これが本当の最終回、前回に続く「BOSSを深める(最終回~その②)」
という名コピーが生まれた瞬間です。
さて、まずはこの方の紹介から始めていきましょう。
写真だけを見てピンと来た方は業界の人くらいでしょうか。あとは、バンキシャを普段からご覧になっている視聴者の方はコメンテーターとしてご存じかもしれませんね。そう、この方が「宇宙人ジョーンズ」シリーズを作った福里真一さんです(正確にはシンガタの佐々木宏さんがクリエイティブディレクター(CD)で福里さんはプランナーという立場で制作)
福里さんはご自身のことを「電信柱の陰から見てるタイプの人間」と評するような方で、地味で暗くて人付き合いが苦手で気弱、という性格とのこと。
そんな福里さんが制作される「宇宙人ジョーンズ」ですが、現在まで続く人気シリーズとなっているものの、発表当初は順風満帆ではなかったというのが驚きでした。福里さん曰く「空恐ろしいほどの無反響・・・」。しかし、シリーズが進むにつれて知名度が上がっていき、八代亜紀の「舟歌」にジョーンズが涙する回で一気に話題となったようです。(引用※1)
そんなBOSS「宇宙人ジョーンズ」のキャンペーンについて書いていきます。
先ずはこのキャンペーンの始まりについてです。とても面白いです。(各エピソードについては福里さん著の以下の本を参照しております)
二〇〇六年の一月四日、お正月が明けたばかりの日に、電通の当時のサントリー担当営業、仮にアベシゲさんとでもお呼びしますか、その方に呼び出されました。場所は、青山骨董通り沿いのスターバックス。(同書より)
スターバックスだったんかい、というね。しかも「BOSSでACCのグランプリ取ってください」とかアサインの段階で言われるとか怖すぎですね。ちなみに、クライアントからのオリエンの内容は以下のようなものだったらしい。
「あらためてBOSSのブランドCMをきちんとやりたい」
「見た人が元気づけられるようなCMにしたい」
我々が日々受けるオリエンというのは、「商品の認知度を高めたい」「アプリ100万ダウンロード達成したい」というようなものが多数で、サントリーもそういうオリエンを沢山していると思うのです。しかし、新商品を投入するにあたり自社の商品のことだけでなく、見た人を勇気づけるという表現である意味広く社会に対するインパクトというのを考え広告会社にオリエンできることが、サントリーが広告を通じて社会とどう向き合っていきたいかを感じる良い瞬間に思う訳です。
普段色々な広告に接していると「この企画はどのように思いついたのだろうか?」と疑問に思うことが多々あります。「宇宙人ジョーンズ」然りです。
企画の着想のポイントについて福里さんはこう仰っていました。
ニュース番組の逆、みたいなCMにしたらどうか、と思ったんですよね。人間の醜い部分ばかりを集めて報じるのがニュース番組だとしたら、人間のバカバカしいけど愛せる部分とか、そうは言っても捨てたもんじゃない、という部分を報じるようなCMをつくってみたらどうか、と。(同書より)
前回の記事でご紹介しましたが、BOSSのCMで以前ペンギンを使ったCMがありました。
その時に、人間について報じるのが、人間自身だとなかなか客観的な報道もできないでしょうから、人間以外がいいな、と。そうるすると、動物か宇宙人ぐらいしかいないわけですけど、動物だとやっぱりどうしても、缶コーヒーを飲むときに、毛が邪魔になりそうな気がする。だったら、宇宙人か、と思い「宇宙人による地球調査」という企画が生まれた訳です。
なるほど、消去法。。。リアルですね。缶コーヒーを飲むときに毛が邪魔になりそうだからダメとか、その思考が面白すぎる。
実際のプレゼンでは「宇宙人案」はB案として出されたようです。「なんで缶コーヒーのCMで、宇宙人が地球調査してなきゃけないの?」というような話もあったようで、A案では日本のBOSS待望論をテーマにした企画で出したとのこと。結果はサントリーさんがB案で即断。すごい。。
上記のような疑問って、よくある話なんです。
