時計を好きになりたいすべての人のために。
『腕時計ロマンチシズム概論』絶賛公開中!※インスタグラムもやってます。
❖❖❖❖❖コラム「時計✕〇〇」論❖❖❖❖❖
時計を時計としてだけでなく、他の何かと組み合わせて考えてみましょう。誰かが時計を腕にしようと思わなければ、僕は生まれなかったかもしれないのだから。
正確に言うと、今夏に銀座のブティックでお支払いして、気長に入荷を待っていたら、意外と早く11月にスイスからやってきて、今僕の手首に鎮座している次第です。
あっ、今日は珍しく、というかALISとしては初めてなレベルで真面目なコラムでございます。本来ならガン治療に役立つレベルで笑いを巻き起こし続ける男みちる、生まれながらの人間ナチュラルキラー細胞としてのパーソナリティは今日だけは封印させてください!さようなら!
さて、僕が購入したのは、ルミノール ドュエ 3デイズ オートマティック アッチャイオ 38mm(Ref.PAM903)。2018年のSIHH で発表された新モデル(?)です。今となっては2019年のジュネーブサロンもちょうど閉幕したところですが、うん、市販されてるモデルとしてはまだ新しいのだ。
このモデル、パネライにとって大きな挑戦だったことは間違いありません。それは「デカ厚」ブームを巻き起こした、デカ厚のパイオニア的な時計メーカーにとって、初の「38mm」というケースサイズの意味する所によります。
パネライが起こしたブームを詳しくは書きませんが、現代の時計が40mm以上で違和感ないことも、レディース時計においてもケースの大型化が進んでいることも、無関係とは言えませんね。イタリア海軍に採用された丈夫でゴツい男の時計、それがパネライという社会の理解でしょう。
ですが昨今、むしろ小型化というトレンドも存在します。(背景は大型化の反動だったり中国景気減衰の影響だったり様々と言われます。)ある意味でパネライはそのトレンドに乗ったことになります。この「戦略」に対して、パネライファンの間で物議を醸しているのです。
デカ厚のパネライにこそ価値を感じてきた人は、「なんで今更…」「ブームに迎合するのか…」という残念な思いを抱えることになっています。
他方、僕の考えでは、むしろデカ厚の代表だったパネライというメーカーが「あえて発売した小型なモデル」という点に、チャレンジングな姿勢や面白みを感じるのです。機械式時計業界においては、何より尊重されるのは積み重ねてきた伝統です。が、僕は(僕だけじゃないとも思いますが)それを踏まえて更に新しいことに挑戦できるメーカーが好きだったりします。(そうじゃない人も大勢います。)
あと、僕は手首が細いので、自分がつけてもおかしくないサイズ感と可愛らしさに完全にやられました。
ここで考えてみたいのは、パネライという時計メーカーがとったブランディングの戦略についてです。
まず、ブランドの4資産と呼ばれている要素があります。それは以下の通り。
理論に当てはめて考えてみると、短絡的ですがこう思います。(あくまで僕の推測!)
パネライは、そのブランド資産において「認知」と「連想」を拡大しようとしました。38mmのモデルを出すことで、今まで購入の対象にしなかった、あるいはできなかった層に訴求して知られることができ、また「こんな可愛いモデルも作ってるんだ~」等とイメージの拡がりを感じさせることができます。
一方、新モデルが小型化の分だけスペック(防水性等)を落としていたり既存のイメージとそぐわないと思われたせいで、「知覚品質」と「ロイヤルティ」が低下した可能性があります。
次に、ブランドを強くする4原則というものが存在します。
パネライが今回とった戦略を今後より良い方向に進めていくため、先の4原則に基づいて言えることって何かなぁと考えてみました。
「限定性」:現時点で生産本数は年2000本と言われているので、そのあたりを今後どう見せ、どう展開していくか。そもそもスイス時計の価値の源泉でもありますので、「安売り」「多売」感を与えないような注意はしてほしいものです。
「独自性」と「継続性」:デカ厚というオリジナリティを損なうと捉えられた所を、むしろパネライの新しい、もう1つのオリジナルなんだと説得していく必要があるでしょう。その点、パネライが進めているモデルの整理の中で、「ドュエ」(薄い・小さいシリーズ)は存在感を増していくらしいので、その文脈の中で魅力を発揮していってほしいです。
「同時代性」:この点ではむしろ遅いくらいですが、ここで例えばファッション的な・モード的な色合いの強い業界や企業とのコラボレーションで何かを打ち出すのはどうでしょうか。永続性や伝統性に立脚する時計業界との対比(真逆!)という意味においても面白い未来が見られそうな気がしませんか?
そんなパネライ、日本では反町隆史さんを起用してさらなるブランディングを計画しています。先日パーティで見た実物の反町は、まじでめちゃくちゃカッコよく、パネライのイメージにもぴったりだったのですが、デュエの打ち出し方については次の一手をますます期待してしまいますね!(パーティについてはまた今度書きます!)
以上、僕なりの考察でした。知識がないなりに、浅はかなりに、ロマンに浸ってあーだこーだ妄想するのも、また1つの時計の楽しみ方だと思ってます。