶっ壊してしまえ、という流れはあったように感じられる。その動きに沿って、福田の不信任決議案に欠席した河野洋平と田川誠一は、ロッキード事件で大久保らが逮捕された3日後に自民党を離党して新自由クラブを結成したのだと言える。その流れにつながる道を示すという点で、福永への献金というのは橋本へのそれと対になっているのだと言える。

 

参考文献

「証言河野謙三」 証言河野謙三刊行委員会 毎日新聞社

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