ロジカルに話を詰めていくと商品と企画の繋がりというか必然性というか、そういう繋ぐ線のようなものがどうにも見えてこないから(いや、見えている人には見えている)、BOSSなんだから新しい日本のボス像を提示しようとか「あ~それだったら分かるかも」的な話に着地しがちです。
けどA案で進んでいたらここまでのヒットにはならなかったでしょう。ちなみにA案っぽいCMも後に作られているのですが、こんな感じになってたのかなぁ。分からんけど。
そういうのもあるんだなと思わせるエピソードがあります。BOSSの企画が始まる際、「ACCのグランプリを取って」との依頼もあったと書きましたが、リリース直後の3本を出品したところ一次審査も通らなかったとのこと。あったんですね、そういう時期が。
人気が上がらずに潜伏していた期間が約半年。半年の間もテレビにはそのCMが流れている訳で、クライアントからしたら「CM流してるのに反響が全然ないねー(そろそろ打ち切り?)」的な雰囲気を出してくるわけです。当然ですよね。クライアントの仕事はCMを通じて商品の魅力を高めることですから。
福里さんも著書で書かれていらっしゃいますが、CMは結果が出ないとすぐに打ち切りになります。そしてコンペになります。競合代理店からしたら、「他店のCMなんてコケてしまえ!」なんて思ってらっしゃるかもしれませんが笑(基本、性悪説なので)。サントリーさんはそこを我慢したうえで継続という決断をされた。その胆力たるや凄まじいものだと思います。
そしてようやくシリーズ4年目にACCのグランプリを受賞されました。本当におめでとうございます!
このCMが流れたのは2008年。当時、2000年から2005年にかけてNHKで放送されていた「プロジェクトX」が人気でしたが、その内容を思い起こさせる内容でした。それに、2008年はリーマンショックが起きた年でもあり、日本全体が暗く沈みそうだった時でもあります。そんな時期にこのCMは、まさにオリエン時に求められた「見た人を元気づける」という役割をしっかり果たしたのだと思います。CMって素晴らしいな。
是非そういった背景も踏まえ、1作目から通しで見て頂きたいと思います。
中島みゆきの歌のせいか、ナレーションのせいか、何だか分からないが泣きそうになる。ふとCMが見たくなり、見ると泣きたくなる。そんなCMあるでしょうか?
缶コーヒーBOSSは働く人の相棒をコンセプトに発売されました。最近のCMを見ていくと職業に幅が出てきた。
・トラックドライバー
・溶接工
・警察官
・鯉の養殖業者
・野球の用具係(元プロ野球選手)
・教師
・駅員
・テレビ局員
・医師
・マンション管理人
むかしはサラリーマン一択だったのが、CMで取り上げる職種もこれだけ多様性が生まれてきています。個人的にグッとくるのは、マンション管理人篇です。
いまのBOSSは、働く人の相棒から一歩進化して「名もなき人に寄り添う相棒」というのが私の印象だ。現代インターネット社会、多くの人がSNSやらYouTubeやらで突然注目を浴びて何者かになり注目をされていく時代になった。一方で、何者にもなれずにこれまで通り普通に日々を過ごしている人もいる。むしろそちらの人の方が大多数だ。
しかし、その普通を維持するのでさえとても厳しいのが現実でもある。
そういった人を、生き様を、CMを通じて描いてくれるのがBOSSのCMであると私は思う。NetflixやAmazonPrimeなどお金さえ払えば映画もドラマも見放題だし、YouTubeにアクセスすれば素人からプロまで色々な人が作った動画に気軽にアクセスできる。けど、月額料金が必要だったり、見たい動画を探すのが難しかったり、それはそれで大変だ。
テレビCMはいまやスキップされるし、邪魔だと言われて久しい存在であるけれど、BOSSのCMのように素晴らしいものだって沢山ある。
何気なくテレビを観ているとき、ふと目に飛び込んでくるCMに心を動かされる瞬間というのを私は何度も経験している。それは広告会社で働いているからという訳ではないと思う。ひとつの時代に、BOSSのようなCMが1つは必要だと思う。
私はクリエーターではないけれど、これからも、そういうCMを1つでも多く作れるよう広告業界に貢献していきたいと思う。
<参考資料>